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AI選択バトル将棋の可能性

先日、「ビデオゲームの美学」(松永伸司)の読書会の後に「AI選択バトル将棋」を作ってくださいよーという話になった。

そこでも色々話したのだけれど、リアルタイム口頭でのお話だけだったので、改めてそこで話した 自分の考え を整理してまとめてみる。

誰に何をさせたいゲームなのか

  将棋が分からない人のための、AI選択だけで将棋が打てるゲーム
   ①いずれ自分で打てるようになって欲しい
   ②AI選択が楽しく、続けられる

今井さんのイメージしているのは上のようなゲームかなと想定して話をしていた。
ココが違っていたら、これ以降の事は変わってしまうのだけれど(笑)、一つの方向性としては十分ありうる設定だと思うので、このまままとめてみた。
仕事としてゲームを作るときは、ココを何度も何度も何度も確認して、すり合わせながら作るのですぞ。

①を実現するには、正しく手筋を打つAIが必要。
しかも、初心者にその手の狙いが分かる or 説明することが必要。


 これは大変難しい。
 プロの将棋解説を見れば分かる通り、その手を解説するために何手も動かして、「ココでこうした時にこうなるから、今こうしたんですね。」という事がほとんど。つまり狙いは何手も先だったりする。
それを説明なしに分かる人にはもはやAI選択は要らなかったり、既にある将棋ウォーズの棋神解析だったりする。
 初心者向けに、対局中に説明するのはリアルタイム性を維持するのが結構厳しい。
かといって、終わってからの解説では将棋ウォーズとの差別化が弱い。
 もちろん将棋ウォーズにさえXAIと呼ばれるようなその時の選択を自身で説明できるAIは搭載されておらず、その差し手の狙いは初心者には分からないだろう。それくらい狙いを伝える、説明するって難しい。

②は実は思っているより難しかったりする。
ドラゴンクエストIV(ドラクエ4)の『AI選択』=「さくせん」が成立したのは、

 (a)AIを切り替えると目に見えて行動が変わる。
 (b)AIを使うことがそもそも便利。面倒さの軽減。
 (c)選択したAIと結果に納得感があった
 (d)そもそもAIが珍しかった。

から。特に(a)(b)(c)の3つが大きい。
 言うまでもなく、将棋は見た目の変化に乏しい。
その手が攻撃的か、欲張った手か、手筋か、などは初心者には分からない。
エフェクトなどで補う事は出来ても、結局納得感がない。
ので(a)を達成することが厳しい

 (b)は将棋でも成立しうるけれど、ドラゴンクエストIV(スクウェア・エニックス)でそれが成立したのは、AIによる戦闘が主にレベル上げという面倒な作業の負担を軽減するためだったから。
将棋の対局は、それこそ自己目的的行為(「ビデオゲームの美学(松永伸司)p.173」)であるので、
便利さのために将棋AIを使う人は少ない可能性がある。
 また、序盤の囲いの部分だけAIにやらせたい。といった使い方は、要求としては理解するけれど、相手が急戦などで対抗してきた場合に、何も考えずに囲い続けていてはプレイヤーに不利益になるし、それを検知したからといって停止していては、便利さが失われる。
そして対象としている初心者には、囲いを中断するタイミングを判断するのは難しい。
そもそも、判断基準を厳密に自動検知するのはたぶんAI技術的にも難しい。

 レベル上げ目的のAI使用は、将棋ウォーズでいう段位上げのための棋神使用だし、負けたくない時の必殺技としてのAI使用も、段位達成or維持(たまにその局自体に負けたくない気持ち)が目的なので、将棋ウォーズとの差別化が難しくなる。

 そしてゲームに大切なのは、(c)の結果に対する納得感があること。
 ドラゴンクエストIVでは、「ガンガン行こうぜ」を選びすぎてると回復がおろそかになって死んでしまったり、MPが枯渇したり、
「いのちをだいじに」し過ぎると攻撃がナカナカ進まなかったり、回復リソースが枯渇したりする。
が、そうなった原因となる行動が明確だ。(魔法を乱発、アイテムを使用しまくる、など)
そのお陰で、選択したAI(さくせん)と結果に納得感がある。
 将棋AIで囲いの種類や、攻撃的・防御的を任意に切り替えたとして、
目に見える結果となるのは勝敗か、駒の損得。囲いの完未完、攻めの成立不成立くらい。
初心者に分かるのは勝敗、ギリギリ駒の損得、とすると、それの原因となった手となぜAIがそれを選んだかが、プレイヤーに伝わるのはかなり厳しい。
さらに、

そもそも、『AI選択だけで面白いゲーム』というのは、将棋に限らず、かなり難しいと、個人的には思っている。

それはゲームが自己目的的だから
AI選択が簡単であればあるほど、目的から遠のいてしまう。
ボタンは押さない(『ビデオゲームの美学』(p.175))のだ。

だから、「AIを選択する行為」を「ボタンを押す行為」ではなく、「目的に近づくための面白いプロセス」としてデザインすることになる。

しかし、「プロセス化=納得できるほどの負担を強いる」と初心者には向かなくなってしまう。
そのあたりのバランスが難しいことを証明しているのがカルネージハート(アートディンク)だろう。
FF XIIのガンビットシステムあたりは、便利さと複雑さの良いラインを探っていると思うけれど、
やっぱり多くの人に新しい面白さを提案しているというよりは、便利機能側なイメージがある。
(個人的にはカルネージハート大好きですけどね。)


これまでに挙がった課題を解決するために、色々な部分をズラすことで成立させる方法なら可能性はあるとは思う。

  将棋が分からない人のための、AI選択だけで将棋が打てるゲーム
   ①いずれ自分で打てるようになって欲しい
   ②AI選択が楽しく、続けられる

(i)時間制限を解決する
 初心者でもしっかりと狙いをいつでも確認できるようにする。
 『AIの狙いの説明』のための時間制限を取っ払うために、NPCとの対戦を中心とする。
 その上で、こちらの方がハードルが高いのだけれど、
AIが自分の手の狙いを”しっかりと”説明する新しいAI技術を開発する。今はやりのExplainable AI (XAI)。

(ii)ターゲットを中級者以上に変更する
 AIを切り替えてもその変化に納得感がないのは、プレイヤーがあまり知識がない初心者だから。
 ターゲットを中級者以上とすれば、エフェクトの変化などに対する納得感も変わる。
 (a)や(c)の理解、納得感も高めなので成立するかもしれない。
 (b)のAI行動を中断させたり、切り替えるべきタイミングも判断できるかもしれない。

(iii)AI選択が面白いゲームとして成立させる
 (ii)で書いた通り、ターゲットを変更すれば、ある程度可能だろう。
 「AIを選択する行為」を「ボタンを押す行為」ではなく、「目的に近づくためのプロセス」、それ自体が目的となるように、そこに工夫の余地や駆け引きが生じるように変更するのだ。
序盤、中盤、終盤に選択されるAIを"事前に"指定したり、(そもそも序盤、中盤、終盤を判定するAIが必要になる気もする…)AIが切り替わる条件を"事前に"指定しておくようにすれば、時間差が生まれ、予測と工夫が入り込む。カルネージハート、ガンビットシステム的なAI作成将棋ゲームになるだろう。
 ただ、マーケットはどうしても狭くなってしまう…かもしれない。
 そうなると将棋にこだわることが必要なのかどうかも考える必要が出てくる。

 リアルタイムに「ガンガンいこうぜ」「玉を大事に」という指示を切り替える形でも同じようにAI選択が面白いゲームにはなる可能性はある。しかし、選んだ作戦の結果が数手先という将棋の性質が、AI選択の結果が現れるのを遅らせてしまうという相性の悪さは突破しにくいように見える。

以上から、”初心者向けの”AI選択将棋バトルゲームはちょっと厳しいかなという感想
を、僕が頑固なので(笑) なかなか譲らなかったら、冒頭のような今井さんの感想になった模様。当然の反応だと思うけれど。

もちろん、作ろうと思えばそこそこ作れると思うし、好きな人は好きなゲームにはなると思う。
個人的には全然良いゲームになると思うけど…ビジネス的な絡め手が必要かも。

この中で難しいけど面白いなーとおもうのが『AIの狙いの説明』。
ディープラーニングによって大きく進んだAI技術だけれど、その中身がブラックボックスで、何が起こっているか、なぜそうなっているかが説明できないことが近年のAI技術の課題となっている。
最近、何度もいろんなところで言っているが、

将棋を題材として、AIが何を考えているかを説明するAI(XAI)を研究する

というのは良い手筋だと思っている。

【画像素材】
古く使い込まれた将棋盤と駒のフリー素材 https://www.pakutaso.com/20130659162post-2908.html

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