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1-1 Agilityとはなにか

この節の要点

・Agilityとは、組織を構成する一人ひとりが、組織の戦略に合致した自身でその場の状況を解釈し自律的に意思決定を下し、しかもその方向性が組織の目標に合致したものであることを指している。
・ソフトウェア経営はAgilityの達成のためにある。

Agilityという言葉を聞いたことがあるだろうか。

ソフトウェアエンジニアやプロジェクトマネージャの皆さんはアジャイル開発やスクラムなどの開発手法の学習や実践の中で触れる事があるかもしれない。アジャイル開発といった手法は、乱暴に言えば細かな期間の中で計画し実行し振り返る、という形式を取ったプロジェクト推進のフレームワークだと言える。そうしたフレームワークの中で触れるAgileと、本書で述べたいAgilityとは若干ニュアンスが違うものだと自分は考えている。もちろんアジャイル開発系のプラクティスの目指す先は同じだとも思っている。

私はDMMという組織をテックカンパニーに改革するというミッションで2018年10月に入社した。その改革の中でAgilityという言葉を再三社内で発信してきた。社内に対して制定したValueの中でも1番最初に来るのはAgilityであり、技術的な取り組みの多くはこのAgilityに貢献するものであるべきだとも伝えてきた。私にとってこのAgilityという言葉はそれだけ重要な位置を締めており、この改革の根幹とも言えると考えている。

ではAgilityとはなんだろうか。

このAgilityという単語は直訳すると敏捷性となる。敏捷と聞くと、素早く動く、細かく反応するなどのイメージを持たれるかもしれないが、自分がAgilityを伝える時、仕事の素早さそのものという意味は余りイメージしていない。また、単なる細かなPDCAサイクルのことそのものでもない。自分にとってのAgilityは、メンバーの一人ひとりが自身でその場の状況を解釈し自律的に意思決定を下し、しかもその方向性が組織の目標に合致したものであることを指している。少々定義が長いが、分解すると「各々が自律的に意思決定」することと、「意思決定の方向性が自然と揃っている」ことの二つが重要である。

「各々が自律的に意思決定する」というのは分かりやすい概念だ。例えばあなたがとある事業部に属しているとして、あなたの担当するチームに課題が持ち上がってきた。この時、どういった行動をとって解決するだろうか。自律性の高い組織では、自身でその課題を理解し、与えられた範囲内において自らどのように解決するか立案し意思決定し実行する。上司に報告し決めてもらうではなく自身で決める。組織構造が人と人のコミュニケーションを必要とする局面の多い作りになっているほど意思決定スピードは低下するが、意思決定を社員一人ひとりに委ねられるようになれば当然素早い行動につながる。もちろん、この時全体最適性や解決策の精度、失敗した際に与える事業ダメージなど様々なトレードオフがあるだろう。だが、確実に課題に対しては「失敗した」「上手くいった」どちらかの知識が残り前進している。

「その方向が自然と揃っている」というのは、少し補足が必要かと思われる。通常、人々が独立して意思決定をした場合、その方向性はバラバラになることが容易に想像される。しかし、各個人が独立して意思決定しているにも関わらず、その方向性が揃ったとしたらどのような事象が観測されるだろうか。スピードと品質が高いレベルで実現されるであろうことは理解いただけるところだと思う。

この概念は新しいものではなく、OODAループをご存知の方であれば、まさにOODAループの中で語られている要素そのものである。OODAループの中でも、Orient(方向づけ)という概念の中で同様のことが語られており、まさにAgilityそのものであると考えている。Orientとは文化やこれまでの経験・知識をベースに現状を観察して得られた情報から意思決定の方向づけを行う過程である。そもそものOODAループは、迅速で個別に意思決定することを要する軍事行動の研究の中で生まれたものである。全体の戦略に合致した行動を、しかも生死のかかった瞬間瞬間で常に意思決定し続けるというタフな環境の中での意思決定ロジックだ。そのロジックにおいても「方向を揃えていく」という過程が重視されており、これを達成することを一つの目的としている。まさにAgilityそのものの追求過程である。これは会社組織に置き換えれば、メンバーひとりひとりが自分で意思決定をする中でも全社戦略に沿っている、ということと同義だ。

また、ベン・ホロウィッツ氏が著書「What you do is who you are」の中で語る、組織の文化がもたらす効果の話もまさに「意思決定の方向性が自然と揃っている」ということなのではないかと考えている。素早く大きなスケールを成し遂げる組織においては、歴史のどのようなタイミングでもその組織におけるAgilityの高さが見られる。

繰り返すが、各メンバーが自分の意思で個別に意思決定する、しかもその意思決定が組織的に方向性が揃うこと、このAgilityを達成するためにソフトウェアを中心に据えた経営手法が存在していると私は考えている。


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