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なぜ早すぎる出口戦略を取ってはならず、金融緩和を続けなければならないのか。

私の日ごろの発言を知らない方々を対象に読んでいただくことを目的に書いています。いつもと同じことを言っているなと思われた方はどうかお許しください。

はじめに

日本経済は、ここ数十年間、成長の鈍化と持続的なデフレ圧力により、重大な課題に直面してきました。 金融緩和と財政刺激は重要です。わが国政府・日銀は現在の金融緩和政策を継続し、時期尚早の出口戦略を採用しろとするプレッシャーに抵抗しなければならないと私は考えています。ここでは、なぜ私がそう考えるのか、このスタンスの背後にある理由について説明し、一部の官僚や銀行などの金融業界といった特定の組織や業界の利益よりも、企業や市民の幅広い利益を優先する政策の必要性を述べたいと思います。

日本経済の現状と金融緩和継続の重要性

日本経済は、1990年代のバブル崩壊から、長きにわたり、政府日銀による金融政策と財政政策の失敗に大部分が起因する低成長とデフレを経験してきました。2012年の政権再交代以降、安倍晋三総理の下、日本銀行は量的緩和の導入、マイナス金利や資産購入などのさまざまな金融緩和策を実施して、経済成長を刺激してきました。日本経済が回復への道を歩み続け、デフレを脱却して賃金の上昇や景気の回復を可能とする2%のインフレ目標を達成するためには、これらの政策を維持することが重要です。

近年の政府の経済政策の成功例といえるのは新型コロナウイルスCOVID-19への対応だったといえます。パンデミックは世界的に大幅な景気後退を引き起こし、わが国でも雇用の喪失や事業の閉鎖につながりました。金融緩和と給付金を含む財政刺激策を通じた政府の対応は、完ぺきではないにしても影響を緩和し、経済を安定させるのに役立ち、危機における政策対応の重要性を示しました。

一方、失敗例としては、消費税の引き上げが挙げられます。政府は、2014年4月および2019 年10月に消費税を5%から10%に引き上げました。これにより、家計の収入は雇用の回復により上向きになったにもかかわらず、個人消費はむしろ減速してしまいました。このことは、特に景気回復が不安定な時期に、増税をはじめとする財政引き締めがもたらす悪影響を示しています。

早すぎる出口戦略のリスク

日本は金融緩和政策の出口戦略を検討し始めるべきだと主張する人も日銀OBやマスコミに特に多いのですが、時期尚早にそうすることはわが国に経済的破綻をもたらす可能性があります。経済が安定的に成長軌道に乗る前に、彼らが主張するようなペースであまりにも早く金融緩和を終了させると、経済活動が急激に縮小し、景気が悪化し、デフレ圧力が復活し、それに加えて、最近の海外の金融不安を反映してわが国の金融市場までもが不安定になる可能性があります。
2023年4月9日にこれまで日本銀行総裁としてかじ取りを行ってきた黒田東彦氏が退任し、植田和男氏が新たな総裁に就任しますが、経済が安定した持続可能な成長軌道に乗っていることを十分確認できないうちの出口戦略は絶対に避けなければなりません。

日本経済の成長と日銀の金融政策の役割

安倍晋三政権のよるアベノミクスの第一の矢、「日銀による異次元の金融政策」は、金融セクターなどの特定の産業の利益だけに焦点を当てるのではなく、日本経済全体の包括的な成長と安定を促進することをめざしてきました。これは、中央銀行は金融セクターのみでなく幅広い企業や市民に利益をもたらす政策を優先し、経済の回復が社会のあらゆる分野で確実に感じられるようにする必要があることを意味します。
日本が直面する課題に効果的に対処するには、金融政策と財政政策の両方を合わせて活用する必要があります。
「アベノミクス」は、異次元の金融緩和、財政刺激策、および構造改革に焦点を当てたものでした。個別の政策の有効性については議論がありますが、金融緩和政策により、雇用は増え、就職氷河期は今のところ再び日本を襲う兆候はありません。量的緩和や低金利、資産購入などの金融緩和政策は、総需要を押し上げ、経済活動を刺激するのに役立ってきました。そのことは企業の活動が刺激され、高い利益と雇用を生み出してきたことで明らかです。
一方、政府支出や税制措置などの財政政策は、地域振興や特定の産業や経済的弱者を直接支援するために使用できます。これら二つの政策ツールを組み合わせることで、政府は一つ一つの政策課題に対してより効率的な対応ができます。これらは日銀法と、政府と日銀の共同宣言によって定められています。

日本の経済政策を形作る上での公の議論と協力の重要性

最後に、行政と立法を含む政策担当者、経済学者、企業、国民が日本の経済政策についてオープンで協力的な対話を行うことが不可欠です。「省あって国なし」とか「昔、陸軍、今、〇〇省」と揶揄されるように、現在の霞が関官僚や旧日銀官僚はともすれば、天下り先の利益のみを考えるなど自己の組織的利益を追求しがちです。民主的なコントロールの下で、学問的裏付けを持った議論と協力の文化を育むことにより、国全体の利益に最も役立つ方法で政策が策定され、実施されるようにすることができます。こうした改善を経てはじめてすべての国民のために、より明るい経済の未来を築くことができるのです。
日本は地震、台風、津波などの自然災害に見舞われやすい国です。首都圏直下地震、東海、東南海地震などの発生の可能性も取りざたされています。また中国、北朝鮮、ロシアの存在によりわが国周辺の国際環境は緊張の度を強める一方です。いつわが国への武力攻撃が起きないとも限りません。これらの出来事は重大な経済的混乱を引き起こす可能性があります。東日本大震災という未曽有の災害にあたって急激な円高が生じたことを覚えておられると思いますが、そのことは輸出に頼る日本経済に大きな悪影響を及ぼします。こうした試練を乗り越え、迅速に回復できるかどうかは、復興と経済回復を支える金融政策と財政政策の有効性にかかっています。常在戦場の意識を持つ必要があります。

さいごに

日本は現在の金融緩和政策を堅持し、景気回復を遠のかせかねない時期尚早な出口戦略を拒否しなければなりません。企業と市民のより幅広い利益に焦点を当て、金融政策と財政政策を調整し、日本銀行を含む特定の省庁の暴走を許さない公共の議論と協力の文化を育むことによって、はじめてわが国は経済的課題を克服し、より豊かで安定した未来を創造することができるのではないでしょうか。

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