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インタビューは、自分だけでは到達できない世界を見せてくれる最高の仕事/THE INTERVIEW公開トーク Vol.3 北野唯我さん

今回の語り手は、ワンキャリア取締役としてビジネスの最前線で活躍しながら、ヒット作を次々に生み出す作家でもある、北野唯我さんです。

聞き手は、個人の物語に焦点をあてるインタビューを数多く行ってきたインタビューの名手、宮本恵理子さん。北野さんが行うインタビューに多数同席するなか、その徹底した準備の姿勢や対話を広げながら本質を深掘りしていく手法に惚れ込んでしまったという宮本さんが、北野流インタビュー術をどう聞き出すかとても楽しみです。

*「THE INTERVIEW公開トーク」とは
インタビュー特化型ライター養成講座「THE INTERVIEW」に講師として登壇している宮本さん。修了生達の「宮本さんがインタビューしているところを実際に見たい」という要望と、宮本さんの「私ももっと学びたい」という想いが呼応し、「THE INTERVIEW公開トーク」がスタート。毎回、インタビューの達人をゲストに迎え、そのコツを宮本さんにインタビューしてもらうことで学ぶオンライン勉強会です。

北野氏

インタビュイー(語り手)
北野唯我さん/ワンキャリア取締役 最高戦略責任者

兵庫県出身。新卒で博報堂の経営企画局・経理財務局で勤務。ボストンコンサルティンググループに転職し、2016年ワンキャリアに参画、子会社の代表取締役、社外IT企業の戦略ディレクターの兼務などを得て、現在、ワンキャリア取締役 最高戦略責任者。著書に、30歳のデビュー作『転職の思考法』(ダイヤモンド社)、『天才を殺す凡人』(日本経済新聞出版社)、『分断を生むエジソン』(講談社)、『OPENNESS(オープネス) 職場の空気が結果を決める』(ダイヤモンド社)など。8/6に『これからの生き方。』(世界文化社)刊行予定。

宮本さん

インタビュアー(聞き手)
宮本恵理子/フリーランスライター・THE INTERVIEW講師

1978年福岡県生まれ。筑波大学国際総合学類卒業後、日経ホーム出版社(現・日経BP)に入社し、「日経WOMAN」や新雑誌開発などを担当。2009年末にフリーランスとして独立。
主に「働き方」「生き方」「夫婦・家族関係」のテーマで人物インタビューを中心に執筆。一般のビジネスパーソン、文化人、経営者、女優・アーティストなど、18年間で1万人超を取材。ブックライティング実績は年間10冊以上。経営者の社内外向け執筆のサポートも行う。
主な著書に『大人はどうして働くの?』『子育て経営学』『新しい子育て』など。担当するインタビューシリーズに、「僕らの子育て」(日経ビジネス)、「夫婦ふたり道」(日経ARIA)、「ミライノツクリテ」(Business insider)、「シゴテツ(仕事の哲人)」(NewsPicks)など。家族のための本づくりプロジェクト「家族製本」主宰。

■良いインタビューは“ジャズ”のイメージ

――北野さんとはご縁があって、インタビューにも何度も同席できる機会があり、その度に深掘り力が凄いと感じていました。それで、北野さんのインタビュー術について一度じっくり教えていただきたいと、ずっと思っていて、今回思い切ってお願いのメールをしたんです。そうしたら、すぐにご快諾いただいて。とても嬉しかったです。今日はどんなお話が伺えるか楽しみにしています。

宮本さんから、いつになく、もの凄く長いメールをいただき、とにかく何か強烈に頼まれていると感じ、お世話になっているので、すぐご返事しました。後からよく読んでみると、宮本さんにインタビュー術を話すということで。これは緊張するなぁ、と。でも、こちらこそ楽しみです。

――北野さんは、経営者、投資家など立場を変えながら、多くの対談やインタビューをなさっていますよね。また、作品であれだけ深く人物を描くにも、その前に多くのインタビューをしていらっしゃるのでは。そんな多様なインタビュー経験をお持ちの北野さんが、特に意識していることは何でしょうか。

人物の描き方、深いですか。嬉しいです!僕にとって、インタビューはジャズのイメージなんですよね。

――ジャズですか。

そう。ジャズには基本のコード進行ってありますよね。インタビューでも、こういう話は聞きたいというプロットはある。しかし、それだけではなく、相手の話に合わせ反応していくと、お互い高め合って予想外の展開になっていく面白さが生まれます。例えば、相手が良くしゃべる人なら、ベースでリズムだけ合わせるような感じで委ねるとか。相手が本気出してくれない様子なら、本気で「こう思うんです」という話を強めにぶつけてみるとか。抽象的な話で終始しそうなときは、自分から具体的な話を切り出すことも。それから“間”も大事ですよね。じっくり受け止めてから言葉を返したり、間髪入れずに反応したり。即興の妙にインタビューの面白さがあると思っています。

――即興的に反応するのが、苦手な人もいそうですね。

持ち味はそれぞれあって良いと思います。ジャズでも、例えばベースって一見地味かもしれませんが、ジャズ・セッション全体を支える大事な役割を担っていたりしますよね。つまり、必ずしも、表面的に返しがうまい人とか当意即妙に反応できる人だけが、信頼感を構築できるわけではない。即興的に反応するのが得意でないとしても、事前に丁寧に調べてくるとか、粘り強くインタビューを重ねるといった姿勢から信頼感を構築していくと、良いインタビューになると思います。信頼関係とか誠実さって、インタビューに限らず、人間関係全体に通じることですよね。

■その人にしか見えていない凄い世界がある

――なるほど。

人の魅力は、“見出すもの”“引き出すもの”だと思うんです。インタビューでは、その魅力を引き出すんだという強い決意で向き合います。何を引き出せたらベストかは相手によって違いますが、でも、あきらめずに掘っていくと、必ず面白い話が出てきます。

――何をどう引き出すかは、相手によって違うと。

例えば、経営者だったら、「なにをしたか」という事実よりも、「なぜそれをしたか」「なぜそれに価値があるのか」という解釈を聞くことが重要だと思っています。つまり、その人から世界はどう見えているかを聞く。解釈には、その人の持っている思想とか、根本的な価値観とかが反映されているんです。でも普段は、経営状態や数字のことは聞かれても、そういったことはあまり聞いてもらえないことが多いのではないでしょうか。そういったことを語れる場もないし、問われることもない。なんなら、話しても理解されないだろうと思っている。そこに、「覗かせてください」って近づいていくと、とても嬉しそうに話してもらえます。話を聞いていると、僕とは異なる思想や価値観が出てくることもあり、それもまた興味深いです。

――インタビュイーも相手を見ながらどこまで話すか探っている面もありますよね。そして、私がインタビュー現場に同席して感じることとして、北野さんの質問にも解釈が入っているように思います。質問の中に具体的な数字や既に調べてあるものが織り込んであって、そのうえで北野さん独自の解釈が入っているから、相手もそれを受けて話しやすくなる。

マジですか。嬉しいなぁ。そういうところもジャズのイメージがしっくりくるんですよね。そして、相手の話を聞くときに、一番大切なのは、「全部は理解できないかもしれないけれど、でも少なくとも、あなたにしか見えていない凄い世界があるということは理解しています」と伝えることだと思っています。相手に対するリスペクトですね。

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――リスペクト、大事ですね。北野さんのいうリスペクトの源はどこにあるんでしょうか。

人のために僕ができることは限られている、というところかもしれません。その人がどんなことに悩み、どんなふうに考えているか、そう簡単に分かるものではない。その人が自力で見出した世界には凄さがある。その人が見ている世界を尊重したい。「そうですよね、わかります」なんて安易に共感したりできないですよね。

――おっしゃるとおりですね。

これは自分に対しても同じで、人が僕にできることも限られている。例えば、良い話を聞かせてもらうだけでは僕の成長はなくて、それを自力で自分に引き寄せて、ようやくインタビュアーとして成長できる。分野は違っても、普段から痛みや迷いがあったり、煩悩に溢れていたりして、悩んでいる人のほうがインタビューは上手になるのではないかと思います。

■まず「凄く楽しみにしていました」と伝える

――え、北野さんにも悩みとかあるんですか。

ありますよ。煩悩の塊ですよ。あと、インタビューをするときにとても大事なのが、まず「楽しみにしていました!」って伝えることだと思っています。「あなたのことを本当にリスペクトして、話を聞けるのが凄く楽しみです」という前提で入る。これ意外と忘れがちですよね。

■どんな人にも必ず面白い話があり、知れば知るほど好きになる

――北野さんにインタビューされる方ってきっと緊張すると思うんです。気鋭の事業家であり作家である北野さんから、どんなこと聞かれるんだろう、突っ込まれるんじゃないか、シビアなこと聞かれたらどうしようとか。それが「あなたのファンです」とニコニコして好意を示してくださったら、ホッと安心して話しやすくなる。

いや、だって、本当に楽しいですよね。インタビューって最高の仕事の1つだと思います。凄い人の楽しい話聞けて、報酬ももらえて、しかも自分も成長できる。どんな人にも必ず何か面白い話があり、一冊は本が書けると思っています。これはもう確信ですね。だからいつも、本当に楽しみなんです。

―ー北野さんは、インタビュー中の相槌も気持ちいいですよね。

ありがとうございます。もう習慣になっていますね。でも、素直に相槌を打って自分の感性を否定されてしまったらどうしようと怖がっている人は多いかもしれないです。だから、感性を否定されないよう、「メリットはこうでデメリットはこうで」と客観的な評価分析のような受け答えになってしまう。

―ー反対意見などが出て自分の感性が否定されないよう身構えてしまう、ということでしょうか。

そう。僕が「めっちゃ良い」「面白い」と感じても、「イケてない」と感じる人もいるかもしれない。でも僕は、だからといって、感性が否定されたとは思わないんです。それは感じ方の違いで、お互いが否定されたわけではない。そして「めっちゃ良い」と言ったからって内容を全肯定しているとは限らなくて、「めっちゃ良いとは感じたけれど、でもこういう風にしたらもっと良くなる」ということもありますよね。

――そのほうが、話す人は心を開いて聞いてもらっていると感じ、話しやすくなりますね。北野さんは事前準備もいつも入念になさっていますが、インタビューに向けて期待感を高めるためになさっていることってあるんでしょうか。

相手のことを知れば知るほど、好きになるし面白くなりますよね。そしてビジネスって必ず誰かの役に立っている。「この人の活動は、誰のためになっているんだろう」と調べるほど、リスペクトは生まれます。そして、事前に調べたり読んだりしたものと社会から期待されているものや求められているものを、どうつなげ、どう問いを準備するか。これは事前の編集の力だと思うんですが、強く意識していますね。

――経営者や創業者ではなく、一般の人へのインタビューはどうですか。

一般人へのインタビューや採用面接のときは、仕事の話だけでなく、土日の過ごし方とかお金の使い方とか、そういったところを具体的に掘っていくと、何かその人の偏愛というか面白さが見えてきます。時間をいただいたからには何としても面白いことを語ってもらい、魅力を見出したい。そのためにも良質な問いが大切ですよね。

■良質な問いは最高のプレゼント

――良質な問い、良い言葉ですね。

良質な問いって最高のプレゼントじゃないですか。良質な問いには2種類あると考えています。1つは、気付いていなかったところに気づかせてくれる問い。もう1つは、気づいていたけれど語れずにいたことを語らせてくれる問い。そして、8月に出す新刊『これからの生き方。』にも書いているんですが、好き嫌いというのは“2階建て”でできている。1階は衣食住に紐つくようないわば身体的な好き嫌い。これはお金で解決できる。2階は思想的な好き嫌い。こちらはお金では解決できず根深い。思想的な好き嫌いはその人の選んでいる言葉はもちろん、選んだ物や仕草にも表れている。そんなところも見ながら2階部分まで推測してあげると、語りたかったのに語れずにいたことまで語ってもらえる。

■前後の文脈の中にこそ真実がある

――あ、会場からも「新刊読みます」ってコメント入っていますよ(笑)。つまり、その場所その時間で触れる言葉以外のところや、それこそ、その人が生み出してきたプロダクトとかそういったところまで配慮して推測してあげるということでしょうか。

そうですね。プロダクトはうそをつきませんから。そして言葉についても、1つ1つのセンテンスというより、前後の文脈を含めたパラグラフが大事だと思っています。1つのセンテンスで表現できるのって、皆が既に分かっているものとか、既に共有できているものまでだと思うんです。でもパラグラフになると、前後の文脈の連続性のなかにその人の解釈が含まれていたりして、そこを掘っていくと、気づいていなかったことに気づいたりする。そこに真実があると思うんですよね。

――それをインタビューにあてはめると、まず、インタビュアーとインタビュイーのやりとりのなかで、文脈の間に含まれているものまで聞き出す。それを、文章化の過程で丁寧に表現する、ということかもしれないですね。

そうですね。そこがインタビューを記事にするときの真髄かもしれません。

――会場からも質問が来ています。インタビューのような聞く仕事は、北野さんの書く仕事に役立っていますでしょうか。

めちゃくちゃ役立っています。本の役割というのは、世の中にまだ出ていないことを皆さんに伝えるというところにある。読者を裏切らないためにも同じことを2度書くことはしたくない。新しいことを知るためにはインタビューは有効な手段です。本のコアのところは自分で苦労して作り出さなければならないですが、そのためにはまず、心の底から応援したい人とか、心の底から大事にしたい価値、といったところから入るんです。そのためにもインタビューから受けるインスピレーションは凄く大事ですね。それがないと乗り越えられないです。

■自分だけでは到達できない世界に気づかせてくれるのがインタビューの醍醐味

――ありがとうございました。最後に、北野さんにとってのインタビューの醍醐味とは?

そうですね。インタビューしていると、結構感動するんですよね。人間って良いとこあるな、というか、生きてて良かったと。どんなに成功した人でも、愚かさや苦しみはある。でも、人間の良さとか未来とか希望といったものを信じている人がいる。そして、まだまだ知らないことがたくさんある。そういったことを教えてもらえます。人間を好きになれますね。そして世界も捨てたものじゃない、とまた歩き出せる。インタビューの最大の価値は、自分一人では到達できない世界に気づかせてくれることだと思います。

【参加者の感想】
・インタビュー「術」というより、インタビューの本質、価値をあらためて教えていただきました。今日のノートを大事に見返したいと思います。新刊も楽しみにしています!ありがとうございます!
・北野さんって本当に人が好きなんだなっていうのが、すごく伝わります!
・北野さんが数々の作品をどんな想いと姿勢で生み出されこられているのかも、すごく伝わってきました。ありがとうございました。
・書かないといけないものがかけずに困っているのですが、誰に届けたいとかそういったところへの想いもしっかり持って、書いていこうと思えました。
・講演を聞いて涙が出たのは初めてです!
・ありがとうございました!とても参考になりました!

*今回のゲスト北野唯我さんの新刊『これからの生き方。』は、8/6発売です。
https://www.amazon.co.jp/dp/4418206019/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_rPthFb2E3A2C2

*毎回豪華ゲストを招いて開催している「THE INTERVIEW公開トーク」、次回は8/7、ゲストはBUSINESS INSIDER JAPAN 統括編集長の浜田敬子さんです。
https://interview-04.peatix.com/

*当イベントを企画しているインタビュー特化型ライター養成講座「THE INTERVIEW」の詳細はこちらをご覧ください。
https://the-interview.jp/


(文/近長 由紀子:「THE INTERVIEW」3期修了)
https://actiium.jimdofree.com/プロフィール/

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