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「浦和レッズ三年計画を定点観測」~#33. 2020 J1 第27節 vs横浜FM レビュー&採点~

※こちらの記事では試合レビューに加えて試合後に行った三年計画に関する採点アンケートの結果を記載しています。採点アンケートの内容、意図については以下の記事をご参照ください。

浦和としては今季3度目の4点差での敗戦。
せっかく得失点差を-1まで挽回できたのに。。と思ってしまいますが、ではなぜここまでの失点を喫してしまったのかなぜ最終ラインがあれだけ無防備にさらされてしまったのかを検証したいと思います。
今回のレビュー部分は試合全体の流れを振り返るというよりは、ポイントになったシーンについてしっかり掘り下げて考えていきます。

両チームのメンバーは以下の通りです。

◆浦和のスタンスはどうだったか?

F・マリノスさんはやはりオープンなゲームを好むというか、彼らの良さが出るのはそういう展開なので、まずそういう展開にはしたくなかったです。
ゲームプランとしては、ボランチのところで1枚、センターバックとVを作るところを2トップで規制して、真ん中のところを締めながら、相手が縦目のトップになっているところにきちんと規制をかけて、というプランで臨みました。
相手のサイドバックが浦和のボランチとサイドMFの間のエリアを使おうとするところを、縦のコンパクトでしっかりと寄せるところを作りたかった
のですが、最初の失点のところで、センターバックがワントップに剥がされて失点したことで、少し後ろに体重がかかってしまいました。
(大槻監督の試合後コメント)
(立ち上がりに失点してしまったが、試合の入り方はどうだったか?)
入りはある程度、前から行こうとしていましたが、逆に後ろのスペースや1対1の個の強さの部分や相手の特徴を生かした形を作らせてしまったので、そこはケアしなければいけなかったと思います」
(長澤選手の試合後コメント)

これらのコメントから試合前に大槻監督が目論んだ守備のプランはこちらの図のようなイメージだったことが想像できます。

武藤・興梠の2トップはCBから中央へのパスルートを塞いで、まずは中央を抑えます。ボールが同じレーンをそのまま縦方向に進ませるか外回りにさせたところで、各列の中間にポジションを取る選手に対しては後ろの列の選手が縦スライドして前向きに潰しに出て行くというのがこの試合のゲームプラン。そして、それを実行するためには組織全体の縦の距離がコンパクトになることが不可欠です。なるべくライン間の距離を狭めて、素早く縦スライドできる状況を作ることが求められました。

◆前後分断が許した先制点

では、Fマリノスの先制点に繋がる1'34のゴールキックの場面ではどうだったのでしょうか?
ゴールキックから始まったプレーはオビ→實藤→エヴェルトンと汰木の間、MFとDFのライン間にポジションを取ったオナイウへとボールが繋がっていきます。

MFとDFのライン間が広がっており、目論んでいたはずの中間ポジションをとる選手に対して後ろの列が縦スライドして対応することが出来ていません。しかし、Fマリノス陣内の中央付近にポジションを取った選手まで最終ラインの選手が縦スライド出来るほど全体を押し上げられる状況だったのでしょうか?

この場面で考慮すべきポイントは以下の3点。
(1) 直前の浦和の攻撃は興梠のプレスバックでのボール奪取が起点
(2) ボールが切れた時に浦和の選手は5人ペナルティエリア付近にいた
(3) オビはボールが切れてから2秒後にゴールキックで再開した

(1)から順に見ていきましょう。
まず、1'12に浦和のゴールキックからプレーが開始され、西川はハーフラインを越えたあたりにいる橋岡をめがけて大きく蹴り出します。橋岡と扇原の競り合いからバウンドしたボールを小池、エヴェルトンがそれぞれ跳ね返し、バウンドが落ち着いたところで後ろ向きの扇原から和田へのバックパスを興梠がプレスバックして奪います。

ロングボールからの競り合いを後ろの選手が押し上げて拾ったのではなく前線の選手が拾ったため、ここのポジティブトランジションではこぼれ球を相手に裏のスペースへ蹴り出されることへの準備のためにポジションを上げすぎないように構えていた最終ラインと、中盤高めの位置でボールを拾えたので一気にスピードをつけて相手ゴールに迫ろうと前向きに動き出した中盤より前の選手の動きにギャップが生じました。

続いて、(2)の確認です。
興梠がボールを奪って前向きにボールをコントロールしたのが1'24。そこから興梠がドリブルで前進してペナルティエリア内に入った武藤をめがけてボールを送ったのが1'27。興梠が武藤へパスをしたタイミングではペナルティエリア内にマルティノス、武藤、エヴェルトン、汰木がいた状態です。

画面には映っていませんが、興梠がボールをコントロールしてから武藤へ浮き球のパスを送るまでわずか3秒であったことから、浦和の最終ラインの選手たちがこの後のネガティブトランジションに備えて押し上げられていたとは考えにくいです。

(1)、(2)の点から、この状況では浦和は前の5人と最終ラインの距離が大きく開いた状況が生まれてしまったことになります。そして、これに追い打ちをかけたのが(3)の素早いリスタートです。

浦和の守備組織が前後で別れてしまった状態でプレーが再開されてしまい、前線の選手は撤退する時間がなかったこともあってそのままプレッシングを開始。しかし、最終ラインは前に出る準備が整っていない状態のため、中盤の間を通るパスが出てしまうと相手には広大なスペースが提供されてしまいました。

直前のプレーでエヴェルトンはペナルティエリアの中央にいたため、ゴールキックに切り替わった瞬間に興梠よりも左側に移動して内レーンを封鎖するには間に合わないと思います。

また、ゴールキックにいち早く反応した興梠も扇原へのコースを消しながら實藤に寄っていますが、實藤が前向きにボールを持った時にはまだ7~8mほど離れた位置にいるので、ここからさらに實藤へプレッシングに出て行くとそのまま外されてしまう可能性が高いので、スピードを落として相手のスピードも落とすようにすることは間違っていないと思います。

Fマリノスの選手の動きでいやらしかったのは小池の外側に逃げていく動きです。實藤が興梠からジリジリと近づかれて縦方向へのパスコースも制限されようとしているので、バックステップで實藤に対しての角度が緩くなるような場所へ移動しています。實藤への横サポートでありながら、結果的には小池を見ていた汰木を一緒に外側へ連れ出すことに成功して、實藤からオナイウへの縦パスのコースが空きました。

このタイミングで浦和側が出来たこととすれば、ゴールキックになる前の攻撃の段階で最終ラインも出来るだけネガティブトランジションに備えて押し上げておくこと、それが出来ずにゴールキックが始まってしまったなら、まずは中央、内レーンから優先的に塞いでおいて、ボールを外回りにして陣形を直す時間を作るかの2つが考えられます。
小池は汰木よりも低い位置にいるので、汰木は一旦内レーンを塞いで、實藤に小池へパスをさせてから外に出ても対応することは出来たのではないかと思います。

◆4バックのスライド問題

4バックを採用するチームの永遠の悩みは外レーンにボールがある時にどのように振舞うのか、4人のスライドだけでは必ず空いてしまう場所が出来てしまうということです。

今季の浦和は
(1) 4バックは中に留まらせてSHが後ろに下がる
(2) SBが外に出たらハーフスペースはCHが斜めに下りて埋める
(3) SBが外に出たらハーフスペースはCBが横スライドで埋める
という3つの方法を採用してきました。

これはチームの状況だけでなく、出場している選手のキャラクターによっても変えてきたものでもあると思います。
SHが関根、長澤の時は(1)、CHが青木、柴戸の時には(2)、ここ最近のメンバーの時には(3)がそれぞれ採用されています。

ざっくり言ってしまえば、
(1)は6バックになってしまう可能性が多分にあるのでゴール前の守備は固くなるけど、そこから攻撃に転じることは難しい
(2)は外では前向きにアプローチ出来るので後ろに重たくはなりにくいが、CHが1人抜けるので中盤の横スライドか2トップの片方が下りてこないとマイナスクロスへの対応力が脆弱になりやすい
(3)は全員が前方向にのみアプローチするのでボールを奪えるとそのままポジティブトランジションで前に出ていきやすいが、そのアプローチを外されるとゴール前が手薄になりやすい
といった特徴があると思います。

それぞれ一長一短があり、どれが良くてどれが悪いというものではありません。どの方法を取るとしてもその短所を隠せるようにプレー出来れば良いのです。

前節の広島戦では試合序盤にハーフスペースをどんどん抉られてしまったことへの対処として、CBを横スライドすることで広島の得意パターンを抑えることが出来ています。
後ろをCBがすぐにスライドして埋めてくれることが分かっているので、SBが素早く外にいる相手に寄ってボールを遠くまで出す時間を作らせないことが出来ます。逆サイドまでボールが届かない状況を作れれば、4バックがスライドして逆サイドにいる相手を無視しても問題ないわけです。

2失点目直前の9'13は外レーンの水沼に対して宇賀神がクロスを上げられない距離まで寄せたことで、水沼はハーフレーンから追い越していった小池へパスを出しましたが、槙野が横スライドしていたので小池のクロスを阻むことが出来ています。

しかし、外レーンへの対応が遅れて中へボールを送れる状況を作ってしまうと、2失点目のシーンのようにゴール前が手薄になってしまいます。

この場面では、ショートコーナーからボールが下がって行った時にハーフスペースにいた小池を槙野と宇賀神の2人で見てしまったため外の水沼が空いてしまい、宇賀神が水沼へ出て行くのが遅れたためクロスを上げさせてしまいました。

SBとCBがそれぞれ横スライドすることを約束事にするのであれば、扇原がボールを持った時に宇賀神は体の向きを正対して扇原と水沼を視野の中に入れられるようにしておくか、内側に向くとしても外にいる水沼にボールが出たらすぐにターンして外に出られる準備をしておく必要があったかなと思います。

◆2つの小さいズレ

2失点目を喫したのもつかの間、13'07に3点目も奪われてしまいました。12'48に槙野からの縦パスを受けた興梠がトラップミスなのか、宇賀神へのバックパスが弱くなってしまったのか珍しい形でボールを失ってしまうと、すぐさまボールを運ぼうとした水沼をファウルで止めてハーフライン付近でのFKを与えました。

一旦、興梠がボールを抑えてリスタートを遅らせたこともあり、12:59にDAZNの中継映像が少し引いた画角になった時にはボールサイドの汰木、長澤、エヴェルトンがしっかり中盤ラインの高さには入れています。しかし、實藤からのパスが中盤ラインにいる長澤と汰木の間を通過していきます。
あらかじめ中間ポジションに下りていたジュニオールサントスにボールが入ったところを槙野が潰しますが、ボールは隣にいたオナイウにこぼれて、槙野が出て行ったスペースに走り込んだ小池が抜け出してシュート。

まずこのシーンでは實藤がボールを持った時の長澤のポジショニングが気になりました。

ブロックを作って構えた時にはマンツーマンよりもゾーンの意識があるという前提での指摘になりますが、長澤のポジショニングが興梠のいるコースと重なってしまっているのは1つ改善すべきポイントかなと思います。

春先にこんな記事を作っており、その中で「ジグザグに並んで進路を制限する」ということが大切ということを書いています。

自分よりも前の列の味方選手のポジションを見て、その選手が消せていないコースを自分が消す、前の選手も自分も消せていないコースをさらに後ろの選手が消すということを意識してポジションを取ると自然と選手はジグザグに並んだような形になります。

試合のメンバー紹介で出す下のような図の状態は実際に守備をするときの並び方をしてはNGなわけです。

もう1つは、槙野がジュニオールサントスを潰しに行ってからの宇賀神と橋岡の対応になります。

宇賀神も橋岡もそれぞれが一度隣のCBのカバーのためにポジションを下げますが、オナイウがボールをトラップしている間に宇賀神は走り込んでくる小池をオフサイドに出来ると判断してラインを上げており、実際にオナイウがボールを離した瞬間には小池を自分よりも前に追いやることが出来ています。

しかし、橋岡はオナイウに対してチェックに出た岩波のカバーのために少しずつポジションを下げており、宇賀神がオフサイドを取りに行ったタイミングでも下がり続けています。
結果として、この宇賀神と橋岡のオフサイドを取りに行く/行かないの部分でのズレが小池の抜け出しを許して失点になってしまいました。

このズレについてはチームとしての原則というよりは個々人の勝負勘とコミュニケーションでしか解決できないと思います。
宇賀神もオフサイドを取りにいかずにそのまま下がっていれば小池よりも先にボールに触るか、小池に体を当ててフリーでシュートを打てる状況を作らせないことは十分に可能な位置でした。

今季はこの失点のようにどこでオフサイドを取りに行くのかがズレたことがフォーカスされるシーンは自分の記憶にはありません。14分で3失点目というとても大きな代償を払いまいたが、これをDF陣での意思統一のきっかけにしてもらうしかないですね。

今回は3つの失点シーンについて少し掘ってみました。
勿論、私の意見が必ずしも正しいということでもなく、いろんな意見があってしかるべきだと思いますので、議論のきっかけになればうれしいなと思います。直接のコメントやTwitterでのリプライ、引用リツイートでも良いので、是非皆さんがどう感じたのかも聞かせて頂ければと思います。

◆採点結果

皆さんも低い点数になるんは致し方ない内容でしたかね。Q7のスピーディな展開についてはスコアが開いたこととFマリノスがオープン志向であることに乗っかる形でどんどん浦和もボールを前に送っていたので、現象としてはスピーディだったので3点にしました。

オープンな展開のため、非保持を自分たちのやりたい状況で行うことが出来ず、ボールが取れた時のポジションバランスが良くないことに加えて、Fマリノスは前線と中盤はそのまま前のめりに奪回しようとしてくるため、ボールの逃がしどころ、プレーテンポの落ち着けどころを用意できず、そのまま前方向へボールを離してしまうので、攻撃でのポジションバランスも悪いまま試合が進んでしまいました。

大槻監督はオープンな展開になった時にその状況を「許容する」という言い方をよく使います。オープンな状況もスピーディであることには変わりませんが、展開の制御が難しい、ある意味サイコロを振るような博打要素のあるものは好んでおらず、自分たちのポジションバランスを整えてそこからどのような展開が起きるかを制御、予測しやすい状況を作ってからスピードを上げに行くことを目指してきました。

ここまでで今季最高の内容と評価されている第23節の仙台戦や、第24節のC大阪戦は、槙野や岩波からのロングボールを送ってからスピードアップしていきましたが、ロングボールを送る前段階では各選手がしっかりとポジションを取っています。

ポジションバランスに重きを置くチームは4局面のうちどこかで不具合が起きた時には一度プレーテンポを落としてバランスを取り戻すことが必要になります。速いテンポでプレーが進み続けている間は、ボールの行方に振り回されてしまい、いるべき場所に戻る時間がありません。
Fマリノスはオープンな展開を仕掛けることによって浦和にその時間を与えなかったといえると思います。

思い返せば16節の札幌戦も2得点した後からは札幌がガンガンにオープンな展開を仕掛けてきて浦和が自分たちのポジションバランスを整える時間を与えずに一気に逆転されるところまで行ってしまいました。
このように、今の浦和とオープン志向のチームは言わば水と油のような関係であり、どちらが自分の土俵に持ち込むのかというのが鍵になるということですね。

オープン志向のチームのスピードをいかに殺すか、試合の店舗に対する主導権をいかに握るか、ここに対する解決策を残り6試合で見つけてくれることを期待したいですね。

次は18日(水)にアウェーで神戸戦です。平日なのに18時K/Oというリアルタイム観戦の難易度が高い試合になりますが、試合後のアンケートは引き続き実施しますので、是非ご協力をよろしくお願いします。

では、また。

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