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「浦和レッズ三年計画を定点観測」~#6. 4-4-2 vs 4-4-2~

Jリーグ再開に向けたトレーニングマッチ初戦のFC町田ゼルビア戦はスコアは残念ながら1-2ということになりました。
全体練習再開からの期間や、再開までまだ3週間あるということから、選手たちもまだパス、トラップ、ドリブルなどのボールフィーリングは戻ってきておらず、攻守ともにプレー強度を上げられるほどのコンディションにはなかったようでサッカー自体の内容としてはちょっと物足りなさはありますが、リアルタイムで動く試合を観られる喜びには変えられませんね。
このまま順調に再開の日を迎えられるようにクラブ関係者がどうか健康でいてほしいと願うばかりです。

ありがたいことにクラブがYouTubeで生配信した動画をアーカイブで残してくれたので、ポイントだけ振り返りたいと思います。

この試合は30分×4本で、基本的には30×2のところで選手を入れ替えという形になりました。
対戦相手のFC町田ゼルビアは前任の相馬監督からポポビッチ監督へ交代しましたが、コンパクトな4-4-2は継続しており、浦和も今季から4-4-2を採用しており、大槻監督がよく使う「噛み合わせ」について言えば、お互いにとって噛み合わせの良い相手といえます。

「噛み合わせが良い」というのを言い換えると、下の図のように自分のポジションに立つと目の前に相手選手もいる状態ということになります。

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1本目はCBに入った槙野、岩波はロングボールを蹴り出すことよりも、足元で繋ぐことでボールを前に進めようとしました。
ただ、お互い4-4-2で噛み合わせが良いため、パスを出す先の選手は常に相手に掴まれている状態です。
この状態では、自分より後ろからパスを受けた選手は当然自陣ゴール方向を向いた状態でパスを受けることになり、相手は目の前の相手に矢印を向けてパスカットやプレッシャーをかけてボールを奪えれば、その矢印はそのまま浦和のゴール方向へ向きます。

1失点目のシーン(YouTube時間=21:22~)は、まさに 4-4-2 vs 4-4-2 の噛み合わせの良さが招いてしまったものでした。

町田は基本的に2トップは最初からはプレッシャーに行くのではなく、真ん中のレーンを閉めてボールを外回りにさせたところからプレッシャーをかけるという、言わば4-4-2守備の王道パターンを採用していました。
そしてこの場面では、橋岡→岩波→槙野とパスが渡って行った時には町田の2トップがそれぞれ槙野、岩波の正面に立っている状態かつ、槙野、岩波の1列前にいる4-4-2守備のスタート状況を作っており、山中と阿部はこの2トップの背中に隠れている状態でした。

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そして、槙野→岩波→橋岡へパスが戻っていくところで、橋岡に町田の左SHが基本通りしっかり寄せに来ているため、パスを受けた橋岡は前を向けず後ろ向きになります。
岩波は後ろに下がりながら橋岡の逃げ道になろうとしていますが、相手選手の矢印の先にいる状態のままなので、橋岡はこの状態で岩波にバックパスするとそのまま相手に寄せられて奪われる可能性が高いことから、強引に体を振って前方向へパスを出しますが、町田のボランチの選手が左SHの寄せにしっかり反応して次のパスコースをふさいでいたため、パスがカットされてしまいました。

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このパスカットからのカウンター、最後は見事なミドルシュートで失点してしまった訳ですが、槙野岩波コンビはこのように相手から真っ直ぐ矢印が伸びた場所にいるシーンが大半でした。

この対応策として、失点以降は何度か阿部が相手の2トップよりも前に出ることで3vs2の状況にして、相手の矢印から外れる選手を作ってボールを前に運ぶシーンも出てきました。
YouTube時間=27:30~がそのシーンです。

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また、2本目に入るとYouTube時間=58:49〜YouTube時間=1:07:10〜のように、相手の矢印からは外れてはいなくても、相手の2トップは最初からはプレッシャーに来ないこと、相手の組織が全体的にコンパクトなため裏のスペースが空いていること、槙野と岩波がフィード能力が高いこと、これらを活かして一気にロングボールを前に送るシーンも出てきました。

ボールを前に進める方法は「戦術のもとになるもの」にも書いた通り、プレーする選手や相手の守り方、力関係によって最適解は変わるので、岩波のようにポジショニングの調整が苦手だがキックは上手い選手を起用するのであれば、岩波にプレッシャーが来ない状況を用意してロングボールを蹴らせるのも大いにアリだと思います。

ただ、恐らくこの試合で最も多くのサポーターの心を惹きつけたのは加入後初の実戦となり、2本目、3本目に出場したトーマス・デンではないでしょうか。
守備での出足の良さや、ゴールラインギリギリでのクリアなど守備面でのプレーはもちろんですが、攻撃時のポジショニング、ボール捌きはとても良かったです。
状況によってロングボールを出したり、相手の矢印が外れた位置にポジションを取ってドリブルで運んでボールを前進させたり、個人としての技術の高さを見せてくれました。

また、3本目はCBの相方が鈴木大輔、下り目のボランチに柴戸が入り、後方3人のビルドアップ時のポジショニングが上手く出来ているシーンが出てきました。
2つほどシーンを紹介しますね。

YouTube時間=1:48:23〜
デンのパスは引っ掛かってしまいましたが、
2トップに対して柴戸が入ることで3vs2を作り、
鈴木大輔が町田の2トップの間に向かってドリブルすることで矢印を自分に向けさせ、
デンはバックステップを踏んで相手の矢印から外れた場所へ移動してボールを受けて前に運ぶ
というビルドアップの基本がきっちり出来たシーンです。

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欲を言えばデンが右サイドに張っていた岩武へパスを出せれば、そこへ町田の左SBが食いついて、その裏のスペースへ杉本が走り込んでチャンスを作れたかもしれません。

YouTube時間=2:07:38〜
鈴木大輔がボールを持ったところで町田の2トップは鈴木大輔、デンの2人を意識したポジションを取ります。
そして、鈴木大輔がデンへパスを出そうとした時に左FWがデンの方向へ走り始めます。
ここで、2トップの矢印が鈴木大輔とデンに向いているのを察知した柴戸が2トップの脇に移動して鈴木大輔からボールを引き出しました。
そして自分でドリブルで少し運んでからパス、そしてその勢いのまま一気に相手の最終ラインの裏まで走って相手のラインを押し下げました。

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この2つのシーンだけでも、ボールを持てる相手との試合ではデン、鈴木大輔、柴戸のセットがベストかなと思いました。
湘南との開幕戦でも鈴木大輔の運ぶプレーや、柴戸の相手の矢印から外れた場所にポジションを取って味方を助けるプレーは良かったですしね。
そこに加えてデンの目処が立ちそうなのは嬉しいことです。

ここから再開までは試合が観られることがあるか分かりませんので、もしかしたら別の局面についても取り上げるかもしれません。
では、また。

2020/6/20 追記
町田のボールを外回りにさせる守り方についてボードを使った動画で喋ってみました。
10分の動画ですので、よろしければご覧ください。



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