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「浦和レッズ三年計画を定点観測」~番外編 三年計画の完成形とは?~

浦和レッズの三年計画で掲げているチームコンセプトが具体的にどのようなプレーなのか、完成形がどのようなものなのかが明確でないと、現在地がどの辺りなのかが分かりにくいなと感じます。

また、言葉だけではどうしても曖昧な印象論になってしまいやすいので、より視覚的に認識できるようなものを作ってみようと思います。
同じ言葉を見聞きしたときに、同じイメージを浮かべられることが理想です。

自分のサッカー理解を深めていくことが出来れば適宜更新します。
また、具体的なチームコンセプトの前提となるサッカー自体の基本的なプレー、アクションについても触れようと思います。
「そんな当たり前のことを書くの?」と思われる部分もあるかと思いますが、どうかお付き合いください。

まず、どのような言葉で語られているのかですね。
土田SDの口から出てきたのは以下のような内容です。

チームコンセプトを説明します。今お話ししました『浦和の責任』というキーコンセプトをベースに、チームコンセプトを3つにまとめました。

一つ目は、『個の能力を最大限に発揮する』。
二つ目は姿勢として『前向き、積極的、情熱的なプレーをすること』、
3つ目は『攻守に切れ目のない、相手を休ませないプレーをすること』。
浦和らしいサッカーとは何かと考えると、攻撃的でなければならない、2点取られても3点取る、勝つために、またゴールを奪うために一番効果的なプレーを選択すること。
ファン・サポーターと選手が共に熱狂できる空間を共有し、一緒につくりあげていく、それを表現できるのは、埼玉スタジアムであり、浦和レッズにしかできないことだと思っています。

まず、攻守一体となり、途切れなく常にゴールを目指すプレーを選択することです。
具体的に簡潔に説明しますと、守備は最終ラインを高く設定し、前線から最終ラインまでをコンパクトに保ち、ボールの位置、味方の距離を設定し、奪う、攻撃、ボールをできるだけスピーディーに展開する、そのためには積極的で細やかなラインコントロールが必要になると思います。

攻撃はとにかくスピードです。
運ぶ、味方のスピードを生かす、数的有利をつくる、ボールを奪ったら短時間でフィニッシュまで持っていくことです。相手が引いて守るときには時間をかけることも選択肢としてありますが、フィニッシュを仕掛けるときにはスピードを上げていくことが重要です。
攻守において、認知、判断、実行のプロセス、全てのスピードを上げることが重要になります。このプロセスをチームとして共有して、パフォーマンスとして見せることを目指します。
浦和レッズ新強化体制発表会見から抜粋)

まず、チームのスローガンとして挙げられたのが3点。
(1) 個の能力を最大限に発揮する
(2) 前向き、積極的、情熱的なプレーをすること
(3) 攻守に切れ目のない、相手を休ませないプレーをすること

そして、これらを実現するための方法として挙げられたのは以下の通りです。
< 守備 >
・守備は最終ラインを高く設定
・前線から最終ラインまでをコンパクトに保つ
・ボールの位置、味方の距離を設定し、奪う
・攻撃、ボールをできるだけスピーディーに展開するための積極的で細やかなラインコントロール
< 攻撃 >
・とにかくスピード
・運ぶ
・味方のスピードを生かす
・数的有利をつくる
・ボールを奪ったら短時間でフィニッシュまで持っていく
※相手が引いて守るときには時間をかけることも選択肢としてあるが、フィニッシュを仕掛けるときにはスピードを上げていくことが重要

それでは、これらをより具体的に見ていきましょう。

守備について

最終ラインの高さの大まかな目安はこのような感じになります。

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「最終ラインを高く」ということは、出来るだけハーフラインに近いところまで前に出ていくということになります。
そのことによって得られる利点は、前からプレッシングに行きやすくなり、そこでボールを奪えれば相手ゴールに近い位置から攻撃へ転じられることです。

つまり、最終ラインを高くする守備はゴールを守るということだけでなく、ゴールを奪うという意識付けにも繋がります。
守備から攻撃がひと繋がりになる、攻守に切れ目のないプレーというチームコンセプトとも合致します。

そして、下の図のように最終ラインが高くなることで自然と組織はコンパクトになりやすくなります。

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では、どのような時に最終ラインを高い位置に出来るでしょうか?

最終ラインを高くした時に発生するリスクは、一にも二にも自陣ゴールの近くに人がいなくなること(自陣にスペースを空けること)です。
守備側が相手のボール前進を邪魔できない場所を自陣ゴール近くに作るということは、そこへボールを出させないようにしないと簡単にスペースへ蹴り出されてしまい失点してしまうことになります。

そもそも、ボールを遠くに蹴るためには、
・よりボールにパワーを伝えるための大きなモーションをする時間
・ボールが遠くに飛ぶための軌道(障害物との距離と角度)
が必要になりますので、
ボール保持者からこれらを奪っている状況を作らなければ、最終ラインを高くしても簡単に裏のスペースへ蹴り出されてしまうことになります。

つまり、最終ラインを高くすることは前線からのプレッシングとセットでなければならないということです。
また、前線がプレッシングに行けていないときは最終ラインの選手は裏のスペースへボールが出させる危険性への注意を払い、少しずつラインを下げることが必要になります。

ボール保持者が前向きかつ、味方がプレッシングに行けていないのであればラインを下げる。

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ボール保持者が後ろ向き、あるいは味方がしっかりプレッシングに行けているのであればラインを上げる。

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このように、最終ラインを高く保つためには、ボールの位置、味方の位置、相手の状況を考慮して細やかにラインを上げ下げすることが必要になります。

続いて、「ボールの位置、味方の距離を設定し、奪う」という部分について考えていきます。
ボールの位置と味方との距離を基準に守備を行うのはゾーン守備の基本スタンスになりますので、マンマークよりもゾーンの意識を強くしたいということだと読み取れます。
※以前、ご紹介した松田浩氏の本はその参考になりますので、改めてここにその記事のリンクを貼っておきます。

この記事で書いたことは、
ゾーンで守ると味方の位置を基準にしているため、ボールを奪った時のポジション、位置関係が崩れていないため、守備から攻撃への移行がスムーズになりやすい。つまり、攻守の切れ目をなくしやすいということです。
守備のコンセプトとその上位にあるチームスローガンの整合性が取れているということを確認しました。

さらに、この時の記事に補足して、プレッシングについての基本的な考え方になりますが、
プレッシングに行くと、
・その選手がいる場所が変わる
・相手が使えるスペースが変わる
ということになります。
言い換えれば、その選手が元々いた場所が相手にとって使えるスペースになり得るわけで、そのスペースを使われてしまうと、プレッシングに行ったことが、かえって相手が自陣ゴールへ近づくためのスペースを提供することになってしまいます。

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そのため、プレッシングは誰か一人がアクションを起こせばよいのではなく、その一人のアクションによって変化するスペースを全体で埋めなおす作業が必要になります。
そして、このスペースを埋める作業が的確に出来た時には、相手チームのボールの出し先がなくすことが出来ます。

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プレッシングに出た選手が消したコースとは違うコースを次の選手が消す、その選手が消したコースをとは違うコースをさらに次の選手が消す、、ということの繰り返し。ボールの位置に対する味方の位置、そこから各選手の取るべきポジションが決まります。
的確にポジションを取れていた時には、図の白線で示したボールが出ていく可能性のあるコースを網羅出来ているため、そこへパスが出てきたときには難なくボールをカットすることが出来るわけです。

そして、ボールが移動すればボールの位置とそれによって動く味方の位置や距離を基準にして、またそれぞれがポジションを取り直す作業が発生します。

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ボールと味方の位置を基準にして、積極的にプレッシングをするためには常にポジションを取りなおし続けることになりますので、松田浩氏の言葉を借りれば「ポジションを取ることにハードワークする」ということになるわけです。

そして、ボールと味方の位置を基準にしてポジションを取った結果、選手間の距離はどうなったでしょうか?

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このように全体が非常にコンパクトになり、最終ラインも高くなります。
前からプレッシングについていくためには、あらかじめ最終ラインを高くしておかないと味方との距離が開いた状態になってしまい、プレッシングに出て行った選手が元々いた場所を使われてしまうのは最初に見た通りです。

つまり、守備のコンセプトとして挙げられた
・守備は最終ラインを高く設定
・前線から最終ラインまでをコンパクトに保つ
・ボールの位置、味方の距離を設定し、奪う
・攻撃、ボールをできるだけスピーディーに展開するための積極的で細やかなラインコントロール
の4点は密接にリンクしていると言えます。

そのため、守備の理想形は
前線から積極的にプレッシングを行い、相手のパスコースの選択肢を消し、高い位置でボールを奪って、その奪った勢いのまま攻撃に転じる

ことになると考えられます。
これはチームコンセプトである、前向き、積極的、情熱的なプレーに繋がります。

ただし、試合には相手がいて、相手は相手なりの思惑を思ってポジションを取ったり、ボールを動かしたりします。
ボールと味方の位置からポジションをとったとしても、その間に相手が先にポジションを取られてしまうと、ボールを間で触られてしまいボールを奪えずに展開されてしまいます。

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なので先述したボールと味方の位置からという要素に加えて、相手より先にポジションを取ることも必要になります。

相手より先にポジションを取って、相手から選択肢を取り上げてしまうことが出来るのか。
それとも相手に先にポジションを取られて対応が後手になってしまうのか。
こうした駆け引きでいかに上回れるか。
上回るためにどのような準備、スカウティングをするのか。

やりたいことは明確に掲げていますので、それをどのように実現させようとしているのかをきちんと注視したいですね。

攻撃について

土田SDは「攻撃はとにかくスピード」と言いました。
サッカーにおいてスピードをつけられるものとしては
・人の移動
・ボールの移動
・プレー選択するまでの判断
の3つが考えられます。

この中で最も重要なのは「プレー選択するまでの判断」になると思います。
いつ、どこへ走るのか、ボールを送るのか、この判断が遅くなるとプレーのテンポは上がりません。
パスを受けてから、自分のいる位置を把握して、味方を探して、相手を見て、それからシュートをするのか、パスを出すのか、ドリブルをするのか、これらを判断しようとするような時間は基本的にはピッチ上にはありません。
ボールを持ってから判断をするまでに時間がかかれば、それだけ相手がどんどん迫ってきて、プレーの選択肢はどんどん減っていきます。

土田SDはさらに以下のようなことも話しています。

攻守において、認知、判断、実行のプロセス、全てのスピードを上げることが重要になります。このプロセスをチームとして共有して、パフォーマンスとして見せることを目指します。

つまり、人やボールの移動以上に、判断のスピードに重きを置いているように読み取れます。
単純に、たくさんスプリントしましょうとか、ボールをワンタッチでポンポン繋ぎましょうとか、そういったことではなく、プレー選択を迷わないで出来るような枠組みを作ることで、認知、判断、実行のプロセスのスピードを上げて、相手より先にアクションを起こすといったことを狙っているのではないかと思います。

現象としてスプリントが増える、少ないタッチ数でボールがつながるということはあるかもしれませんが、それはあくまでも認知、判断、実行のプロセスのスピードが上がったからこそピッチ上で表現されたものになるのでしょう。
ただし、我々のような部外者はピッチ上の現象が意図的なのか偶発的なのかを切り分けることは難しいです。事前に用意していなかったことでも、その場のアドリブで何度も同じプレー選択をしている可能性があります。
ですので、続いてはスピード上げること以外の攻撃のコンセプトを見ていきましょう。

挙げられていたのは
・運ぶ
・味方のスピードを活かす
・数的有利を作る
の3点です。

まず、「運ぶ」というプレーはどういうプレーで、どういう意図、効果があるのか。これをきちんと認識しないといけません。
「運ぶ」というのは下の図にも表した通り、ボール保持者が自分の前にスペースがある時に文字通りボールを前に運ぶように進めていくドリブルになります。

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これは相手ゴールに近い位置であるゾーン3(アタッキングサード)で行う相手を抜き去るためのドリブルは全く性質が異なります。
相手を抜くドリブルは目の前の相手を抜き去ることを目的として、スピードをつけたりフェイントをかけたりといった瞬間的な駆け引きが伴いますが、
運ぶドリブルは目の前の相手ではなく、相手の守備ラインを越えてボールを1つ前のゾーンへ進めることが目的で、次のゾーンに進んだ時にもボールを奪われないためにスピードをつけすぎず、しっかりボールをコントロールすることが大切になります。

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例えば、この時のLCBが勢いをつけすぎて相手のRSHまで突っ込んでしまうと、ボールを奪われて自分が運んだことによって空けた裏のスペースを使われてしまいます。
ですので、ラインを突破するところまではスピードをつけても良いですが、突破した後はボールをきちんとコントロールしながら次のラインの相手のアクションを観察できるスピードまで落とすことが大切です。

運ぶことによって生まれる効果は相手のライン突破だけではありません。
例えば、この場面でLCBが運ばずにそのままライン際でフリーな状態のLSBへパスを出すとどうなるでしょうか?

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ボールを出すまではフリーな状態でも、ボールが移動している間に相手選手も移動できてしまうので、ボールが到達したときにはフリーでなくなってしまうケースがあるのです。

そこで、すぐにパスを出さずにボールを運んでみるとどうなるでしょうか?

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相手のRSHの選手に対して、ボールを運んできたLCB、パスが出たら寄せようとしていたLSBという1vs2の数的有利を作ることが出来ます。
ボールを運んできたLCB→背後にいるLSHへのパスコースがあることまで考えれば1vs3ともいえる状況です。

さらに、LCBがボールを運べる状況について見てみると、

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相手の2トップに対して、RSB、RCB、LCBの3人という数的有利の状況が出来ていることで、相手のプレッシングを受けない(相手のマークを受けない)選手が1人生まれます。
そして、この選手がそのまま前にボールを運ぶことで、ボールを運んだ先でまた新しい数的有利の局面を作っています。

このようにボールだけを前に進めていくと最初に作った数的有利の連鎖が途切れてしまい、
ボールを運びながら人も一緒に前に進んでいくと、ボールが進んでいった先でも数的有利の連鎖が続いていきます。

ボールを運ぶためには数的有利を作ることが必要で、
ボールを運ぶことで数的有利を作り続けることが可能なります。
つまり、攻撃のコンセプトとして掲げられた「運ぶ」「数的有利を作る」はリンクしていると言えます。

では、ボールを運ぶための数的有利はどのように作るのが良いのでしょうか?
先ほどの図で確認したように、運ぶためには相手の人数+1が確保できれば十分です。

忘れてはいけないことは、数的有利は相手との兼ね合いによるものであるということです。
3バックvs2トップであれば、何もしなくても数的有利が出来ていますし、4バック(2CB)vs2トップであれば、別の場所から人を補充しないと数的有利は作れません。
この人の補充、人の移動の仕方は基本的には横にスライドするか、縦の列を上げ下げするかどちらかになります。

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この場合であれば、
・LSBが縦に移動(1列上がる)
・残った3枚が横に移動
することで相手の2トップに対して3vs2を作ります。

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こちらの図では
(1) GKが縦に移動する(1列上がる)
(2) RCHが縦に移動する(1列下がる)
(3) RCHが縦に少しだけ移動する(0.5列下がる)
のいずれかを行って3vs2を作ります。

具体的な方法としてこれはあくまでも一例になりますが、
このように大なり小なり人の移動を行い相手の守備とのズレを作ることで数的有利、ボールを運べる状況を作ります。

そして、当然のことながら人の移動が少ないほどこの状況を作るスピードは速くなります。
さらに、人の移動が少ないということは、守備時と攻撃時でポジションバランスの変化が少ないということなので、守備から攻撃、攻撃から守備への移行のスピードも速くなりやすいです。
つまり、攻守に切れ目のないサッカーを目指すということは、攻撃と守備でのポジション移動を出来るだけ少なくすることが必要になります。

Jリーグを長らく見ている方にはおなじみのミシャ式可変フォーメーションはかなり大きな人の移動を伴います。

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これだけ選手の移動が大きく縦にも横に必要なため、ボールを奪われてから撤退するまでにはかなりの時間を必要とします。
そのため、ミシャのチームが採用している守備の方法は味方同士の距離感を整える必要のあるゾーンではなく、近くの相手選手をそれぞれが見張るマンマークになるわけです。

それと比べて今季のここまでの浦和が行っている守備から攻撃への主な人の移動はこのような感じです。

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状況によって、山中と柴戸の場所が入れ替わったり、それぞれの矢印が左右逆方向へ向いたりすることはありますが、攻守の切れ目での人の移動は少なくしています。

バランスの保たれたクローズドな試合を望むのか、
人の動きの激しいオープンな試合を望むのか、
少なくともこれからの浦和は「攻守に切れ目のないサッカーを目指す」のであれば、前者に寄った思想をしていくのではないかと思います。

その中で攻守の切り替えでの人の移動のパターンや判断基準をいくつか事前に設定しておくことで、攻守の切れ目を埋めるスピードを上げることが出来、よりスピード感を持った試合展開になると考えられます。


そして、最後の「味方のスピードを活かす」についてです。
「味方の」という言い方をしているということは、ここでは人の動きのスピードですね。

そして、このスピードについては
・広いスペースでの持続的なスピード
・狭いスペースでの一瞬のスピード
の2つがあり、このどちらが得意なのかは選手の個性による部分でもあります。

また、土田SDも「相手が引いて守るときには時間をかけることも選択肢としてありますが、フィニッシュを仕掛けるときにはスピードを上げていくことが重要です。」と話している通り、攻撃においては相手ゴールに近い位置ほど、スピードを上げて相手より速くスペースへ入る、ボールを触ることが重要です。
つまり、ゴールに近いエリアでそこにいる選手がスピードを上げやすい状況を意図的に創出することが必要になります。

例えば、広いスペースで持続的なスピードが持ち味の選手を起用するのであれば、

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その選手とは逆のサイドに人を密集させたり、相手を前に引き出して裏のスペースを空けたり、その選手が使えるスペースを大きくした状態でボールを渡してあげるという方法が考えられます。あくまでも一例です。

ただ、先ほど、攻守の切れ目をなくすために攻守の切り替えでの人の移動は少なくするはずと言いました。
その流れから考えると、この大きいスペースでのスピードが持ち味の選手が起用されるのはサイドに限定されると思われます。

ピッチの中央、内のレーンには基本的にCB、ボランチ、FWがいて、さらに相手選手もいるため、大きいスペースが出来ることは基本的にありません。
さらに、守備のコンセプトは前からの積極的なプレッシング、さらにボールを持ったら出来るだけスピーディに展開するとなれば、相手の最終ラインの裏に大きなスペースが空いている状態は少なくなるはずです。

そうなると、試合中に大きなスペースが出来やすいのは外のレーンになります。なので、例えばマルティノスや汰木のような選手はFWではなくSHとして起用され、基本ポジションは外側のレーンの広いスペースがある状態でプレーをさせるような周囲とのバランスを作ることになります。

逆に狭いスペースで、例えば味方とワンツーのパスで抜けて行ったり、瞬発的なスピードのあるプレーで相手を抜けるような選手であれば、ピッチの内側でプレーをさせることになると思います。
この場合は、SHでも、FWでも、どちらでも起用される可能性はあると思います。ここは守備との兼ね合いになると思いますが。

ただ、この「スピードを活かす」という項目があって、選手個々のスピードの特徴とその活かし方を体系化することで、起用する側も選手の組み合わせ方をパターン化することが出来、起用された選手側も自分が何を求めて起用されたのかを理解しやすくなりますし、その周りの選手も何を活かしてあげればよいのかを理解しやすくなります。

最後に

ここまで見てきた守備、攻撃、それぞれのコンセプトは、言ってしまえば何も目新しい戦略、戦術ではありません。サッカーの基本や原理原則の振れ幅の中での方向性を示したものになります。

だからこそ、所属する選手個々の特性を理解することと、そのコーディネートの仕方をクラブとして体系化して、その場その場での場当たり的な判断にならないようにすることを目的としています。

これは新強化体制発表会見で西野TDが次のように発言しています。

チームコンセプトの確立と、それをチームに落とし込んで、輝けるパフォーマンスをするチームをつくることが、我々の任務であります。それに加えて、一貫したという意味では継続性を持たせるため、そして各年代にそのコンセプトを広めていくため、その先には地域にも浦和レッズのサッカーコンセプトを広めていくために、このチーム編成システムを確立したいと考えております。

具体的に言うと、チームのコンセプトを体現する選手たちを評価する指標、言葉、数値化を行って、それを共有します。そちらでスカウティングに生かしたり、選手編成の材料として、情報の質と量を上げていくことができると考えています。そしてゆくゆくはアカデミー、地域にそれを広めていきたい、そのことによってホームグロウンの選手を増やすこと、地域のサッカーの質を上げることに貢献できると考えています。

形としては今、ドイツのSAP社をはじめとしたいろいろなシステムがあります。そのようなシステムを活用して、コーチたち、選手たちがいつでもどこでもアプローチできるものにして、広く活用し、浸透させていきたいと考えています。代表的な例としては、ドイツ代表、クラブで言うとドイツのホッフェンハイム、イングランドのリバプール、マンチェスター・シティ、そういったヨーロッパの強豪クラブは既に導入しています。

サッカー界だけではなく、これからのスポーツ界では、そうしたデータの活用やITソリューションの活用というものが非常に重要な要素になってくると考えています。そういったサイエンスメント、監督や指導者の経験値とかひらめきとか感覚的なところ、そうしたアートのところを一緒に進行させてアプローチさせていけるチームが強いチームになると考えています。

ですのでTDとしては、いくつかミッションの内の一つとして、このサイエンスを導入して、再現可能、実現可能、継続可能なチームコンセプトをつくっていきたいと考えています。

クラブとしての三年計画の完成形としては所属する選手の特性理解から組み合わせ方(起用法)のところまでを出来るだけ論理的に、再現性高くしていくことであり、そうなってきた時には継続して試合を観ているサポーターの大半も選手の起用意図が理解できるようになるのだと思います。

試合の内容についても同様で、相手との兼ね合いはあるものの、どの場面ではどのように振舞うべき、どのようなプレー選択をするべきというのが選手、スタッフ、サポーターに共有され、スタジアム全体が同じ方向を向く、同じイメージを共有することが出来るはずです。

人によっては拍手が出るけど、人によっては「そうじゃないだろ!」となっているのが、ここ数年の埼スタの空気だったように思います。
そうではなくて、埼スタ全体が一つのプレーに対して同じような評価、良いプレーをすれば大きな拍車や歓声、悪いプレーをしてしまった時にはそれを伝え、次は頼むぞというリアクション、そうした一体感のある湧き方が出てくると良いですね。

今後もどこかでクラブの方向転換があった場合や、私自身のサッカー理解が深まっていく中でこの部分は違ったないうのがあれば適宜改訂していきます。
10000字を超える記事になってしまいましたが、お付き合いいただきありがとうございました。

では、また。

・初版:2020/8/12

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