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「浦和レッズ三年計画を定点観測」~#23. 2020 J1 第18節 vs清水 レビュー&採点~

折り返し地点を過ぎ後半戦に突入した今節。
過密日程ではあるものの、涼しくなってきた試合の中での選手の体力の消耗は抑えられるようになってきました。

そんな中で今節も柴戸は元気にチーム最長の走行距離(11.959km)を記録し、橋岡と山中は攻守ともに精力的な動きを繰り返したことでスプリント回数が両チームの中でトップ2(橋岡:31回、山中:28回)になるなど、積極的・情熱的という要素を直感的に感じやすい走力の部分を表現するには良い環境になってきたのかなと思います。

さて、まずは試合の流れを振り返ろうと思います。
両チームのスタメンは以下の通りでした。

清水は前々節のFマリノス戦から3バックに変更し、4バックの時にはボランチとしてプレーしていたヘナト・アウグストが最終ラインの中央に入りました。

浦和の4-4-2に対してビルドアップの場面では所定の位置を取るだけで数的有利&ポジションのズレを作れるので、いかにこの配置を活かして浦和の守備の穴を突いていくかというのがこの試合の清水のテーマだったと思います。
一方の浦和はボールを持たれた時には何かアクションを起こさないとボールを奪うことは難しいので、いかに2トップ+αを用意して清水の3バックの自由を奪うのかが浦和の守備での注目ポイントとなりました。

◆試合序盤にボールを保持したのは清水

浦和が清水のビルドアップへの対策としてはサイドの選手が縦スライドしていくことでした。
1:50~では立田に対して武藤、西澤に対して橋岡が縦スライドしてプレッシングを行い、6:48~はヴァウドに対して汰木、エウシーニョに対して山中が縦スライドする姿勢を見せます。

3バックに対してプレッシングを行ってボールを外回りにさせて、WBに入ったところをSBが潰すか、あるいはWBに対してSBが縦方向から潰しに行って逃げ道を内側かバックパスに限定しているので、その逃げ先でボランチや前線が潰すかを目論んだと思います。

しかし、1:50~のところでは橋岡が西澤を潰しきれずファウルになって清水ボールが継続し、6:48~のところではアンカーの竹内がヴァウドをサポートして、守備の矢印が左サイドに向いた浦和に対して逆サイドへ脱出することに成功しました。

浦和としては2トップがプレッシングしたところから奪いに行くアクションがスタートするため、アンカーの竹内をどうケアするのかがポイントになりますが、柴戸・長澤の周りを清水のIHやFWが覗くことでなかなか中盤が竹内や下りていくIHのところを潰しに行くことが出来ず、プレッシングに行っても浦和のFWーMF間でボールをキープされ逆サイドまでボールが展開されるシーンが続きました。

清水は人と人の間を取ることへの意識が高かったため、初期配置による優位性を活かしながら浦和の中盤ラインを越すところまでは出来ていました。
ですが、ゾーン3の最終ライン突破の局面でも人と人の間という意識があったせいか、間は取れても裏を取る動きは少なく、撤退時はコンパクトな4-4のブロックを作る浦和に対しての前後の揺さぶりが少なかったため、ペナルティエリア内までは侵入できず、最終的にはエリア外からのミドルシュートかクロスだけとなり決定機を作るには至りませんでした。

◆浦和が狙うのはWBの裏

浦和は特に左サイド(汰木、山中)がWBを引き出してその背後へ走り込むという動きを繰り返しました。
内側(鈴木の脇)でボールを持った山中が外側に開く汰木へパスを送ってエウシーニョを食いつかせたところで、その背後へ走り込むというシーンが前半に何度も見られました。
大槻監督から何度も「汰木!幅!」という声が飛んだのも、SHにはWBの裏をとって欲しいというプランがあったので、そこを狙えるポジションを取っておいて欲しいというのもあったのだろうと思います。

また、山中が外側でボールを持った時には汰木がエウシーニョとヴァウドの間から裏のスペースへ走り込んで山中からのボールを引き出すシーンもありました。

◆してやったり?の先制点

清水がボールを持つ時間は長いが、浦和も背後のスペースへ一刺ししてやろうという狙いの見える時間が続きましたが、スコアが動いたのはそれとは違う形でした。

右サイドからのコーナーキックを武藤がアウトスイングで入れて、こぼれたボールを山中が強烈なシュート。岩波がこぼれ球に反応した竹内をさりげなくスクリーンしていたのも見逃せませんが、試合の大きな流れとは違う部分で浦和が先制します

DAZN中継内での大槻監督の試合後インタビューで「試合前にそういった形(コーナーキックでのこぼれ球)があるっていうことは想定内にしてくださいということはお願いしました」と話していたり、
山中自身も「こぼれ球のところはいつも狙っていますし、力まずリラックスしてミートできたので、それが一番良かった点かなと思います」と話していたりしましたし、
この試合の1本目のコーナーキックが12分台にありましたが、この時もキッカーは武藤で山中はゴール正面でペナルティエリアの少し外にポジションを取っていましたので、偶発的ではなく想定していた形の中で得点することが出来たといって良いと思います。

◆CKからの逆襲で追加点

後半に入っても両チームのスタンスに大きな変更はなく、清水の最終ラインがボールを持った時に、浦和は外側に誘導してWBに対して縦を切って中に出させるもそこで奪いきれずという展開が続きます。

57分にカウンターの流れから西澤がシュートを打ったところを西川が指先ではじき出して清水がコーナーキックを獲得。1回目は槙野がはじき返し、2回目はボールが流れて、その流れた先(浦和から見て左側のエリア)で清水の選手が狭いスペースでのパス交換を試みます。

一度中央でボールを受けようとしたドゥトラに入ってくることろで、最後尾残っていた興梠が左サイドへ押し返すようなプレッシングし、左サイドへ流れて守備をしていた長澤がドゥトラのトラップが少し大きくなったところを奪うことの成功。

長澤から一気にレオナルドへスルーパスを通し、ゴール前まで一気に運んだレオナルドは立田と大久保を横に倒し、竹内の十分に引き付けてから上がってきた興梠へラストパス。大きな決定機を確実に決めて浦和がリードを2点に広げました。

◆プラン継続のための選手交代

浦和が2点目を取った後に清水は3枚替えを敢行します。
ドゥトラ、カルリーニョスの2トップに代えてティーラシンと後藤、右WBのエウシーニョに代えて成岡を投入し右IHの鈴木を右WBへ移動させます。
その後、浦和も武藤、汰木の両SHに代えてマルティノスと関根を投入。

清水についてはクラモフスキー監督が試合後に「自分たちのやりたいパフォーマンスは出せていたと思うし」と話したように、それまでのプランの変更はなく、あくまでも人をフレッシュにすることで改めてプランを実行する力を補充する形。
浦和についても関根とマルティノスがそれぞれ左右のCBに対してプレッシングする姿勢を見せたり、清水のWBの裏のスペースへ走り込んで行ったりと、大きなプラン変更や修正ではなく、あくまでも継続。

両チームとも狙った状況を作れている、あるいは想定の範囲内の試合展開で進んでいるという認識だったのだろうと思います。

◆今節のマルちゃん

2点差でリードしており、なおかつ清水がボールを持つ時間が多い展開の中でこの試合のプレッシングの肝となるSHにマルティノス投入というのは正直驚きました。

投入されてからしばらくは立田に対してプレッシングに行ったり、橋岡がボールを持った時に西澤の背後へ走り込んだりとこの試合でSHの課されたタスクをこなしていましたが、ファウルで倒されたりプレッシングを剥がされて自陣へ押し込まれるようになってから雲行きが怪しくなっていきます。

武藤が出ていた間は撤退守備ではなるべくSBをペナルティエリアの外に出さず、外のスペースはSHが下がって対応することが多かったです。
そのおかげで橋岡が中に残り、CBが2枚とも中に残れましたが、橋岡が外に出るとなると間を柴戸が下りて埋めるか、岩波が外側へ出るのか、いずれも中央の選手への影響が出てきます。

そして91分に右サイドでマルティノスが一度立田へ対応した後は傍観者になってしまったことで、橋岡、柴戸、岩波が外側に引き出され、肝心なゴール幅の中には槙野と山中の2枚。
人数が減れば、どうしてもボールサイドに寄っていくことになるのでゴール幅の中で槙野がボール側、山中が中央になってしまいました。
清水で中央にいたのはティーラシン。ティーラシンvs山中ではどうしても分が悪く、さらに先にゴール前にポジションを取られてしまったので山中とすれば少しでも体勢を悪くすることで精いっぱいで、浦和としては不要な失点を喫することになってしまいました。

日本代表で中島翔哉にどの程度守備タスクを負わせるか問題が出たように、浦和にもマルティノスにどの程度守備タスクを負わせるか問題が出てきてしまっています。
攻撃でも三振かホームランかくらいの振れ幅がある中で、守備にも不安があるという元巨人のマルティネスのような起用の難しさがある中で、いったい彼を今後どのように起用するのか、ピッチ内外から「マルちゃん!マルちゃん!」と何度も声が飛ぶような状況を許容し続けることが、果たして真面目にタスクをこなしている選手にとってどう見えるのか。

マルティノス自身についてもありますが、周りへの影響も踏まえたマネジメントもした方が良いのかなと思うようなパフォーマンスが川崎戦、清水戦と続いています。
しかし、そんな不安を一気に吹き飛ばすようなプレーを見せてくれるかもしれないという淡い期待を私たちはこれからも抱いてしまうのでしょう。罪深い。

すみません。
マルちゃんの愚痴が長くなりましたが、続いては今節の採点結果になります。

採点結果

Q1.<保持/非保持 共通>個の能力を最大限に発揮していたか?
→ 3点 (アンケート:2.1点)

得点の部分では山中のキック力、レオナルドの落ち着きといった個人のプラスの面が見えましたが、なかなか守備でボールを奪う局面の中において橋岡が西澤を潰せなかったり、長澤・柴戸というボールハントが得意な選手のいる場所へボールを誘導して、長澤と柴戸自身も相手ではなく味方の誘導の仕方を基準にしてポジションを取ることが出来たりするともっと良かったのかなと。

Q2.<保持/非保持 共通>前向き、積極的、情熱的なプレーをしていたか?
→ 4点 (アンケート:2.5点)

守備ではなるべく前向きな対応を心掛けていました。
撤退守備の時にはラインを深くして、中盤もしっかり下がってコンパクトにブロック全体で前を向きながら対応しましたし、プレッシングもサイドの選手が縦スライドで前に出て行くなど積極性はあったと思います。
その流れでボールを奪えるシーンが作れれば良かったなと思います。

攻撃でも相手のWB裏という共通して狙う場所があったことで前向きなパスや運び出しが出来ていたと思います。

Q3.<保持/非保持 共通>攻守に切れ目のない、相手を休ませないプレーをしていたか?
→ 2点 (アンケート:1.5点)

トランジションの部分での出足は清水の方が早いシーンが多かったです。
興梠は杉本よりも動いて守備をするため、ボールを奪った時にいる場所が安定せずすぐにそこへ預けることが難しく、撤退守備の場面が多く人数を割いて守っていたためポジトラはあまりスムーズにいきませんでした。

ネガトラも汰木にパスを出して山中が追い越していくところでボールを奪われてしまったり、自らポジションを動かしていく途中でボールを失うシーンがあったため、トランジションではそこを突かれることもありました。

Q4.<保持>運んだり、味方のスピードを活かしたりしていたか?
→ 4点 (アンケート:1.9点)

WB裏のスペースへ走って受けようとするという点では味方のスピードを活かすような攻撃をしていたと思います。

最終ラインから運んでいくプレーはあまり出ませんでした。
例えば5:00~では柴戸が少し下りて清水の2トップ脇でボールを持ちました。この時に外側の山中へすぐに出して、山中もボールを受けたらすぐにエウシーニョの背後へ走り出した汰木へボールを出しました。

この試合の狙いとしてWB裏というのがあったので、この選択も間違ってはないと思いますが、例えば柴戸が山中の対応をしようとする鈴木に向かって運んで山中をさらにフリーにすることが出来たら、エウシーニョは山中の方へ食いつくことになってさらに汰木がフリーに出来たのではないかという考え方もあっても良いかなと思いました。

Q5.<保持>数的有利を作っていたか?
→ 3点 (アンケート:1.8点)

清水の2トップに対して柴戸が下りて3vs2を作るようなシーンは何度か出ていました。
左サイドの抜け出しの部分でも山中、汰木に加えて長澤や興梠が顔を出すことでIHの鈴木、WBのエウシーニョ、CBのヴァウドに対して優位性を取ろうとしているのかなというように見えました。
ですが、数的有利を作ってしっかり崩すよりもマッチアップの部分での駆け引き(汰木が下がってエウシーニョを引き出す等)をメインにした攻め方でしたので、この項目にそこまでこだわっている感じは受けませんでした。

Q6.<保持>短時間でフィニッシュまで行っていたか?
→ 2点 (アンケート:2.0点)

前半のシュートは山中のゴールになった1本のみと、狙う場所はあってそこへ展開してはいましたがフィニッシュまでは繋がりませんでした。

後半も追加点になったカウンターは短時間でのフィニッシュになりましたが、それ以外ではなかなかスイッチを入れても一気に打開するということは出来ず。
このあたりは清水が5バックで人海戦術のような感じでゴール前を守っていたのでシュートコースが簡単には開かなかったことも一因かなと思いますが。

Q7.<保持>ボールを出来るだけスピーディに展開していたか?
→ 3点 (アンケート:1.9点)

WBの裏という狙いがあったので、サイドでボールを持った時の判断スピード悪くなかったと思います。

79:35〜の岩波→ハーフレーンの杉本→外の山中→WB裏に抜ける関根→武富のワンタッチでの展開は今季ここまでなかなか見られないスピーディかつ沢山の人数が関わった良い展開でした。
武富に対してヘナトが食いついていたので、武富がシュートをやめて中央へ入った杉本へパスを出していたら、自分で打つよりもコースが開けていたので得点になったかもしれませんね。

Q8.<非保持>最終ラインを高く、全体をコンパクトにしていたか?
→ 3点 (アンケート:1.6点)

SHがプレッシングに出て行った時の最終ラインはもう少し高くして全体をコンパクトに押し上げても良いかなとは思いますが、清水が前節の湘南戦で相手が前に来るならシンプルにロングボールというのを繰り返していたので、その辺りを気にして上げすぎないようにというのを意識したのかもしれません。

とは言え、清水のIHや2トップが下がりながら浦和の中盤の間に顔を出すことを繰り返したので、その間にボールが入った時に槙野が潰しに出ていくことも出来ていたので、この試合の清水相手には極端にラインを上げる必要もなかったとも言えると思います。

Q9.<非保持>ボールの位置、味方の距離を設定して奪っていたか?
→ 2点 (アンケート:1.5点)

ボールと味方の位置から次の場所を予測して奪いにいくアクションはあったのですが、そこで奪い切れなかったかなと。特に橋岡vs西澤のところですが。

Q10.試合全体の満足度は?
→ 3点 (アンケート:1.9点)

内容は可もなく不可もなくというか、清水を応援されている方には悪いですが、今の清水相手であればこれくらいは最低限やれるよねという内容だったのかなと思います。

DAZNのコメンタリーが煽るほど清水のペースだったとは思いませんし、かと言って浦和が狙っていたことを表現しきれた訳でもないと思います。
拾うべき勝ち点を拾えて良かったという感じでしょうか。

またしても中2日で横浜FC戦がやってきます。試合を振り返るだけでも時間がかかるのに、次に向けての準備をリカバリーをさせながら選手たちに落とし込む時間などない訳です。

こういう状況では、いかにシンプルかつ効果的なプランを提示して選手たちの迷いを取り払えるかが大事になりますが、その点に於いてはリーグ屈指とも思われる下平監督が次節の相手。

前回対戦時は非保持でマンマークをベースにした5-3-2でしたが、現在は4-4-2でゾーン基準の非保持を目指しています。
ボール保持のチームとしての質やイメージは残したままで、川崎戦では敗れたものの2得点するなどしっかり得点できるチームです。

とはいえ、個人の質を見れば浦和の方に分がある訳で、何で(どこで)優位を取れるのかを明確にして、叩ける武器で叩ききることが今の浦和に出来ることだと思いますので、どのような武器を選択するのかに注目して観たいと思います。

まず1つ目のシーズンダブルを取りましょう。では、また。

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