2022/2/12 川崎vs浦和(FFS杯)
中継の中でも言及されていましたが、ゼロックス杯というとあまり良い印象が無いので試合前は「どうなるんだろうなー」という感情がネガティブな方へ傾いていたのが正直なところですが、試合を通して非常に精神的にも体力的にも充実しているようなプレーが出ていて良かったなと思います。
また今年もよほど時間が取れるときはフルで見返すかもしれませんが、基本的には初見の段階でメモを取ったシーンをいくつか見返す程度の熱量が残っている状態で雑感を書いていこうと思います。
チーム始動からクラブ公式でも浦レポなどの別コンテンツでも昨年のキャンプとの違いとして、静的な状態でこういう時はこうするといったレッスン的なものではなく、トレーニングの設定の部分でチームコンセプトが表現されるような仕組みを用意しておいてプレーさせる割合を増やしたものが多かったということが言われていました。
昨年主軸としてプレーした選手が残り、ある程度ポジションをしっかりとってプレーすること、コンセプトという抽象的なものを踏まえて自分でプレーを選択していくこと、これらに慣れているであろう選手を獲得したということでこれが実現できたのだろうと思います。
もちろん相手が違うので簡単な比較はしても意味がありませんが、昨年の同時期に行われた相模原とのTMと比べると、選手たちのポジションを取る早さであったり、そこから相手のアクションを見て空いているスペースを見つけて使うことの共有であったり、非保持でも前線が出す明確な矢印に対して後列の選手たちがそれに応じたポジションを取って対処したり、チームとしての練度が高くなっていることを十分に感じられる内容でした。
プレッシングでいうと、前半10'07~の場面ではバックパスを受けた車屋に江坂が縦方向をふさいでチョンソンリョンまでボールを下げさせ、さらに谷口へ渡るところまで明本が追いかけていったところなんかは昨年も行っていた相手から幅を奪って外へ追いやるプレッシングを継続して表現できている場面でした。
前半2'20や前半37'00は江坂が車屋に素早く横から寄せてボールを捨てさせています。昨年9月以降の江坂&小泉が2トップに入ったときに特に効果的に行われたプレッシングではありますが、5月の神戸戦ではユンカーもこれをやっていますし、この試合の明本もやれているので、今の浦和では非保持で2トップに入る選手の必修科目として共有されているのかなと思います。
浦和も川崎もボールを持つことを志向するチームではありますが、ビルドアップの時のCBの動き方にかなり違いがあるが面白いなと思います。
Twitterにも書きましたが、川崎のCBはビルドアップの段階で積極的に開いたりGKの脇まで下りたりすることはしない印象があります。図にした場面でいえば車屋からソンリョンにバックパスが出たところに対する谷口のポジションの取り直しはスピードも緩いですし、ソンリョンから谷口へのパススピードも遅いので明本のプレッシングが間に合っています。
対する浦和の方は前半4'01の場面を取り上げてみると、馬渡からショルツにバックパスが入った段階で岩波は15mくらいダッシュで下がって相手から距離を取って確実に前向きにボールをもらえる状態を作っています。
2020年にも大槻さんはこの動きを求めてはいましたが、リカルドはこれをより強調していましたし、ショルツは加入当初からこの動きが速くて正確だったことで今では岩波はかなり自然にこの動きをするようになりましたね。
この場面自体は岩尾から酒井への浮き球のパスがちょっと高く上がりすぎてボールの到達に時間がかかった分、川崎の選手たちの対応が間に合ってしまいましたが、少し外側を切るように柴戸に対してチャナティップが寄せたのを見て酒井が開くことを認知して岩尾がパスをするところまでは非常にスムーズで良いプレーだったと思います。
CBの開き方、相手との距離の取り方は浦和の方がはっきり行う、川崎の方はそこまでやらないというのが違いとしてあります。
浦和の方のやり方はビルドアップが引っかかってカウンターを受けたときにゴール前に人がいない状態が出来てしまいやすい面もあるので、ビルドアップとそれがうまくいかなかった時のリスク管理にどれくらいのリソースを割り当てますか?という思想の話なのでどちらが良い・悪いではない話です。昨年の春先、特にマリノス戦なんかはこれで痛い目を見ましたからね。
逆に川崎は、ある程度窮屈な状態でボールを受けたとしても、登里・山根の両SBであったり、IHに入る選手であったり、はたまた家長までを含めた誰かしらが近くへ上手くサポートに来てくれて繋げてしまうので、CBにはそこまでポジションを動くことを求めていないのかもしれません。
前半11'13~は江坂が谷口へ内側から寄せていますが、外に開いた山根へ鋭くパスを通し、逆サイドのIHである大島がこのエリアに加勢してボールをキープ、逆サイドまで展開して最終的にはチャナティップがペナルティエリアを横切る斜めのクロスボールを上げるところまで行けてしまっています。
さて、この試合では解説の中村憲剛氏も言及していましたが、岩尾憲の「気の利いたプレー」というのが随所に出ていました。18'40にショルツがダミアンと家長の間をドリブルで割り込んでいく場面ではへその部分にいた岩尾がショルツの運び出しに合わせて自分が後ろに降りていくことでショルツの運ぶスペースを空けてあげるだけでなく、仮にショルツのドリブルが引っかかってもショルツが空けたスペースが埋まっている状態になっています。
前半41'00もショルツの前が大島にふさがれそうになった時に素早くビハインドサポートのポジションを取って家長から距離を取ると、前向きにボールを引き取って中央でフリーになっている関根へ展開、そこへ江坂と柴戸が絡んで明本がミドルシュートを放つという場面までつながりました。
欲を言えば柴戸から明本へのパスはもう少し長めに出して裏のスペースへ抜け出させてあげるとさらに大きなチャンスになったのかもしれません。本気で優勝を狙うならそういったもうちょっと上手くできたんじゃない?みたいなことも突き詰めていけたら良いなと思います。
話を戻すと、そうしたチャンスに繋がりそうなところで岩尾の的確なサポートのアクションが入っていて、そりゃリカルドはこの選手を重宝するよなーというのが昨年までの彼のプレーをあまり意識していなかった人にも伝わったんじゃないかなと思います。
ただ、川崎の方も自分たちのターンを作って押し込み始めると、浦和の方は決壊こそしないものの自陣からなかなか抜け出せない時間が前半20分以降は続きました。特に撤退時は川崎の選手のハーフレーン裏抜けをケアするために酒井が出たスペースを関根が埋める動きが多く、そうなると中盤が薄くなるので2トップの位置も低くなり、ボールを奪っても前に出ていけないという展開。
ゴールキックになってプレーが切れたことで24'30にチャナティップの外側にいる酒井を使いながら前進していくことはあったものの、流れの中で挽回するまでには至らず。後半から非保持の形を江坂を左SHにした4-5-1へ変更したのはこういうところが影響していたようですね。
(今回、後半になって中盤の真ん中を3枚にするような形で川崎フロンターレの攻撃に対応していたように思えたが、前半のどういうところを見て修正したのか?)
「前半の最初の方は、高い位置からの追い方であったり、ボールをうまく回収できたりなど、守り方が非常に良かったと思います。ただ、そこから押し込まれる時間が長くなっていく中、どうしても人数をかけて守らないといけなくなりました。江坂(任)がサイドの方でディフェンスのサポートに入る機会が多くなってきて、そこをハッキリさせるため、というところもありました。それから、相手のインサイドの選手たちの、どんどんゴール脇に進入してくるランニングが増えてきて、そこについていくために中盤の枚数を増やす、という狙いがありました。
4-5-1にしたことでハーフレーンの密度を高めたことで、後半20'20にはそこへ差し込もうとしたところをひっかけて関根→岩尾→江坂→敦樹とつないで密集を突破して一気に川崎陣内まで攻め入りました。
そして後半34'45~でも中盤5枚がコンパクトに構えたことで川崎の攻撃を遅らせ、少し瀬古が迷っている間に明本がプレスバックでボールを奪ってしまうと、明本はそのあとの敦樹からの裏へのパスにも抜け出すというまさに「犬のように走って」チャンスを作り江坂のゴールをお膳立て。
川崎が攻守とも積極的に前に人数をかける分、使いたいスペースがあるのでアクションを起こしやすいという点はあるにしても、試合を通して明本だけでなく裏のスペースを狙っていたのはとても良かったなと思います。特に敦樹はSH兼IHのような役割でしたし、試合全体として浦和の攻撃は左にはあまり人数がかかっていない分だけ彼の動けるスペースがあって躍動しているように見えました。
決定機は多くありませんでしたが、そこできっちり決めきることができたのはとてもポジティブですし、明本が前で使える目途が立てばこれだけアグレッシブになるんだなと思いました。そして、明本を前で使うための算段として馬渡が家長に対して強く守備ができていたのは良かったな思います。
家長が得意な右手で相手を抑えてしまって距離を作ろうとするのに対して、その腕を振り払って距離を詰めようとするような強気な面もありました。保持では左に入ると右利きなので大外に張るよりは内側に入った方がやりやすいのか敦樹と内側でノッキングする場面もありましたが、これはお互いの理解が深まればある程度解消するのかなとか、大久保みたいな左外でプレーができる選手と組めば気にならなくなるかなとか、そんな風に思います。
ラスト10分間の5バックについては川崎もその時間帯に配置を崩して攻めていたので何とも評価しづらい気がしますが、無失点という結果は自信にしていいんじゃないかなと思います。松崎、宮本、犬飼もピッチの中で浮いている感じは全くなくて、次はもう少し長い時間プレーしているところを見たいなと思います。
今年のユニフォームのお披露目の試合でもありましたが、今年は襟付きなので油断すると襟が裏返った状態になってしまうのは気を付けないといけませんね。宮本がピッチに入るまでベンチの誰かが気付いて直してあげられなかったんですかね。。笑
さて、いよいよ来週からリーグ戦が開幕。スーパー杯で勝ったのはリーグ優勝した2006年以来ということで、なんだか良い験を担げたような気がしますね。開幕するといきなり5連戦で、その4戦目には川崎との再戦になります。まずはここでしっかり勝ち点を重ねていきたいですね。
今回も駄文にお付き合い頂きありがとうございました。