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20230124 素描、

1月24日(火)晴れ時々曇り

快速急行東京行き、七人掛けの座席シートに、空席が一つ、スマートフォンを触る人が一人、目を瞑る人が二人、文庫本を開く人が三人、ひとつは文庫カバーで見えず、ひとつは沖で待つ、そしてもうひとつが告白。岩波文庫。表紙カバーを取り外して読んでいる。風合いからして古本。告白は二つ。ルソーかアウグスティヌス。どちらかは分からない。電車が駅に停まり乗客が入れ替わる。しかし男は席を立たない。終点の東京に着いても、まだ手元の本を見つめている。他の乗客がみんな降りてから、独自のタイミングで立つ。男は電車を降りてからもしばらくホームに立ち尽くし、昇降客が行き来するなか、告白を読み続けた。目線は手元に落としたまま、やがてゆっくりと歩きだし、そのまま正面のエスカレーターに乗った。ふとした拍子に、たとえばページを捲ったり、姿勢を変えたりするタイミングで、どちらの告白か明らかになることを私は期待し、男の様子を伺っていた。しかし結局分からずじまいで、男はくだりのエスカレーターに乗ってまもなく、文庫を閉じ、コートの右のポケットに仕舞い込んだ。どちらの告白だったのか。それがわかったところで何も分からないことに、エスカレーターを降りてしばらくしてから、私は気付いた。

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