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緊急時に思考停止になる理由

皆さんは、「この程度なら大丈夫」「自分なら大丈夫」といった判断をした結果、逆に被害を拡大してしまったという経験はありますでしょうか??

実はこうした状況の事を、正常性バイアスといいます。

ここでは、正常性バイアスの定義やメカニズムなどについて解説していきます。

正常性バイアスとは?


もともとは心理学で使われる用語ですが、社会心理学や災害心理学、医療用語として幅広く使われます。

人間が予期しない事態に遭遇した時、「ありえない」・「自分は平気」といった先入観や偏見(バイアス)が作用し、物事を正常の範囲だと自動的(無意識)に認識する心の働きの事をいいます。

人間がもつ心の防衛反応


そもそも何故、緊急時にこの正常性バイアスが働くのか。

脳には心の安定を守る防御反応が元々備わっており、正常性バイアスもその防御反応の一つとされています。ストレスを回避するために自動的に機能するもので、誰もが持ち合わせてるのです。

日常生活の中で生じる様々な変化や、新しい出来事に対して心が過剰に反応して疲弊しないために必要な働きなのです。

本来であれば心を平静に保つという点においては有効な機能であり、必要不可欠なのです。

正常性バイアスによる悪影響


災害等の非常時にこの防御反応が働いてしまうと、通常「危険な状態」と判断すべき事象を「大きな問題ではない」と誤認する危険性もあります。

また、正常性バイアスは人数が多いほどかかりやすいといった特徴が研究結果で判明したそうです。

実験室内で煙を発生させ、危険を感じて逃げるまでの時間を「室内に1人」、「室内に3人」の場合に分けて測定したところ、煙に気付くまでの時間は両者ともほぼ同一だったそうです。

しかし、室外に避難するまでの時間においては、「室内に3人」の方が1人よりも約1分ほど遅くなったそうです。

正常性バイアスがもたらす災害について


それでは、実際に正常性バイアスによる災害事例を見てみましょう。

① 大邱地下鉄放火事件

2003年に韓国で発生した、乗客による放火で車両火災が起こった「大邱地下鉄放火事件」です。

煙が車両内に立ち込める中、乗客は座ったまま待機していたため死者192名、負傷者146名という大惨事になった事件です。

鉄道会社による誘導の遅れ、車両の設備不備などが被害拡大の大きな要因ですが、乗客が進んで避難せず待機していたという、「正常性バイアスによって避難が遅れた」点も影響したと言われています。

②東日本大震災

甚大な被害を出した東日本大震災では、未曾有の大地震の混乱もあり、「すぐに避難できなかった」、「あれほど巨大な津波が来るとは想像できなかった」と思った人が多数いた事がのちの報道によって判明しました。

そう話していた人々が住む地域には、

  1. 大型防潮堤等の水防施設が設置されていた。

  2. 10m超の津波を経験した人はいなかった。
    などの様々な要因があり、災害時の迅速な避難行動が取れなかったことも事実です。

よって、一概に「いち早く行動を取れるか」「危険に鈍感になっていないか」を明確に線引きできない部分もありますが、緊急事態下で的確な行動を取れるか否かの明暗を分ける「正常性バイアス」の働きも少なからず関係してます。

③御嶽山の噴火

御嶽山の噴火の際にも、正常性バイアスが働いていた可能性があります。

火山が噴火した際、「大丈夫だろう」(=正常性バイアスの働き)と、立ち上る噴煙を撮影していたため、避難が遅れた人も少なくないといわれているそうです。

災害などに直面した際、自分の身を守るために迅速に行動できる人は、“驚くほど少ない”ことが今回の事例からも分かったかと思います。

正常性バイアスの対処法


日ごろから、「想定外の事態」「あらゆる可能性」を想定し、考え続ける訓練をしておくことです。いざというときでも、的確に対応できる可能性はあります。

また、行動指針を作っておくのも有効な手段です。行動指針を作成しておけば、緊急時でも、指針に基づいて対応できます。指針に基づいて行動する事によって、正常性バイアスが働き、物事の判断が鈍くなる状態にも左右される事もありません。

まとめ


いかがでしたでしょうか。正常性バイアスとは、決して悪いことではなく、むしろ緊急時に働く、人間の防衛反応だということがお分かりいただけたかと思います。

日頃からあらゆる可能性を考え続けることは、人によっては難しいかも知れません。

しかし、行動指針を決めておくと、緊急時にはその行動指針に基づいて対応できる可能性は高まるのではないかと思います。

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