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ラズベリーのゼリー

合成されたチェリー味のキャンディで
舌が赤く染まってベタついている。

少し前から、鈍色の雲に
空が覆われ始めていて、
もし、雨が降り始めたら、
雨粒の間引きをしなきゃいけないな
とどうしようもなく気怠い頭で
ぼんやり思う。

雨垂れを間引きし終えたら、
冷蔵庫に入れたままの、
ラズベリーゼリーでも食べよう
と決め込み
仕事にかかる準備をする。

ぬるい風と雨の匂い、不快な湿度の中で
雨垂れを少しずつ間引きする
雨粒の優劣は間引かれて
人は間引かれなくなったのは
なんだか不公平で、
やるせない気持ちがかさを増した。

一通り仕事を終えると、
大地に染み込めなかった
間引かれた雨粒を一滴ずつシリンジに詰めて
私の左肘の内側の、
青い血管に注入し
循環の環の中に形だけでも戻してやる。

食器棚からステンレスのスプーンと
冷蔵庫から濁った赤色の
ラズベリーのゼリーを取り出して
ひと匙すくった
金属の上で震えるそれが、
人間の中身みたいに見える。

喉奥まで滑り込むと
ゼリーはゼリーでは無く
既に私の一部になっていた。

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