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世界で一番哀しいキスをして 



叶わない恋について、どう考えますか? 


「届かないものに届きたいとそう願う一瞬のことを永遠と呼ぶんだよ」 


大好きでずっと密かにファンである女の子がインスタの質問箱でそう答えていた。
永遠って一瞬なんだよ、どんなときも。そしてきっと願ったり祈ったりすることしかできない手に触れることができないもの。


あなたはわたしと過ごした時間を今、どれくらい覚えてるのかな。もうなんにも覚えてないかな、断片的かな、それとも鮮明に覚えているのかな。



わたしのファーストキスは合コンでのことだった。
その日にはじめて会った好きでもない人と、キスをした。
大学生の頃、その一度だけ合コンに参加した。
王様ゲームをして盛り上がった頃に、○番と◯番がキスというお題をわたしの友達が引き当てた。その友達も男性経験がなく、わたしを見つめてきた。わたしはその友達には、彼氏がいたことがあると思われていたから、その場で怯むことがなんだか許されなかった。


好きでもない人とキスをした。感情なんてきっとなかった。それでよかった。
男性経験のない自分が恥ずかしかったから強がって、キスくらい、何でもないふりをしてこなした。


もうその人の顔も思い出せないし、この日のことは忘れたくて今この記事を書くときにふと思い出した、そのくらいの思い出。
それでも、わたしはみんなと別れてから泣きながら電車に乗って帰った。よく分からない気持ちだった。


あの夜、わたしは自分を殺した気がした。
こうやってみんな大人になるのか、と自分を納得させた。
当時、大学の同じゼミの比較的仲良しだった男の子が大好きだった。それも彼とは音楽の趣味がまるっきり同じだったこと、本の話ができたこと、彼の放つ言葉選びが好きだったこと、そんなことから彼とはずっとおしゃべりができたし居心地がよかった。
それでも、友達だった。ゼミ仲間でしかなかった。


こんな何の取り柄も価値もないわたしでも、惜しみなく差し出せたらみんながしている恋愛という科目をこなすことができたのだろうか。いやむしろ、こんなわたしだから全部を差し出して、やっと誰か受け取ってくれるくらいなんだと今なら分かる。

昔からみんなができている恋愛経験が一つもこなせないどうしようもない自分が大嫌いだ。誕生日おめでとうと言ってもらったことも、夏祭りもクリスマスもバレンタインデーも旅行も何一つ、彼氏とこなしたことがない。


キスは情が移るんだと思う。
セフレ関係にある人たちがキスはしないという約束を交わすことも、なんとなく理解できる。


いっそ、好きだという感情を交わすことなく体だけの関係の方がいいのかもしれない。
一時の快楽やストレス発散にわたしを利用される方がいっそ割り切れて良かったのかもしれない。


それでも、いつもそうじゃないと、あなたが好きだと訴えかけてきた彼はわたしの出会った男性の中で初めてだった。外見も中身も褒めてくれたのは初めてだった。
できなくてもいいよ、キスをしてハグをして、大好きだって感じたいと、あなたはそう伝えてきた。でもそれは許されない関係だった。どうしたって喜ばしいものではなく、暗闇でしか叶えることができないそんな関係だった。だから、あなたとのキスはわたしの生きてきた世界の中で一番哀しいキスだった。



来世はどうか、学生時代に普通に彼氏を作って、たくさんの思い出をつくりたい。帰り道にコンビニでアイスを買ったり、コーヒー買ったり。彼氏の家で映画を見たり。そんな、ありふれた日常が欲しい。



生まれ変わったら、当たり前にみんながこなせる日常が欲しい。
そう願うだけで、もう取り戻せない時間を想って今日も涙がこぼれた。




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