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いるよ!

「俺ね、めっちゃ仲良い友達がいるんたけど、そいつとは毎日話すんだよね」

そう話す春之(はるゆき)くんは大学生の男の子だ。
友達は真也(しんや)くん。

2人はオンライン上で知り合った仲でもう5年は付き合いがある。
住んでいる方向は東西で真逆だったから、いつか一緒に真ん中あたりで旅行をしようと話していた。

高校2年の頃。
お互い交友関係は広くなく、ゲームとオンラインの友人にのめり込んだ時期があった。
その中でも特に気が合うし居心地が良かったので毎日2人で駄弁ってはゲームを楽しんでいたそうである。

「もちろんお互い実家暮らしで、家族とも話した事があるくらい仲よくてさ。よくゲームしてると横から“お風呂入りなさい!”とか“苺洗ったから食べる?”とか聞こえてくるの。そんで、俺と話してるのはもう日課だから、今日も遊んでるの?って声かけてきたり」

家族関係も良好で、特に真也さんの姉は賑やかな人だった。

「いっつも、10時過ぎ位になると真也の母さんが“風呂入れー”って言うんだよね。それで“ごめん行ってくるわー”って30分位離席するの。その間に真也の姉ちゃんが“いえーい!今日は何してんのー?”って」

離席した弟の部屋にこっそりと入ってきた姉が春之くんと雑談をしにやってくるのが日課だった。
高校生の自分より少し年上のお姉さんで、大学生と聞いた。
「勝手に部屋に入ったって怒られたら嫌だから内緒ねー」が彼女の口癖で、いつも真也くんが風呂から上がって戻る少し前に雑談を切り上げて去ってゆく

その日もそうだった。
春之さんは通話むこうの姉が“そろそろ行くね”と去るのを「はーい」と見送り、真也さんが戻るのを待った。

普段は真也さんが戻るとまたすぐゲームを再開するのだが、その日はなんとなく「そういや真也の姉ちゃんさあ」と話を切り出したのである。

「えっ?」
「え?なに?」
「いや、うちは一人っ子」
「えっ!?」

「いるよ!!!」
一人っ子、という一言に驚嘆の声を上げた春之さんの左耳に直に女の怒声が届いて“ふうっ”と息が吹きかけられた。
ヘッドフォン越しではない肉声と吐息。

思わず耳を覆っていたヘッドフォンを外し部屋を見回したが勿論誰もいない。
耳にはしっかりと息を吹きかけられた感覚が残っている。

再びヘッドフォンを装着した春之さんは「ごめん、別の奴と勘違いした」とその場はうまく誤魔化した。
先程の怒声は向こうには聞こえていないらしく、不思議そうな声で真也さんが「え?なんかあった?」と笑った。

「……次の日も普通に話に来たし、その日以降も関係的には何も変わらなかったんだ。それから1年経って大学生になって、初めて旅行で真也の家に泊まりに行った時にこっそり確かめたけど、本当に一人っ子だったし家族は3人きりだった」

今でも彼女は真也さんが離席すると姉として雑談しにやってくる。
この事は真也さんには伝えていない。
なんとなく、伝えてはいけないような気がしている。

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