No title.
朝日の眩しさに目を覚ますと、まだ隣で気持ち良さそうに眠る彼に目を向けた。遅くなるから行かないなんて言っていても結局、深夜にやって来てはこうして目覚めると必ず隣で眠ってる。
「寂しいなら素直に来たらいいのに」
まだ一緒に住んでないものの、この状態は半同棲なのかもしれない。そんなことを思いながら隣でぐっすり眠る彼を起こさない声音で呟くと、汗で少しベタつく彼の柔らかい頬を突いてみた。
「んー、なに……?」
「ごめんね、何もないよ」
「なにそれ」
うん、さすがに起こしてしまった。まだ眠そうな目を少し開きながらも、わたしの返事にクスクスと笑う。そんな彼にかわいいという言葉が溢れそうになったのを止めるかのように、ふわふわの黒髪に優しく、優しく触れるように頭を撫でた。
「うぇっ!?」
「……いたずらですか?」
わたしが触れたことで、さっきよりも目が覚めた彼に腕を掴まれ、突然にも視界がぐるんっと反転する。器用にも体勢を変えられたことに気づくと、すっぽりと彼の腕の中で抱きしめられていたわたし。抱き枕にされてる状況になんだかドキドキ。ドキドキと鳴り響く心臓の音がうるさい。
「ねぇ、ちょっと……!」
「おしおき」
「えっ……」
まだまだ眠そうな声で呟く彼。表情を見なくてもわかる、この状況を楽しんでるということに。彼といることにまだ慣れなくて、この恋が初恋かのようにドキドキしてしまうわたしは、彼に抱きしめられることが苦手だった。もちろんそんなことは知ってるはずなのに、そわそわするわたしにクスクスと楽しそうな声が聞こえてくる。
「……ねぇ」
「……」
「おにーさん、嘘寝しないでくださーい」
「めっちゃ寝てるよー」
「普通に起きてんじゃん」
長くなったわたしの赤い髪の毛を優しく撫でながら、寝てると嘘をつく彼に思わずわたしも笑みがこぼれてしまった。抱きしめられているところから彼の体温を感じると、なんだかすこし今日はいつもより安心感を抱いた。
「ねぇ、何かあった?」
「……なんにもないよ、なんで?」
「いつもなら逃げるのに、全然逃げないし」
「……そんなところに気づかなくていいんですけどー」
「好きな子のことは監視のように見てるので!」
「いや、怖いって」
特別なにかあったわけではない。なんとなく思うことがあっただけ、それだけだった。それなのにわたしよりも察しがいい彼は、そういうことにすぐ気づく。気づいてほしくないことまで気づいてしまう。
「……なんでよ」
「ん? なにが?」
「余計なことまで気づかなくていいのに」
「俺の好きな子は強がりで、頼るのも甘えるのも下手だからなあ」
気づかれてるなんて思ったことなかった。彼はどこか見てるようで、わたしのことなんて見ていないと思っていた。弱さを見せないように頑張っていたことが、彼に知られてるなんて思わなかった。驚きすぎて伝えたい言葉があったはずなのに、引っかかって何も出てきてくれなかった。
「女の子なんだから大人しく守られてなよ」
「やだ! すきな人ぐらい守れる強さを持っていたい!」
「……あんまりかっこよくなんないでくれます?」
「なんで? また好きになる?」
「それはもちろんだけど……俺も男の子なんで好きな子を守りたいんですよ、おねーさん」
「えっ」
「そこ照れんのやめてくれる? 言わせといてやめて! 俺も恥ずかしいじゃん!」
「いやだって、そんなこと言われるとは……」
「好きなんだから当たり前でしょ」
抱きしめられてるだけでもドキドキするのに、わたしに覆い被さるように少し体勢を変えると、額がくっつかないギリギリすぎるこの距離感に、緊張がさらに止まらなくなった。
「ねぇ……」
「ドキドキした?」
「……ずっとドキドキしてるよ」
「素直でよろしい」
そんな至近距離でクスクス笑いながら、丁寧に伝えてくれる彼からの想いが、とてつもなく温かくて嬉しくて……愛おしい。でも、やっぱり自分が好きになった人くらいは、守れるような強さは持っていたいし、どんなときも一番の味方でいたい。
「こんなかわいい子を嫌うことなんてないんだからさ、俺の前では強くなくていいし、一生守られてなよ……ね?」
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