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企業がフェムテックを導入しない理由の1位は「よく知らないから」。令和4年度経済産業省フェムテック実証事業を終えて。

こんにちは。株式会社nanoni代表の張聖です。2022年の7月くらいからスタートした令和4年度経済産業省フェムテック実証事業。nanoniでは、フェムテック活用に関心のある企業が社内稟議で使えるようなデータ提供を目指し、業界の利用動向調査を約半年間行っていました。先ほど最終レポートを今回協力いただいた企業にご報告し、正式に?全てのプロジェクトを終えることができたので、備忘録としてプロジェクトの振り返りを残します。

スタートアップが省庁のプロジェクトに応募する際の何かの参考に、またフェムテックに関わる関係者の方々にとっても少しでもヒントになれば幸いです。

なぜ経済産業省の実証事業で利用動向調査を行ったのか

公募が始まった2022年の春頃、徐々に企業がフェムテックに関心を持ち、制度設計をワンストップでサポートするnanoniでもお問合せをいただくことが増え始めた時期でした。一方で当時は、情報収集を目的とした打ち合わせが多く、導入ニーズが企業の経営課題と紐付いていないために検討の優先度が上がらない状況。営業活動を行うフェムテック スタートアップにとっては、企業のニーズが不明瞭なので芯を食った提案ができない、そんなところに業界の課題を感じていました。

「経産省のプロジェクトとして実施できるなら自社だけでなく業界にとって有益な情報を提供したい」そんな想いはぼんやりと持っていたので、フェムテックを各社に先行して導入してきた企業群の属性や導入理由をデータ化することで、フェムテックプレイヤーにとって営業のヒントとなる情報を提供することを目指すこととしました。

どんな実証事業を行ったのか

大雑把にまとめると、「どんな企業がフェムテック導入readyなのか」、そして「フェムテック企業は営業リソースをどこに張ればいいのか」を可視化するための調査と営業データの分析を行いました。

当初の予定では、なでしこ銘柄や健康経営銘柄、くるみんなど国の認定マークを取得していて女性活躍推進に関心の高そうな企業から1,000社を抽出し、インサイドセールス(電話アプローチ)を実施することを計画していました。

これはちょっとした自慢ですが、チームやご一緒させていただいた皆様の優秀さに助けられ、なんと1ヶ月で実施事項が完了。余力ができたので、残りの期間に展示会出展やDM施策など、一般的な営業活動で取りうるアプローチの網羅性を高めることにチャレンジしました。その結果は次の通り。

  • 2023年1月時点で、合計10,000社以上の企業へのヒアリングを試み、450社以上と接触することに成功

  • 最終的な提案率は、紹介経由以上にインサイドセールスや展示会が高かった

フェムテック利用動向調査2022 株式会社nanoni

今回、合計で10,000社以上の企業に事実上アプローチを行ったものの、ヒアリング後、carefullの提案まで進めている企業は2023年1月時点でわずか46社。すなわち実際にフェムテック企業が営業アプローチリストを一から作成しても、実際に提案まで進むのは1%前後しかいない計算となり、ビジネス目線では1社あたりの受注金額を上げない限り、ビジネス上立ち行かない状況であることがわかりました。これは「情報収集はしているだけ」「予算がない」など、「情報感度はあるが実際に行動には移せていない」企業が多数いることが理由です。そのため、中長期的にはフェムテック導入企業への助成金交付や各企業の導入モチベーションを高めるための事例発信など官民一丸となったマーケティング施策で世論を作っていく必要性が垣間見えました。

ヒアリングして分かったフェムテックの市場感

※ここから先はプレスリリースで発表した内容からの転載です。

女性の健康課題は経営・人事上の課題に挙がっていない企業が6割超

「月経や妊活、更年期などライフイベントに起因した女性の健康課題は経営・人事上の課題に挙がっていますか?」に「はい」と回答したのは、全体の約3分の1にとどまり、経営・人事上の課題に上がっていない企業が6割を超えることが分かりました。

女性の健康課題を認識している企業でも、何から手をつけて良いか分からず、取り組みに着手できていない状況

女性の健康課題を経営・人事上の課題として認識している企業では、「妊娠・不妊への対応」(21.2%)、「月経・PMSへの対応」(19.6%)、「ヘルスリテラシーの向上」(19.0%)、「婦人科検診の受診促進」(14.1%)など幅広い課題認識を持っていることがわかりました。様々な角度からの課題解決が期待されているようです。

女性の健康課題を認識している企業のうち、具体的な検討まで至らないと回答した企業は22.4%となりました。その理由で最も多かった回答は「何から手を付ければいいか全体像が描けていない」(25.5%)となりました。

具体的に女性の健康課題の認識を持ち、具体的に対策を検討中または実施中の企業の45.9%がセミナー・研修・啓発を実施もしくは検討していました。

​一方、9.4%の企業はその施策に至った背景として「その他・不明」と回答しました。nanoniによる個別のヒアリングの中で、「何をやるべきかわからないから、とりあえずセミナーで啓発活動をしている。他に更にやるべきことが明確になったら施策を増やしていきたい」という声が複数上がりました。

「フェムテック」に関する関心は高い一方で、「フェムテック」の具体的な事例・理解度の低さが導入の阻害要因

女性の健康課題を認識し、対策を実施しているまたは検討中の企業の58.4%がフェムテックに関するサービスの導入を検討したいと回答しました。フェムテックとして求めるニーズは企業によってさまざまであり、eラーニングや専門家とのオンライン相談などが上位を占めました。


一方で、フェムテックの導入検討に否定的であった企業にとって、その回答の理由は「そもそもフェムテックをよく知らない」(16.5%)、「不明」(23.5%)となり、フェムテックに関する理解不足が導入検討の大きな阻害要因であることが判明しました。

女性活躍推進は日本社会にとって必須のテーマでありながら、まだ対策は限定的。特に本調査の中で、何をやればよいのかわからない、という企業からの回答が目立ち、各企業が手探りで解決策を模索している状況だとわかりました。フェムテックについての関心も近年で高まりを見せていますが、その言葉だけが注目をされて実態の認知がまだされていないように感じます。

まだまだ業界課題はたくさんありますが、こうしてフェムテック黎明期における市場動向を発表できたこと、少しでも業界を盛り上げるような活動に繋がりますように。改めてアンケートに協力をいただいた企業の担当者様や、本プロジェクトをサポートしてくれた皆様、そしてnanoniを採択いただいた経済産業省の事務局の皆様、多大なるご支援をありがとうございました。


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