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全アルバムレビュー:King Gizzard & The Lizard Wizard

//最終加筆修正: 2023/6/3

キング・ギザード&ザ・リザード・ウィザードにハマりました。
フジロック2019出演者を予習する中で出会い、気に入ったのがきっかけです。

当時、1枚目から時系列順に聴いていこうと決めたものの、その時すでに15枚もリリースされていたので、忘れないよう個人的に感想を残し始めたのが本稿のベースです。
サックリ全作を聴いたとかではなく、1枚あたりそれなりに時間をかけて咀嚼したものになります。
現時点の最新作である、2022年10月リリース「Changes」までを含む、全アルバムレビューです。

彼らについて
・King Gizzard & the Lizard Wizardはオーストラリアのサイケデリックロックバンド。
・2012年デビュー。2022年10月時点で、フルアルバムが23枚リリースされている。

個人的な好みではありますが、オススメ度合いを★5つで記しました。
曲単位では、強烈に聴いてほしい曲(太字)だけYouTubeを貼るので、読むのが面倒だったら、動画だけでも聴いて行ってほしい。
ではいきます。
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■ 12 Bar Bruise (2012) ★★
1枚目。期待のデビュー・フルアルバム。
ガレージ色が強く、セルフレコーディングの荒削りなサウンド。
曲個々はやや小粒ながら随所にグッドメロディありの、バンド最初期らしい勢い重視な一発目。
癖は弱めで2-3分の曲が並ぶのでサラっといけます。
この時期の作品を聴いている方は少ないと思いますが、こんな感じです。
ワンコがいい味出してます。↓

■ Eyes Like the Sky (2013) ★
2ndということで期待を込めて再生ボタンを押し、大変困惑した一枚。
2曲目3曲目と進んでもインストだし、セリフが入っていたり、馬の足音や銃声っぽいSE、昔のカウボーイ映画を思わせるギターフレーズ。
そうこれ、コンセプトアルバムで、架空のウエスタンオーディオブック(つまり西部劇)なのだそうだ。
おかしいだろ。なんで2枚目にこれをやるか。
早くも雲行きが怪しくなる。次。

■ Float Along – Fill Your Lungs (2013) ★★
3枚目。
おおむね3分前後の曲でまとめられているが、なぜか1曲目だけ16分もある大作。なんでこう極端なのか。
ファーストアルバムの勢いを僅かに残しつつサイケに接近。
また、随所にシタールを用いていたりとラーガ・ロックの味付けも追加。深みが増しています。
バンドの表現の幅広さを感じさせる一枚ですが、まだブレイク前夜の趣。

■ Oddments (2014) ★★
4枚目。
やたらとロックンロールしてる導入の#1から、#2のディープなサイケデリックサウンドへの落差に困惑。
その後もガレージ、サイケ、トラディショナルフォークと統一感なく進む。
そんな中にあって、佳作なのが#5 Work This Time
哀愁のあるメロディと深くかかったトレモロサウンドがたまりません。こんな曲書けるの?という驚き。
ちなみにこの曲はSpotifyにおいてバンド一番の再生回数を誇っており、マニアックな隠れた名曲というポジションが妥当だと思うんですが、謎です。

■ I'm in Your Mind Fuzz (2014) ★★★
5枚目。サイケ要素を残しつつガレージの勢いとポップさが共存。
ポストパンク/ニューウェイブ以降の要素を思わせるリズムにツインドラム、
ペナペナしたファズギターと、ポップ過ぎず難解すぎない絶妙なボーカルのメロディ。
後にパブリックイメージの一つとなるこのバンドの「らしさ」が登場したのはアルバムかなと。
とはいえまだ過渡期といった感じで、この路線が大きく結実するのは8枚目以降。

■ Quarters! (2015) ★★
6枚目。40分4曲という潔い構成が光ります。
これ、前作/次作アルバムとのつながりを全く感じない謎の一枚で、フロントマンのマッケンジー曰く、
「いつものような残忍なギターペダルや、ぶっ飛んだギターアンプは使いたくなかった」だそうな。
この中だとジャジーな#1 The Riverは頭一つ抜けた仕上がり。
私の購入したものには5曲目がオマケで入ってましたが、これは蛇足かな。

■ Paper Mâché Dream Balloon (2015) ★★★
7枚目。
アシッドフォーク。ここまでフォーキーな路線に振り切っているのは今作のみ。(真逆に振り切っているものはある 笑)
フルートやクラリネット、ハーモニカなど、アコースティックな楽器でまとめられていて、エレキギターは(おそらく)全く使われていない。
明らかにコンセプト重視の一発なんですが、これが良いんです。
牧歌的なサウンドが心地よいし、何より曲が良い。
決して代表作にはなり得ないけど良作。
お勧めは#2 Bone。かわいい路線のキンギザ。

■ Nonagon Infinity (2016) ★★★★
勢いのあるサウンドに戻る。そして傑作。
出だしの#1Robo Stopがいきなりこれまでとは一線を画すキャッチーな一発。
#3 Gamma Knifeも目立った出来で、この2曲が非常に強烈。どちらもFujiRockでも演奏していた(最高でした)
曲間ゼロで全曲繋がっていたり、同じモチーフのリフが多用されているなど統一感が素敵。
バンドとしての勢いが十分に反映された一枚ですが、強いて欠点を挙げるなら、録音があまりよくない点。(作風に合ってはいる)
ちなみにこのアルバム、単なる全曲メドレーではなく、曲が入れ替わってもシームレスで繋がるように設計されているのがユニーク。
つまり、シャフルしても違和感なく曲が繋がる。と思いきや、綺麗に繋がらないパターンもある。雑である 笑
無限(Infinity)に繋がる9曲(Nonagon)。

■ Flying Microtonal Banana (2017) ★★★★
9枚目。折り返し。
曲調としては、勢いの後退と引き換えにアンサンブルが巧みになり、魅力が大きく増した。
一聴すると地味な印象ですが、曲の平均値が高く、特に小気味良いリズムとエレピの絡みが楽しい#2 Melting、この時期の代表曲#3 Sleep Drifterがオススメ。
それから#5 Billabong Valleyはトラディショナルな雰囲気が新鮮で、こういう表現の曲が聴けるとは思わなかった。
ギターやベースにフレッドを追加して12音階を更に刻んだり、中東の民族楽器を用いたりと、バンドの探求心がパッケージされているが、それを無視しても、ちょっと変わったギターロックとして面白く聴けると思う。
これ気に入った人は12枚目のPolygondwanalandに行ってください。間違いないです。

■ Murder of the Universe (2017) ★★
10枚目。来ました、メタルです。
ストリーミング時代を完全ド無視した、3枚組、全21曲の大作。
(トータル47分なので、実はあっという間に聴けてしまう)
これまでのガレージ然としたガチャガチャしたものでも、浮遊感のあるサイケサウンドでもなく、鋭利でヘビーなサウンド。
大真面目な内容なんですけど、なんか笑えるのがこのバンドらしいところ。
歪んだギターと早いテンポに面食らいますが、よく聴くと前前作のNonagon Infinity の延長にある作品だと気づきます。つまりこれはこれで良い。
カッコいい曲もあるけど、合間にナレーションが入ってきたりと、どうしても聴きづらさがあるかなと。

■ Sketches of Brunswick East (2017) ★★★
11枚目
甘くリゾートを感じさせるサイケポップに急転換。前作との落差が物凄い。
書き忘れましたが、これ同年3枚目の作品です。驚異的なペース。
どこかファンタジーな雰囲気で箱庭感があり、これまでの作品では聞けなかったフレーズや音像。そんなプレイスタイル隠し持ってたの?って感じだけど、それもそのはず、サイケポップグループMild High Clubとのコラボ作。
名義も「King Gizzard & The Lizard Wizard & Mild High Club」になっているので探す時に注意。
#3 Tezetaは物語性のある展開とギターフレーズが楽しく、#8 Dusk To Dawn On Lygon Street~#9 The Bookの流れはテーマパークやサーカスを想起する世界観で引き込まれます。
相変わらず妙なことやってますが、しっかり曲が良いのがこのバンドの強み。

■ Polygondwanaland (2017) ★★★★★
12枚目。来ました★五つ。自分はこれが一番好き。
9作目Flying Microtonal Bananaからの流れ組みつつ、どの曲も聴きどころがありダレる箇所がない、完成度の高い一枚。
シンセのシーケンスとエレクトロよりのドラムがアタック感を生み出し、その上のベースとギターが絶妙に絡む。何より歌モノとしての強度も保っているのが良いです。他と比べて薄っすらとニューウェーブの味付けが施されているのが特徴。
#1 Crumbling Castleは代表曲の一つ。メロディもバンドアレンジも最高に冴えている。10分ある点を除けば。
個人的な好みをいうと、#5 Inner Cell、#7 Horologyの2曲。共に小刻みなリズムのAメロを経た、メロディアスなサビが最高です。こういうタイプの曲は過去11枚には無かった。こういうことが彼らの作品には多い。バンドとしての引き出しが無限。
ちなみにこの#7はライブだと疾走感がマシマシで、これまた良いので是非。彼ら、ライブアルバムという沼もあるので。
↓はCrumbling Castle。

Gumboot Soup (2017) ★★★★
13枚目。2017年5枚目のアルバム。
しょっぱなの#1 Beginner's Luckが名曲。ぜひ聴いてほしい。キャリア史上かつてない美しく親しみやすいメロディで驚きます。この曲の路線ってここでしか見られず、余地を残してると思うんで、どこかで回帰してほしい。
#3 Barefoot Desert、#6 Down the Sinkは中期The Beatlesのようなキャッチーさと、踊るベースライン、フルート、メロトロンが最高。
ただし、それ以外にはヘビーなサウンドとサイケ曲が混在し、アルバムとしては統一感に欠ける内容。目まぐるしくジャンルを横断したこの1年の旅路をパッケージしたかのような一作。
曲単体では良い曲入ってるし、演奏面で聴かせるフレーズが多いので、結局好きな1枚。

■ Fishing for Fishies (2019) ★★★
14枚目。
彼らとしては長めの、前作から1年半のブランク(?)を経た作品。サウンドプロダクションがタイトでクリアになった。
自分は初めて買った彼らのアルバムがこれでした。初来日が同年なので、そういう人、多いんじゃないでしょうか。
Boogieと名のついた曲が3つも入っている通りブルースへ接近してるものの、キャリア中最も軽快なサイケ・ポップでもあり、懐古主義に走らずハイブリットな質感。このバランス感はこのアルバムに限るものですが、非常にとっつきやすく曲も良いので、人に薦めやすい一枚。
#2 Boogieman Samは最高にゴキゲンな曲なのでぜひ聴いてほしい。

■ Infest the Rats' Nest (2019) ★★
15枚目。
前作の路線で高まった期待に、残忍なギターペダルで答えた。
同じく激しい路線のMurder of the Universe(10枚目)とは明らかに違って、ツーバスで叩きまくるドラムに、ブリッジミュートを多用したギター、がなり声のボーカルと、スラッシュメタルの文脈で作られている。
しかもアクセルを保ったまま9曲爆走。好き嫌いは分かれるものの、結構人気があるようで、ライブレパートリーが多いですね。評価が低めなのはメタル路線が苦手な私の好みです。
崎山蒼志くんがフェイバリットに本作を挙げていて驚きました。

■ K.G.(2020) ★★★
16枚目。導入の#1が終わり、#2 Automationが始まった瞬間、帰ってきた!と思った。小気味良いリズム隊とオリエンタルな響きのフレージング、9枚目FlyingMicrotonal Banana、12枚目Polygondwanalandの延長にある、彼ら得意のミドルテンポのオルタナです。これ、嬉しかったですね。と同時に、作風が右往左往したリリース群を経て、戻る場所も出てきたのかなという妙な感慨も覚えました。
楽曲でいうと、#3のMinimum Brain Sizeが非常に好きで、各パートの緊張感のある絡みが最高。他も良曲多し。

■ L.W. (2021) ★★★★
17枚目。兄弟版の前作を引き継ぐ内容。
#1で導入、#2で徐々にギアを上げ、#3にキャッチーな曲を配置、#4以降で深みへ誘う、と構成も共通してます。
前作K.Gとどちらが上かは難しいところですが、収録曲の強さではK.G.に軍配、アルバム全体としてはL.Wという印象です。
最後の曲でK.Gの1曲目に戻ってフィニッシュ。次作への変化を予感させる、綺麗な終わり方です。

■ Butterfly 3000 (2021) ★★★
18枚目。6月にして早くも2枚目。
今作はモジュラーシンセを全面的にフィーチャー。恐ろしいことにまた新しい事をやっています。
これまでの彼らはフレーズがはっきりした楽曲が多かったと思いますが、ここではシンセやギターのループが中心となり、幽玄で浮遊感のあるドリーミーなサウンドを構築。Animal Collectiveが引き合いに出ているようで、確かにという感じです。
ただこれ、突飛なものではなく、2013~2014年頃のサイケ色が強かった時期の雰囲気を感じさせ、キャリアを経た作品って感じが好印象。
リードシングルが無かったので、どの曲がPushされてるのか不明ですが、アルバムの特徴がよく出ているということで#1のYoursを貼っておきます。
このあと、全曲のMVが公開されていくそうです。よく働くな本当に。

■Made in Timeland(2022) ★
19枚目。あまり日の目を見ていないアルバムだと思います、というのもリリース形態がレコード盤のみなんですよこれ。
現在はサブスクでも配信されました!

中身は15分のトラックが2曲。
アシッドテクノ系譜のインストが軸ですが、構成されたピースは個別制作された集合体であるため、オリエンタルな場面への転換など映画的な楽しみ方も良きです。
彼らの作品としてじっくり腰を据えて聴く内容かというと、違うかなという気もしますが、忘れた頃に遠くから聴こえてくるマッケンジーのボーカルとか、チルい雰囲気が心地良いのでさらっと流しておけます。

内容的にはフルアルバムより企画盤って感じですね。
次作が20枚目と発表されていたので、おいおいこれもカウントするのかよって感じもしますが、一応合わせておきます。

■ Omnium Gatherum(2022) ★★★
20枚目は16曲の大作。バンド曰く、本作は転機であり作曲や録音面で新たな境地'jammy period'に突入したとのことです。底が知れないとはこのこと。

2020~2021年の「K.G.」~「Butterfly 3000」がパンデミックによる影響で遠隔で録音されたそうなので、よりバンド一体となった制作体制に入ったということでしょう。
内容としては1曲目が18分の超大曲(相変わらずだな)、以降はキャリアを横断するように多様な楽曲が並び、一聴するとやや散漫で決め手に欠けますが、実は入門向けとして機能するアルバムだと思います。ヘビーなサウンドの#4 Gaiaが気に入ればInfest The Rat's Nest(2019)へ、#8 The Gorlden Goblinのリゾート感漂うサイケポップに引っかかったらSketches of Brunswick East(2017)へ、といった風に、各曲それを突き詰めた傑作へ繋げられるので。
オススメの曲は従来ファン向けにはお馴染みビートとハーモニーの組み合わせが光る#3 Kepler-22b、新しさという意味ではラップを導入した#11 The Grim Reaperを挙げておきます。
ちなみに本作はサブスクだと16曲マラソンになってしまうので、フィジカルリリース同様#1~#6で[DISC1]、#7~#16で[DISC2]と2枚組として聴くと、ちょうど40minずつになり聴きやすくてオススメです。

Ice, Death, Planets, Lungs, Mushrooms and Lava(2022)★★★
この年の10月、彼らは3週連続のリリースを敢行。その1枚目にして3作中最も評価が高いのが本作です。ジャムから生み出された楽曲はどれも7分以上とハードルは高め。そんな中でも#2 Ice Vは文句なしの傑作。
#4 Lavaも祭事のように徐々に盛り上がる様が、聴きごたえが抜群です。
一方#3, #5あたりはもうひと山欲しいと思ってしまう場面もあり
じっくり向き合うにはコンディションが求められますが、バンドの充実と底力を感じることができる良作です。

Laminated Denim(2022)★★
狂気の毎週リリース2枚目。
タイトルは前前作Made in Timelandのアナグラムで、15分の2曲、計30分で構成というコンセプトが共通してます。こっちは彼ら得意のポリリズムに乗ったサイケロックですが、曲も長いですからね、聴きやすいかと言われると厳しいものがあります。
が、この2曲目のHyperTensionが実は隠れた佳作。序盤早々に始まるギターソロはアンサンブルで聴かせる楽しいもので、それを経た5分付近にメインヴァースに帰還し綺麗に着地する様も見事。エモいユニゾンソロの後、11分過ぎにもうひと山展開があるのも嬉しいですね。近年の長大曲では前作IceVとこの曲が好きです。
その内容からスキップするには勿体ないアルバムなので是非聞いてほしいですね。

Changes(2022) ★★★
連続リリース3作目。通算だと23枚目です。
前々作の"Ice ,Death,Planets~"がインパクト強めだったせいか、やや影が薄い本作ですが、これ結構面白いアルバムで私的にはお気に入りです。気持ち的には星3.5くらい。
1曲目Changesを起点にして、以降の楽曲でも同一のフレーズをモチーフに作られており、バンドのアイデアやアレンジ能力の高さを堪能できる一枚です。そして各楽曲タイトルの頭文字を並べると現れるのは"Changes"。キマってますねー。
制作開始が2017年と少しずつアイデアを詰め込んだそうなので、"Ice ,Death,Planets~"とは対極で綿密に計算された作品です。マッケンジー曰く「ギズのレコードとしては超考慮されている」だそうな。
シンセベースのフレーズと音圧が心地良い#5 Gondiiがインパクトあって好きですね。

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以上になります。
今後もリリースがあったら加筆するかもです。します。

末永く活動してほしいですね。追っかけるのが本当に楽しいバンドなので、ぜひ多くの人に聴いて頂きたいです。

それにしても長かったですね。ここまで読んでもらえるのか不安です。


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