曖と昧の往来

先日、ドライブで静岡に行った。

ドライブだから多少は遠出したいね。でもどこに行くかは決まってない。あ、あと温泉は入りたいよね。じゃあ夜は温泉に行こう。あれ、昼間はどうしよう。うーん、なんかどこでもいいから適当に決めてよ。
そんな時の妥協点として、静岡県東部は極めて利便性が高い。

熱海には温泉。御殿場にはアウトレット。至るところにハンバーグのさわやか。東名フリーウェイ。右に見える富士山、左は太平洋。この道はまるで滑走路、夜空に続く。
軽自動車に四人で乗り込む。五人乗りだからもう夢のスペースしかねぇ。それでも僕らは夢を語るでもなく漫然と車を走らせた。

例によって御殿場でアウトレットに寄り、例によって漢気じゃんけんでそれなりに勝ち、それなりに負け、なんだかんだ16時を過ぎた。
ふと思う。

爆買い中国人とマイルドヤンキーしかいなくない…?

片や、四角い黒縁メガネをかけ、日本人より大きな体格で、両手にブランド物の紙袋を手一杯に掲げ、家族で大きな声で喋りながら道の真ん中を闊歩する。首にはジャラジャラとナンセンスなアクセサリーを揺らしている。
片や、LDHに憧れたであろう髪型で、ヴィヴィッドな色遣いの服を洒落込み、下はダメージジーンズで膝が顔を出す。マイメンと大きな声で喋りながら道の真ん中を闊歩する。首にはジャラジャラとナンセンスなアクセサリーを揺らしている。

2月のなんでもない平日の昼下がりだ。真っ当な家族連れや老夫婦はいない。それは分かっている。
でも、明らかに偏りすぎだ。僕たちは必然的に道の端へ追いやられる。元より道の真ん中を驕り歩く精神性は持ち合わせていないが。

肩身の狭い思いを抱えながら、近くのさわやかへ向かう。もはや観光地と化したさわやかは、平日の夕方でも60分待ちとなっている。
ふと思う。

マイルドヤンキーしかいなくない…?

片や、オーバーサイズのスウェットを着込み、原色のスニーカーを合わせ、キューティクルが枯渇していると見紛う煤けた茶髪をツインテールに縛っている。喋ればデカい声。
片や、ストリート系でキメて分不相応なSupremeのキャップ、GALFYのアウター、adidasのジョガーパンツ、デカい声。

アウトレットは分かる。田舎に住む方々はイオンで全て済ませると聞いたことがある。アウトレットは彼らにとって同種のものなのだろう。
なぜさわやかもマイルドヤンキーに染まってしまったのか。仮にもファミリーレストランを標榜しているのに。

話しかけてみようか。
「なんでここにはマイルドヤンキーしかいないんですか?」「休日ってやっぱりアウトレットがトレンドですか?」「そもそも自分でマイルドヤンキーだと思いますか?」

興味は無限に湧いてくる。
ただ、聞いたところで「え?」「ああ…」「まあ…はい。」程度しか返ってこないと気づいて思いとどまった。

彼らはヤンキーではない。
違法性もコミュ力も全てがマイルド仕様になっている。ワイルドは地球の裏側に行かなくとも、県境をふたつ跨げばすぐマイルドになった。
内輪で盛り上がることを生業とし、仮想通貨に手を出し、億り人を尻目に人知れず借金を背負う。文語体でも方言を使う。スマホゲームの掲示板で不毛なレスバトルを繰り返す。
あくまで全てがマイルドなのだ。

僕らはヤンキーもマイルドヤンキーも馬鹿にして、その上サブカルチャーに傾倒しているだけの中身のない連中も軽蔑している。

ドン・キホーテにもヴィレッジヴァンガードにも
俺たちの居場所はなかった
だけどそれでよかった

Creepy Nutsの「どっち」という曲のHOOKを引用した。
マイルドヤンキーなんて別に僕たちの人生とは関係ない人種だ。考えることこそ無駄でどうでもいい。

面倒臭いという悟りを開くと何もかもがどうでもよくなる。
その後に食べたさわやかは空腹も相まって最高に美味しかったし、浸かった温泉は最高に気持ちよかった。

帰りの車内。
東名フリーウェイ。右に見える太平洋、左は富士山。この道はまるで滑走路、夜空に続く。
夜空に続く。夜空に続く。

続いた夜空のその先が、吉祥寺の牛丼屋巡りになることを、僕たちはまだ知らない。

#エッセイ #コラム #ドライブ #ヤンキー #オタク

ありがとうございます!!😂😂