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とはいえ失神は救済

秋。電車の冷房ってもうついてないんだな。とか、今まで気にしたことの無いような事が気になってしまう。

学校に行くにも会社に行くにも遊びに行くにも、とにかく家からはそれに乗らないとどこへも出られない線だった。

快速なら4駅。普通なら15駅の区間。
快速に乗れば次の駅に止まるのはだいたい10分後だ。

冷房があると、外から酸素が取り込まれてることが意識できたのに。

冷房無しで、外からの酸素の供給無しで、この箱は10分耐えれるのだろうか。なんて考え始めたらもうダメだった。


その場にしゃがみこむと、少しマシになる。
よかった、足元の方にはまだ酸素がいっぱいある。


そっとしておいて欲しい時に限って他人は優しいので、お節介にも席を譲ってくれたり、背中をさすってきたり、緊急停止ボタンを押したりされる。

ここで降りたらさっきまでのマインドコントロールがまたふりだしに戻ってしまう。ザワザワし始めた車内に気を遣って、また立ち上がった。

あぁもう、酸素、全然無い。

イヤホンを外し、口呼吸に変えて、昨日はちゃんと乗れたことを繰り返し思い出す。大丈夫。

そんなこんなしていると駅に着く。難関は突破した。今日も偉かった。

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元々は貧血が原因だった。
人身事故、遅延する電車、乗客は満員。身動きひとつできないまま、ノロノロと走る電車の中で、貧血を起こして初めて人前で倒れた。18歳。

満員電車には、どれだけ人が乗っていても、いざと言う時倒れるくらいのスペースはあるらしい。

気がついたら、電車の床から沢山の人の怪訝そうな顔を見上げていた。終点だった。

少し休めば治るのに、大げさに車椅子に乗せられて、沢山の人の視線を浴びながら医務室へ運ばれる。本当に恥ずかしい経験だった。

それから私は、貧血気味の時には毎回おなじ快速区間で意識を飛ばすようになった。

同じ思いはもうしたくない。どうにかしないと、と考えた結果、

快速だからダメなのだ、と思い朝は普通電車で行くことにした。

普通電車だから大丈夫。この思い込みは結構上手く行って、時間は倍くらいかかるけどちゃんと行けるようになった。

でも、これなら大丈夫。というのはすぐに、これじゃなきゃダメ。に変わる。

貧血がどうとか、もう関係なくても気持ち悪くなって、息は吸えない、立っていられない。

全ては、また人前で倒れるかもしれないという焦りだった。

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人は、落ち始めたら一瞬だと思う。

それを、普通電車じゃなきゃダメ。になったことで思う。

電車自体がダメ、会社行けない、どこにも行けない。

と、拒絶するのは、簡単。そしていつも発端は、とても些細なことだった。

些細なことが、いろんな場面で、いろんな事の発端となるのだな。

あの時の、あれもこれも。


人生がまた深く怖くなってくる、去年より一際寒い秋の日。

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