感情が目に見える瞬間(table / Rain caughts)
このテーブル大きすぎない?ご飯の時寂しいよ
いいの、大学のみんなが来たとき大きいほうがいいから。
そう言って、毎回折りたたまないとワンルームには窮屈すぎる大きなテーブルがあって
ご飯食べる時、対角線で少し遠いのが寂しい私の不満と
毎日来るでもない大学の友人のために毎回折りたたんでいる彼の姿が
なんだかぼんやりとした空気の記憶の中に残っている。
そんなこと、もうどうだっていい記憶なのに。
「本当、泣き虫だよね。もうハタチなのにさ」
夏の終わり、自分の事でない物事で鼻をすする私を横目に
オレは人の気持ちに寄り添えないから羨ましいよ、って少し笑いながら
私の目を冷やすための保冷剤を取り出すついでに
半分こして食べていたサクレレモン。
自分が好きじゃないものでも、相手が好きなものなら目に留まり
買って帰ろうと思えるあの夜が、感情が目に見える瞬間だと思ってた。
もうそんな瞬間、この先いくつ見つけれるのだろうか。
あの瞬間と、眠そうにする君にドライヤーをかけてあげてた瞬間が手に取れる幸せだと思ってた。
きっとその幸せは二度と同じ形では戻らないんだろうな。
「本物の涙は頬から落ちないし、瞼の中で光るだけなんだよ」
なんで泣かないのって、私が聞いた返事にそう答えて
「でも、君の涙は頬から落ちたら本物だね。瞼に残さないほうがいいよ」
そう話して、ティッシュをこちらに寄こしながら肩で笑ってた。
私はあの頃よりは泣き虫ではなくなったし、
改札前で泣かないし、花火大会が中止になっても4日間連絡取れないくらいじゃもう泣かないよ。
大きくなったんだもん。
でもさ、あの時君の涙は頬から落ちたから嘘なのかな。
だって泣いてる姿を見たのはあれが最初で最後だし、さ。
そんなことを考える日が来るなんて思わなかったよ、
もうあの公園はすっかり整備されて綺麗になっているらしい。
ギターの音色に色が見えるだなんて話したら
「また変なこと考えてるね」って笑いながら聞いてくれるのだろうか
Rain caughtsのtableを初めてライブで聞いたとき、水彩絵の具を浸した大きな筆が目の前の空気をザッと撫でていった。
イントロが跳ねるように、その空気を伝って押し寄せてくる。
緑でも青でもグレーでもない、彩度がぐんと低い色から
音が進むにつれて鮮やかに変化していった。こんなこともあるのか。
どきどきして呼吸が浅いまま、急いで帰宅してすぐこの話をしたら
「わかったから、テーブルひらくの手伝って」
って言われてしまいそうだな。
テーブル出して買ってきたアイスを食べるより早く、水彩絵の具に撫でられた話がしたいのに。
あ、でもそのサクレレモンはどこに置きながら食べたの?
昨日散らかしたテーブルも明日そのままにしててもいいよ
だってもう片付けなくてもだれも文句は言わないし。
ワンルームにしては大きなテーブルが目立つあの部屋は
たぶんもう何人もの人が入れ替わり住んでいるんだろうけど
窓の外の景色がいくつも変わっていたことは気づいてた?
水曜日の晩、玄関の前で待ちぼうけさせてごめん。
もう少しまってて、アイスが溶ける前にドアを開けるよ。
※この言葉と話たちはフィクションとノンフィクションです。
どこから何処までが誰と誰で私と君なのかは架空の場合もあります。
たぶん。※