【短小説】スリル

「スリル」

ガシャン!

思いっきり屋根瓦を踏み抜いてしまった

早く逃げないと…

異変に気付き犬がけたたましく吠える

腰まで埋まってなかなか抜け出せない

となり近所の犬まで吠えだして大合唱が始まった

だから犬はキライなんだ

私は通称「キャッツアイ」この道20年のベテラン怪盗だ

表の顔は平凡な二児の母で万引きGメンの仕事をしている

絶対的な立場から万引き犯に説くモラルや人格否定ほど気持ちの良いものはない

その後、優しい言葉で語りかけ理解を示し、心からの謝罪を受け取ったあと優しく微笑み警察を呼ぶ

安堵から絶望そして怒りへと変わっていく表情がたまらなく面白い

もし捕まって万引きGメンの私がキャッツアイとバレたら袋叩きにあうだろう

いや待て…今は逃げることに集中しないと

私は屋根から飛び降り走り出した

あの公園でしばらく身を隠そう

身を隠すのに丁度いい遊具のトンネルがあった

ようやく落ち着ける

もうキャッツアイは引退しないと…さすがに潮時だ

………

安心したら眠気が襲ってきた…少しだけ寝よう…少しだけ

外がずいぶん騒がしい…子供たちの声がする

外を覗くと沢山の子供と数人の大人達

……ラジオ体操か!くそ、7時間も寝てしまった!

どうする?トンネル内で見つかれば完全に不審者だ

しかし出て行っても……いや待てよ…むしろ堂々と出て行けば

「おはようございます!」

目を丸くする子供たち

笑顔、笑顔、堂々と振る舞え

「アハハ」

「気合いスゲー」

「おばさん面白い」

よかった…

夏休みでよかった

ラジオ体操があってよかった

レオタード姿で本当によかった

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