【短小説】哀愁をそそる

「哀愁をそそる」

「綺麗だよ、エッチだね」

大根にそう語りかけるのは真っ黒に日焼けした寡黙で不器用な男だ

セクシー大根を作り続けて20年が経つ

実を言うとニュースやネットで取り上げられるセクシー大根はすべて彼の作品だ

彼自身が褒められることはない、それでも世間の評判は彼に届いている

「あんな男と別れちまえよ、あいつにお前はもったいないぜ」

彼の褒め方によって様々なセクシー大根が生まれる、団地妻大根が好評だ

出て行った妻のことも少しは褒めていたら…しかし結婚してすぐ50キロも肥えた妻に言葉は出てこなかったという…

離婚後、イタリア人の甘言を真に受けた彼女が下町のモニカベルッチと呼ばれるまでに変貌しようとは…

仲睦まじく歩く二人を商店街で見かけた事がある、彼女は背中の大きく開いたイブニングドレスを着ておりその美しい姿にまたも言葉は出てこなかったという…

「私にはこの子達がいますから」

そう答えた彼の背中は切り干し大根のように痩せ細っていた

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