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津軽三味線・小山流 小山貢山氏に聞く ②「津軽三味線 異端のイノベーション史」『暇』 2023年7月号

イノベーション① 楽譜をつくる

——小山流は現在、津軽三味線の最大流派ですが、その特徴は。

小山貢山 五十嵐清栄と初代・木田林松栄に師事したのが小山流の始祖である小山貢翁ですね。小山貢翁(初代・小山貢)のなにがすごいかっていうと、楽譜にできないといわれた津軽三味線を楽譜にしたんですよね。「即興なんだから楽譜になんかできっこない!」と思われていたんですけど、小山貢翁は琴の唯是震一(ゆいぜ・しんいち)先生から楽譜の作り方を習ったんですね。それで弾いてみたら楽譜にできちゃった。家元自身も言ってましたけど、澤田勝秋(さわだ・かつあき)とか五錦竜二(ごしき・りゅうじ)先生とか、腕からすればそういった人たちに劣るっていうわけではないですけど、負けるから自分が長けていることをやろうとしたんですね。それで楽譜を作ったんですね。

イノベーション② 家元制の導入

貢山 家元制を導入したのも小山貢です。家元制のなにがいいかというと、生徒にとってはモチベーションが上がるし先生にとっては生活の糧になった。批判する人もいますけど、今でも脈々と受け継がれている。「津軽の芸人に師匠はいない」という言葉があるんですよね。津軽の芸人には系譜で箔をつけるという考えはなかったんです。実力だけで勝負する。その津軽三味線の世界に「芸の系譜」を取り入れたのはすごいことだったんですね。
家元制では小山流が最大流派で次に澤田流、高橋流、その他小さい流派がちらほらと。やはり小山流が大きくなったのは楽譜を作ったのがその要因ですね。

——なるほど。楽譜があってこそ間口が広がった。

貢山 ただ、団塊世代を中心に高齢化が進んで全体的な人数は減っていますけど。津軽三味線の大きなブームは戦後4回ありました。1960年代の三橋美智也を中心とした民謡ブーム、1970年代前半の金沢明子の第二次民謡ブーム、1970年代後半の高橋竹山ブーム、2000年代の吉田兄弟ブーム。で、いまは『ましろのおと』というアニメがあったりして。やはりアニメ化されると外国でアニメを見てやりたいと思ったという外国の方も増えてきますから広がりが違いますね。あとは和楽器バンドとか。あれは三味線のバンドではないですけど、三味線もいる。ブームとしてはそんな感じです。あとは『鬼滅の刃』に三味線を弾くキャラクターがいて、それを演奏してるのは小山豊ですね。
 今でこそ「津軽三味線」という独立した音楽ジャンルがあるように思われていますけど、そもそもは「津軽の三味線」とか「ほいどの三味線」と言われていて。「津軽三味線」という名称はキングレコードがレコードを出したときに便宜的に付けたものだったんですよね。今でも津軽三味線会館に電話すると「津軽、三味線会館です」って言うんですよね。要は「津軽にある」三味線の会館。だからあくまでも三味線はただの三味線なんですよね。

オリジナルとコピーをめぐる矛盾

貢山 それに関連して言うと、私が2012年に刊行した『津軽三味線入門 ALL IN ONE』(千野FEI)。これは7000部ぐらい売れているみたいなんですね。幕末の津軽三味線の始祖・仁太坊(秋元仁太郎)が「人まねでなく汝の三味線を弾け!」と言ったとされていてオリジナルにこだわる風潮があったんですね。「コピーなんてもってのほか!」っていう。それで私は吉田兄弟や上妻宏光さんの曲の楽譜集を公然と出版したことで批判を受けたんです。
 その背景はどういうことかというと「他人に弾かれる」ことを念頭において曲作りがされていないということなんですよね。琴なんかだと作曲すると必ず楽譜も一緒に出すものなんです。クラシックの世界では楽譜も出すのがふつうなんですけど。

——しかし津軽三味線は。

貢山 吉田兄弟や上妻さんも本人がオフィシャルで出すことはないようです。やはり他人に弾かれることを想定していないんです。今ではオリジナル曲も弾かれるようになってきたんですけどあくまでも耳コピで。

長唄三味線と津軽三味線の対立構図

貢山 三味線の胴のサイズのことを五分大(ごぶだい)っていうんですけど、長唄の三味線より五分大きいから五分大っていうんですね。長唄の細棹の三味線を基準にしているんです。津軽三味線ブームの後は、長唄の人が「じょんがら節」を弾いてくれとお願いされるということも起きたりして、今でもそうなんですけど、長唄・地唄三味線はクラシックなんですよね。津軽三味線は三味線界のJ−POPみたいなもので、一段格が低く見られていた存在だったんですよね。だから市川海老蔵さんが歌舞伎の公演で上妻宏光さんの津軽三味線を入れたときに「なんで津軽三味線を入れるんだ!」って長唄の人たちが言っていたようです。

——やはりどこか権威主義が残っている。

貢山 逆に言うと、長唄・地唄三味線はそうやって保護しないとやっていけないということでもあるんですよね。なにかの記念イベントとかでは津軽三味線でバーン!とやるほうが起用される例が多いですからね。
(つづく)

聞き手:杉本健太郎(『暇』発行人)


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