「歌が必要だ」という話 ~渋谷すばる 2nd Album『NEED』より~
久々の #Shiba的音楽レコメンド の新作です!
この更新を、載せる日が来ることを待ち望んでいました。noteにレコメンド・ライブレポを移籍する作業がまだ続いていますが、そんな中でも最近買ったアルバムの話をしたくて、うずうずしていました。
この11月に買ったアルバムがいくつかあって、それを最近ずっと聴いていたのですが、どれも面白いものばかりで、それを話したくて悶々とする日々が続いていました(笑)
今日から3日連続で、11月購入の作品を続けて紹介していけたらと思います。よかったら、noteのフォロー等、チェックしてみてもらえたら嬉しく思います!
今回、レコメンドするアルバムは...?
今回、まとめるのは、2020年11月11日にリリースされた渋谷すばるの2nd Album 『NEED』だ。昨年10月に独立後初のアルバム『二歳』を発表した彼が、2020年という時代に満を持してリリースした1枚だ。
この作品に関して、色んな論点から語れるような気がするのだが、今回はちょっと張り切ることにした。個人的なアルバムの聴き方、今に至るまでを分析したほうが、このアルバムのことが見えてくるような気がしたので。
それでは、早速行ってみましょうか。まずは、2月中旬にまで時間を巻き戻して、このnoteを始めていきたいと思います。
1. 静岡の夜・二歳ツアーに至るまで
話を2020年2月14日、まだ今のようなピリついたご時世になる前のバレンタインデーの1日に遡る。この時期、私は地元・静岡に帰省していた。その頃、インターンや1周忌とか個人的な予定が詰め込まれていたので、2週間ほど静岡に居たのだが、その中で楽しみにしていた1日があった。
その場所は、県内を代表するホールのひとつ・静岡市民文化会館 大ホール。私にとって、観客として何度もライブや劇を観に行ったり、演者として吹奏楽のパフォーマンスをしたりと、舞台裏から客席の見え方まであらゆることを知ってる数少ない場所。そんな市民文化会館に2年ぶりに足を運んだ。
その目的は、ある"歌手"の全国ツアーだった。
渋谷すばる 初の全国ツアー
彼の名前は、渋谷すばる。
人気アイドルグループ・関ジャニ∞の元メンバーであり、ソロアーティストとして音楽活動を始動。2019年10月に初のソロアルバム『二歳』をリリースし、独立後初となる全国ツアーの開催が発表された。
そんな彼のチケットを、私は予期せぬ形でゲットしてしまった。話は、彼がツアーを発表した2019年秋のこと。私の友達に、生粋の関ジャニファン(エイター)がいた。その子が私に「よかったらチケット先行協力してくれない?」と話を持ち掛けてきた。その子とは、色んな面でお世話になっていたから、私はその頼みを受けることにした。
とはいえ、元ジャニーズの彼だから、チケットの倍率は高いに違いない。半ば散ること前提で、ローチケのサイトをタップ・応募したのだった。
当落日、メールを見たら"当選"の2文字。
ラッキーなことに、チケットを取れた。それをその子に話したら、とても喜んでくれた。
しかし、私は重大なミスをしてしまっていた。それは、応募枚数が"1枚"だったこと。その子は「2枚で」というオーダーをしていたにもかかわらず、私は焦ったのか1枚だけで応募してしまっていた。その結果、私が当てたチケットは見送りとなった(その子はどうやら、幕張公演が取れていたのでそれで満足な顔でした)。
しかし、いつもだったら支払いせずに流してしまうこのチケットを、スルーすることができなかった。なんか、胸に疼くものがあったからだ。
関ジャニを辞めた彼は、どんなパフォーマンスをするのか?
彼をホール規模で観れる機会ってあまりないよな?
というか、久々に市民文化会館に行きたいな...
そんなことより、これ面白そうだよな...?
気付いたら、私は支払い完了のレシートとLチキ2枚を片手に持っていた。ワクワクしたのなら、行ってみよう。なんか、冒険心が働いた瞬間でした。
そして、この日を迎えたのであった。
2. ステージ上からみた渋谷すばるの姿
定刻19時、ライブの幕は上がった。
スタッフのパーカーを着てステージに上がってきた男は、ステージ中央でギターを持ち、マイクスタンドの前に立った。彼こそが、この日の主役・渋谷すばるだった。
1曲目『ぼくのうた』のストロークが鳴り響く。その音は、一瞬「音響さん、仕事してる?」と思ってしまうほど、ホール規模にしては相当大きな爆音であり、確かに歪んだギターのストロークだった。
しかし、その音の意味を時が経つにつれて理解していく。それは、なぜ彼が独立してまで自分の音を追及したかったのか、バンドの音を鳴らしたかったのかという、理由そのものに思えた。
それは、彼自身が鳴らしたその音に魅せられているからだ。
ギターを鳴らす姿・ハーモニカを吹く姿・そしてマイクを持って身体の底から絞り切るように歌い上げる姿、どれも彼自身の生身であり、飾らない姿そのものだった。
何故、そう感じたのか?
その理由には、やはり私の中にあった「渋谷すばる像」というものがあるのかもしれない。私がかつてテレビで見てきた彼の姿は、関西気質トークでノリがよく、いつも笑っていて、それでグループの中で歌をリードしていく。そんな姿だった。そんなキラキラした様子に、"アイドル"としてのカッコよさだとか、パーソナリティみたいなものを感じ取っていた。
しかし、この日ステージ上で観た姿は、そんな「渋谷すばる像」とは大きくかけ離れたものだった。MCの時の彼は拙く、「あ、、、あ、、、次の曲行きます」という感じ。ノリがいいと言うよりかは、めちゃくちゃ緊張しているような声に聞こえた。
しかし、音を鳴らした途端、彼の姿が大きく変化する。凛として、澄んだ目で、音を求め、歌い、楽しんでいる。それに、バンドのメンバーは応えて、グルーヴが生まれていく。その様子を見ていたら、私は「彼のこと何ひとつ知らなかった!」と衝撃を受けてしまった。
キラキラしてるわけじゃない。
アイドルなんかじゃない。
そこに立っていたのは、”音楽好き”の渋谷すばるであって、鳴らしたい音そのものにワクワクしている少年のような1人の男であった。
3. ライブツアー後の世界
気付けば「チケット取れちゃった」気分の私は、「この人すげぇ!」という興奮と衝撃の中にいるニンゲンになっていた。サブスクで聴いた程度だったアルバム『二歳』も、本当はライブに行った記念で買ったつもりだったが、気づけば上半期に相当リピートしたアルバムの1枚になっていた。
そんな下半期、彼は2nd Albumのリリースを発表した。
このアルバムのリリースにあたり、触れておかなければならないことがある。それこそ、昨今のご時世の話だろう。先ほどにも触れたツアー"渋谷すばる LIVE TOUR 2020「二歳」"は、2月26日の福岡公演以降、全公演が中止となってしまった。このツアーは、日本公演の後に上海・台北・香港とアジア各国を巡る予定であった。同時に、ツアーファイナルとして企画された大阪・舞洲で開催予定だった"渋谷すばる LIVE 2020「二歳と364日」"も中止に。つまり、届けたいものを全て届けることが叶わない状態になってしまった。
この後の世界の状況・日本国内の状況は言うまでもないことだろう。ロックダウンやソーシャルディスタンスといった感染対策、緊急事態宣言・自粛期間・東京アラートといった日本国内の独自の対応など、2020年春は日本だけでなく世界で未曽有の事態に直面していた。
これは、彼のアルバムに限らず、2020年を過ごしていき、今表現を続けている全てのアーティストに言える話だと思うのだが、今紡がれる芸術の中には、その時期に感じ取ったものや伝えたかったものが如術に反映される作品が多い。それは、この季節が多くの人たちの中で「私にとっての○○の意味って何?」という自問自答が繰り返されていた時期であるからだ。
事実、この作品にはこの時期だから生まれた思いが強く反映されている。それを切り離して考えることが難しいほど、この自問自答は、音楽にとっての大きな命題であるように思えるからだ。
4. 「音楽って、必要か?」
この自問自答に主旨を簡潔にまとめるのなら、「音楽といった芸術はライフラインにおいて必要な存在なのか?」ということだった。
この春に叫ばれていた言葉の中に「エッセンシャルワーカー」というものがあった。それは、生活するうえで無くてはならない仕事に従事している人たちのこと。例えば、病気になっている人たちを治療する医療従事者、スーパー・コンビニといった小売店で働くスタッフたち、必要な品々を運ぶ運送業の方々など。その「エッセンシャルワーカー」という言葉には、普段知らないところで生活を支えてくれていた人たちが多く存在した。
その言葉を崇拝していくご時世の中で、「芸術の必要性」というものが訴えられる。まず、この感染拡大となった時期に、真っ先に目をつけられたものは、ライブやスポーツ観戦などの大規模イベントの開催自粛だった。2月末の政府による要請が出された後、その日予定されていた東京ドームや京セラドーム大阪などの大規模な会場でのライブが即座に中止となってしまい、泣き崩れるファンの姿や苦渋の決断をしたスタッフやアーティストの悲しい顔がメディアを通じて報じられていた。
その後に行われた自粛要請などで、街から人や声・賑わいは消えていった。それによって、先ほどの「エッセンシャルワーカー」という言葉が話題となったのだが、そのことと同時に浮かび上がってきたものは、「芸術って真っ先に必要なものなのか?」「生きていくうえで、芸術ってなくてはならない存在なのか?」という、生活の最低限を求められる時代の中でのエンターテイメントの存在意義を問う声が飛んできた。
この「芸術の必要性」問題には、当時公開延期になってしまった映画やリリースが先延ばしになったCD、感染拡大のために収録が自粛されたテレビ番組など、生活における”最優先”を求めた中での、”今は違う”と認識されてしまったモノたちが、鮮明に浮かび上がってきた中での疑問符だったのだ。
ここで、私個人の意見を述べるのは、筋違いかもしれないが、私は芸術があってこそ、生活が成り立つ人がいるのではないかと思った。事実、エンターテイメントは緊急事態の上で真っ先に必要ではないものだけど、いざ苦しいときとか悲しい時があったときに、そばで寄り添ってくれるものは好きな趣味だったり大切な人だったりするわけだ。その"好きな趣味"や”大切な人”とかに関わるものが、もし真っ先に必要とされなくても、その中で生きている人がいるということを見失ってはならない。CD1枚にしても、数百・数千の人たちが関わって、手元に辿り着くわけだから、一概に”必要ない”と印をつけることはできないわけだ。
個人的な意見になってしまったが、言いたいことは「好きなものがあるから生きれる人がこの世には沢山いるということ」だ。見えない「必要最低限」があるからこそ、明日頑張ろうと思う人がいて、挫けそうなときに前を向く誰かがいるわけだ。
つまり、芸術は必要ではないかもしれないけど、それを必要として生きる人は沢山いる。映画もテレビも音楽も、必要な人にとっては大切なライフラインであるということなのだ。
5. アルバム『NEED』の話
このアルバムを買って、真っ先に聴いた中で頭に浮かんだのは、アルバムタイトルが『NEED』であること、そして、1曲目の『Sing -a cappella-』で「歌が必要だ」と叫んでいたこと。このアルバムの軸とする言葉に至った要因として、前述の話があることは、きっと言うまでもないことだった。
このアルバムに対して、本人はこんなコメントを出している。
「毎日どんなことが起きても生きていくしかないし、
その瞬間を一生懸命生きるしかない。
そのためには人との関わりが必要だし重要だと思う。
こんな今だからこそ、ただただ目の前にある
当たり前の日常を大切にしていきたい。
色々と環境や状況は変わっていく中で、
今の自分の日常から生まれた楽曲を集めたアルバム。
聞いてくれた人の日常にも寄り添えたら嬉しいです。」
このアルバムで歌われていること。
それは曲の歌詞のように、
「歌が必要だ」ということなのだ。
では、どうしてこのアルバムはそのような思いを抱いたのか?“このご時世だから”、という言葉では収まらないようなことが、そこにはあるように思える。それは一体何なのか?少し見ていきたい。
6. 『NEED』で見出した"日常"と"音楽"
前作『二歳』から今作『NEED』の変化はあるのか?といったら、それはそんな多くはないような気がする。大きな違いがあるとするのなら、音色の多彩さであるはずだ。『二歳』の中で組み立てられていた音が、彼が好きなバンドの音、例えばザ・クロマニヨンズを彷彿させるブルースハープの音色やパンクロックだったり、RCサクセションのようなギターやドラムの鳴りだったりと、彼がルーツとする音楽が色濃く出ている1枚だった。
一方、『NEED』では、キーボードの音が強くなったり、アコースティックなセッションもあったりと、バンドとしての音が多彩になった印象を覚える。この変化には、恐らく昨年末から今年春までの全国ツアーで磨き上げられた渋谷すばるバンドの結束力やグルーヴ感がそれを成しているのだと言えるはずだ。
変化は多くないと語ったのは、彼が積む曲の持つ視点や価値観は、前作と大きく変化したものではないと感じたからだ。そのことは、前作と今作に共通する要素として言えることである。それは、描く視点は身近なもの、目の前に映ったものを切り取って言葉にするということだ。
今作で大きくフォーカスされている要素がひとつあるとするのなら、その"目の前に映ったものを切り取る"ということだ。特に、それは曲のタイトルからも見えてくる。
『Earth Color』、『水』、『Noise』
『風のうた』、『人』
地球、水、雑音、風、人、どれも生きている中で感じる日常的な景色であり、生活の中で無意識に感じる側面が中心である。それを切り出すことで、彼が今歌いたいことを見出しているのだと思えた。それらの曲には、自分という1人称の中で、感じた思いや景色を紡いでいる。
Earthからの声で
未来を感じた
(渋谷すばる『Earth Color』より)
流れの中で まかれて 別れて
辿り着くまで ゆらゆら歌う
流れのままに 流れて よられて
別れの先に 君といれば笑う
(渋谷すばる『水』より)
ありがとう ごめんなさい
あの人へ 私にも
おはよう おやすみ
愛
(渋谷すばる『人』より)
一方、『今日はどんな一日だった』や『たかぶる』、『素晴らしい世界に』といった、自分対誰かという関係性や気持ちを歌う曲もこのアルバムには収められている。
意味のない事なんて 一つもないと思うんだ
偶然じゃなくて 必要だと思うんだ
ぼくは ぼくだけでは 生きられないんだ
(渋谷すばる『今日はどんな一日だった』より)
俺には分かるぜ 痛いくらいに
俺には分かるぜ お前の気持ちが
(渋谷すばる『たかぶる』より)
心を繋いでみないか
君と僕の心を
思いは届いてる
どこにいても伝わる
今 世界は素晴らしい
(渋谷すばる『素晴らしい世界に』より)
目の前にある景色、感じる想いを言葉に写しとる。このアルバムに凝縮されていることには、そんな要素が強くあるように思えた。
7. 「歌が必要だ」
歌を紡いだ時に、聴いた時に、人って当たり前にあったのに気づかなかった存在や感情に出会うことがある。特に、身近なものを切り取った瞬間に、その思いを知ることって、多いのではないかと思う。
この時代、”今を生きている”という実感を強く認識する時間が多く流れていったように思う。緊急事態宣言による自粛で自らと向き合った人も、このご時世で沢山のピンチやチャンスを知った人も、この事態になったから気付いたこと・得たものが多くある誰かも、同じような瞬間だったはずだ。
その時期だから、見えたことが沢山あった。例えば、芸術の必要性のこと。あの時、あれだけ優先順位が後だったと言っていたが、そんな話を経て気付けば、芸術があったから見えた誰かが居たし、それで生きている人も多くいたこととか。
例えば、歌のこと。
こんなご時世、近くで集まって大きな声で歌えないから、今までのような景色は作りにくいけど、歌があるから遠くても集まることができて、誰かと誰かが繋がり、ひとつになることができる。
この時間だからこそ、見えた発見や気付きは、
きっと多かったはずだ。
アルバムのラストトラック『Sing』には、
こんな歌詞がある。
歌が必要だ この世界に
歌が必要だ どんな時でも
歌が必要だ この世界中に
歌が必要だ どんな時代も
(渋谷すばる『Sing』より)
歌が必要だ。
歌って、気持ちを整えてくれる。
歌って、聴いた瞬間に、自分を彩ってくれる。
歌って、歌うと、気持ちが表れてくる。
2月の静岡で私が観たように、純粋に歌を愛する彼だから、その思いを歌いたかった。言葉にしたかった。届けたかった。うまく話せなくても、歌があればきっとできることがある。必要じゃなくでも、必要としたい。
そんな思いが、彼の中で芽生えたのだと思う。
この曲の最後で彼はこう叫ぶ。
愛してます 日本
今こそ 今こそ 歌が必要だ
「歌が必要だ」
全て、この言葉に尽きるのだ。
未曽有の2020年
見えたこと・知ったこと・失くしたこと。
数え切れないほど沢山ある中で、全ての音楽を愛し、求める人が言える、最大のアンサーは、この言葉に尽きるのだ。
渋谷すばる 2nd Album『NEED』
彼の歌への熱、思いがぎっしりと詰まった1枚です。現在、CD、配信、サブスクで絶賛発売中です!!!
最後に(あとがき)
久々のレコメンド。
張り切っていたら、中々の量になっちゃいました。ここまで読んでくれて、ありがとうございます!(面白かったら、TwitterやらInstagramやらなんかで記事の拡散なんかしてくれたら嬉しいな、なんて)
明日も1枚まとめれたら、と思います。
こんな文章を私は書いてます。
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