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【聖杯戦争候補作】When the Saints Go Marching In

"キリスト・イエスに属する者は、自分の肉を、
その情と欲と共に十字架につけてしまったのである。"
―――新約聖書『ガラテヤ人への手紙』5:24

わたしは『罪』を背負っている。拭えない……誰にも告白できない罪を。

神には、キリストには、告白出来るだろうか? いや、神は全知だ。わたしの罪を知らないはずはない。そして、罪人を罰さないはずも、悔い改めた者を赦さないはずもない。

世の中にはいろいろな罪を背負った人がいる。わたしより重い罪を背負った人だって、罰も赦しも受けず、幾らでも生きている。だが……わたしは自分を赦せない。神に祈って告白し、教会で赦してもらったって、自分で納得できない。『聖なる遺体』……あの方ご自身なら、本当にわたしを清め……赦して下さる。そう信じる……。

「何だと…!! 何なんだ、これは!! !? 手の中に…あたしの……い…いつ!? 手の中に…ク…クモが……移動していく… いや ク…クモだけじゃあない!! ハエも……!! あたしの手の爪まで!?」

何か、異常なことが起きている! これは! 遺体の……?それとも大統領の……!?「ハッ!!」

攻撃を避け、窓を突き破る! だが今、飛び降りるわけには……!うッ!?「まっ……窓ワクがッ!!」

体内に窓ワクが、ガラス片が入った! 移動してくる! 体の中心に向かって……クモやハエや、手の爪が……中心! 心臓に! 肉スプレーがきかないッ! 止められない! ヤバイ! ヤバイ!

ブチンッ

■■■

……あなたは運がいい。心臓に木片が突き刺さり、死にかけていたのに……
平行世界だとか、そういった世界から……この宝石が飛び出して……『ぶつかった』…………この宝石は『吉良(きちりょう)なるもの』ではない……だからか……

■■■

「ハッ!!」

目を覚ますと……目の前に、異様な男がいた。
開いた文庫本に穴を開けたような、眼鏡状のマスク。髪は黒く長く、肌の色は灰色、青い唇。上半身を布で覆い、脚を露出した妙な服装。あまり関わりたくない、胡乱で胡散臭いオーラ。だが……その男の後頭部には光輪(ハロー)があり、背中からは黒く大きな翼が生えている。聖なる存在ではあるようだ。右手でつまんでいるのは丸い宝石。ソウルジェムだ。

「お気づきになりましたか、マスター」
「ええ……あなたが、わたしのサーヴァントってわけ?」
「はい。私のクラスは『ウォッチャー(見張るもの)』。真名を『マンセマット』と申します。今後ともよろしく……」

黒い翼の男は、恭しく、慇懃無礼なほどに恭しく名乗った。
マンセマット。確か……ヴァチカンの図書館とかでちらりと名を見たことはある。旧約聖書偽典『ヨベル書』に登場する悪霊の長、サタンの異名。マステマ、マスティマとも。

ここは、21世紀の日本。ホテルの一室。1890年からは1世紀以上も未来。わたしはアメリカ人観光客として、この見滝原に来ていた。かつては、そうではない。わたしはヴァチカンの法王庁に仕える修道女のひとり。『聖なる遺体』を巡ってアメリカ大統領と死闘を繰り広げ……そして。

「わたしの名は『ホット・パンツ(H・P)』。偽名だけどね。……あなたは、天使? それとも、堕天使かしら」
男はふわりと宙に浮かび、怪しく微笑む。黒い羽根が舞い散る。

「フフ……そのどちらでもある、と言えましょう。私は……唯一なる神の忠実なしもべ。悪霊を率いて人類の信仰心を試し、まことの義人を選び出す者です。あなたは……どうですか?」

私を喚び出したのは……どうやら、過去に修道女であったニンゲンらしい。
心の奥底に、拭えない罪を、罪悪感を抱えている。罪の女……娼婦であったわけではなく、殺人の罪。なるほど。心に弱さがある。利用しやすい。『天国』へ行けるかどうかは神のみぞ知る、だ。

「マスター。あなたが探していた『聖なる遺体』は、まことに尊く得難いもの。この世界で獲得できる『聖杯』もまた、あなたの罪を赦し、なぐさめを与えて下さることでしょう。そして私の望みは、神の国を地上に築くことです。選ばれし民の千年王国、地上天国を。私とあなたがここにいるのは、『聖杯』を手に入れよという神の思し召しではありませんか?」

心を読まれ、女は驚いている。ウォッチャー、「見張るもの」である私にとって、心を読むことなどたやすい。それも、自分と霊的回路で結ばれたマスターだ。手に取るようにわかる。

「あなたは…ユダヤ教の天使でしょう?キリスト教の聖遺物でもいいの?」
「神は唯一つです。そして神は人に試練を与え、それを耐え抜く者に恵みを、従わぬ者に罰を下される。この『聖杯戦争』は、悪しき者を滅ぼし、選ばれし者を『聖杯』に導く儀式……私はそのようにとらえています」
「……悪というなら、わたしは……悪だわ。罪人よ。弟を殺したわたしなんかに、聖なる杯を手に入れられると思うの?」

女は脂汗を垂らし、震え出す。ついには両手で顔を覆った。自分が罪人だという自覚があるのは好ましい。その罪を拭うために、自己中心的な行いを重ね、多くの人を殺してきたというのは問題だが。

「幸福も不幸も、全ては神に遡及します。あなたの罪も苦しみもまた、神の思し召し。我らはただ、今与えられた運命に従って、より善く行動すればよい。それが神に喜ばれることだと思います。そして、案ずることはありません。私はあなたの味方。つまり、神があなたを助けているのですよ」

……とは言うものの、御使いにも人の子にも、神の御心を完全に理解出来る者はいない。私がそう推量しているだけだ。私がこの地のニンゲンどもを利用し、神の喜ぶであろうと思うことを成せばよい。

まずは、この街に流れるウワサ―――世界を魅了する『孤独の歌姫』。彼女を天使に変容させれば、話は早いだろう。否、孤独を好むのであれば、人々を導く「秩序(LAW)」の象徴とはなりにくいか。あるいは洗脳してみるか。

……すすり泣くのをやめ、顔をあげる。いつまでも泣いてはいられない。ここは既に戦場だ。わたしには強力な味方がおり、スタンド(立ち向かう)能力『クリーム・スターター』がある。

心は決まった。元の世界へ帰るかどうかは後で考える。どのみちあの世界、あの時代に未練はない。わたしはおそらく死んだことになっている。ならば、この未来の異邦で、新しい人生を始めてみてもいい。

「ウォッチャー。わたしは聖杯を獲得するわ。ふたつ以上手に入れば、ひとつは頂戴」
「素晴らしい。いいでしょう。それで、あなたの望みは決まりましたか? 罪を赦されることが望みですか?」

ニコリと笑うウォッチャーと、目を合わせ、告げる。
「わたしの罪は、きっと神が赦して下さる。聖杯や聖なる遺体がなくても、心から悔い改めれば。あなたが築くという地上天国、千年王国でも、赦してはもらえるのかも知れない。でも、それじゃあ納得できない。罪が帳消しになった気がしない。わたしの弟が生き返るわけじゃあないもの」

弟が特別好きだったわけじゃあない。結局、わたしは自己中心的なのだ。わたしが救われれば、生き残れば、それでいいと。弟を「差し出して」から、その傾向は強くなった気がする。わたしの罪は、わたしが背負うべきもの。わたしのものだ。天使でも悪魔でも、神でも人間でも、聖杯だろーと聖人の遺体だろーと、利用できるものは利用する。わたしのために!

「『弟を蘇らせる』。これがわたしの、聖杯にかける願い。シンプルになったわ。弟から恨まれようが感謝されようが、それは別にいい。心が救われるかどうかは、わたしの納得の問題だもの」

【クラス】
ウォッチャー

【真名】
マンセマット@真・女神転生SJ/DSJ

【パラメーター】
筋力C 耐久B 敏捷A 魔力A+ 幸運B 宝具EX

【属性】
秩序・善

【クラス別スキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。氷結・疾風を反射し、破魔・呪殺を無効化するが、火炎が弱点。

千里眼:A
視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。遠方の標的捕捉に効果を発揮。ランクが高くなると、透視、未来視さえ可能になる。天使(「見張るもの」)であることから取得。

【保有スキル】
天使の御業:A++
唯一神に仕える天使としての「権能」。背の黒い翼で空を飛び、素手で結界を破ることができ、人間に変装する。さらに汚れなき風(全体疾風攻撃)、ジャッジメント(全体破魔即死攻撃)、メル・ファイズ/メギドラオン(全体万能攻撃)などの技を使う。また儀式によって霊的に素質のある人間を「天使」に変容させる。「天使」化した人間は歌唱で他人を魅了し、超常の力を振るう。ただし変容は一人につき一度きりで、人間に戻る事は出来ず、適性と信仰がなければ霊肉ともに破滅してしまう。

神の敵意:A
神の意に沿って動く悪魔として、人類からの恨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。周囲からの敵意や恐怖・憎悪を向けられやすくなるが、向けられた負の感情は直ちに力へと変化する。被攻撃時に魔力を回復させる。他者からの信頼・信用を得にくくなるデメリットはあるものの、宝具で魅了することでなんとかしている。

道具作成:A
魔力を帯びた器具を作成可能。Aランクとなると、擬似的な不死の薬すら作成可能。様々な技術に関する知識を持つ。また霊的存在から「シボレテ」という結晶を作成できる。

【宝具】
『大いなる嘆願(グレート・エントリーティ)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1-100 最大捕捉:1000

旧約聖書偽典『ヨベル書』において、唯一神に「悪魔たちの命乞い」をした逸話による宝具。姿形はなく、彼の祈り、歌唱、言霊そのもの。その場にいる全員の精神に働きかけ、魅了する。これは属性が「秩序」か「中立」のものにのみ効果があり、「混沌」のものには無効である。善・悪・中庸は問わない。この宝具により、彼は胡散臭さを漂わせながらも、そこそこ他者の信頼を得る事が出来る。

【Weapon】
『シボレテ』
2体の霊的存在を用いて(搾って?)作られる奇妙な結晶。他の霊的存在に対する攻撃手段として用いることも出来る。

【人物背景】
ゲーム『真・女神転生 ストレンジジャーニー(SJ)/ディープストレンジジャーニー(DSJ)』に登場する天使。CV:森川智之。『真・女神転生4』にも同じ姿で登場するが、立ち位置や性格、技能、声(高木渉)などが異なり、同一個体かは疑問。奇妙な仮面と奇妙な服を纏い、黒い翼を背負った黒髪長髪の男。敬語で喋るが見るからに胡散臭く、「ペ天使」とあだ名される。『北斗の拳』のアミバに激似。マンマセットやサンマセットではない。

名はマステマともいい、ヘブライ語で「敵意」「憎悪」を意味する。あるいはアラム語マスティマ(非難者)からともいう。ユダヤ教の伝承によれば悪魔の長(サタン、敵対者)にして全ての悪の父であるが、唯一神YHVHに仕える天使(堕天使)でもある。

『ヨベル書』によると、かつて「見張るもの」という天使たちが地上に降り、人間の女たちを娶って巨人族を儲けた。彼らは堕天使となって人類に文明や悪行を教えたので、神は怒って大洪水を起こし、ノアの家族を除く全人類ごと彼らを滅ぼした。だがノアの洪水から二世代後、彼らは悪霊となって人類を惑わし、互いに殺し合わせるようになった。神はノアの祈りを受けて彼らを捕縛するため天使を遣わしたが、この時「悪霊たちの長」マンセマットが神にこう嘆願した。「彼らのうち幾らかを残して、私に従うようにさせて下さい。私は彼らを率いて人の子を堕落させ、惑わせましょう。人の子の悪が大きいからです」そこで神は悪霊たちの九割を地獄へ落とし、残り一割をマンセマットに従わせることにしたという(ヨベル書10章)。

以後マンセマットはせっせと悪を行い、人類を惑わせ苦しめ、信仰心を試した。飢饉も疫病も洪水も火災も、カラスの群れが畑から種をついばんで奪うことさえ彼の仕業である(アブラムはこれを追い払って有名人になった)。彼は神を唆してアブラハムを試させ、息子イサクを生贄にさせようとした。またモーセを殺そうとし、エジプトの魔術師を支援した。過越の時には仔羊の血を門に塗っていない家の初子を全て殺し、エジプトを去ったヘブル人をファラオに追わせたという。要するに聖書における神の「悪行」をおっかぶせるために後付で生み出された汚れ役・やられ役であり、『ヨブ記』のサタンと共に悪魔の初期の姿を伝えている。死海文書『戦いの書』やダマスコ文書などにも、ベリアルと並んでマンセマットが悪魔の長として記される。

SJ/DSJにおける彼は、唯一神に忠実な天使である。敵対しない限りは穏健で、数多くの天使を配下に従えて主人公たちに協力する。その目的は選ばれた者を天使化して、人類を支配する「歌唱」の力を授け、神を讃える選民だけが生きる理想世界を作ること。人類を評価はするものの道具程度に見なしており、手柄によって自分が出世することが本当の目的であった。真4における彼も唯一神の忠実なしもべとして行動するが、「地上は人間が支配するのが神の意志」とし、慇懃無礼ながら敵対的ではない。

根本的に人間でなく、「唯一神」の御使いなので、本来ならば英霊として喚ばれる存在ではない。英霊の座に登録されているのは、おそらく彼の分霊か何かである。アヴェンジャーやルーラー、キャスターの適性もあるかも知れない。

【サーヴァントとしての願い】
悪しきものが滅び、唯一神を讃える者だけが暮らす地上天国(千年王国)の建設。

【方針】
必ず聖杯を獲得する。そのために情報や仲間を集め、利用する。最終的に自分が勝利すればよい。
マスターか、適性のある者を「天使」に変容させたい。

【把握手段・参戦時期】
原作(SJ/DSJ)。真4の彼も参考にして良い。

【マスター】
ホット・パンツ@スティール・ボール・ラン

【Weapon・能力・技能】
『クリーム・スターター』
破壊力:D スピード:C 射程距離:C 持続力:A 精密動作性:E 成長性:B

本体が道具として使用するスタンド。全長10cmのスプレーヘッドがついた2本のスプレー型。別名「肉スプレー」。自分や接触した相手の肉を搾り取ってスプレー状に放射する。相手に噴きつけて切り裂く、目や口を塞ぐ、体を分解して狭い場所を通り抜ける、怪我の治療や変装など高い汎用性を持つ。
分解は自分の片手だけ移動させて遠隔操作でき、その手にもう一つのスプレーを持たせて攻撃も可能。他人の肉体を分解する場合、全身を分解すると殺害する危険がある。死体を人知れず処理するには楽。相当な致命傷でも肉で埋めれば治療でき、(生きていれば)平行世界に本体がいても他人でも使用可能。変装は姿形はもちろん声や匂いまで変えられ、一度だけなら接触した人物にそのまま成り代わることすら可能。

【人物背景】
漫画『ジョジョの奇妙な冒険』第七部「スティール・ボール・ラン」に登場するスタンド使い。CV:豊口めぐみ。名前はH・Pとも略称されるが偽名であり、本名は不明。ピンク色のおかっぱ頭で、偽って男性として振る舞うが女性。長身で割と胸がある。もとはローマ法王庁の修道女であり、かつて弟を灰色熊に差し出して死なせてしまったことに強い罪悪感を抱いている。「聖なる遺体」を集めれば自分の罪が赦されると信じ、北米横断レース「スティール・ボール・ラン」に参戦した。やがてファニー・ヴァレンタイン大統領を敵に回し、遺体を奪取するためDioと共闘するが……。

【ロール】
アメリカ人観光客。

【マスターとしての願い】
弟を蘇生させる。元の世界にはあまり帰還したくはない。

【方針】
聖杯を獲得する。そのために情報や仲間を集め、利用する。最終的に自分が勝利すればよい。

【把握手段・参戦時期】
原作20巻で列車から転落した際、ソウルジェムに触れた。

◆◆◆

前にも書いたが、天国聖杯にはやたらDIOやDioが出てくる。じゃあ因縁があるやつを出そうというので彼女にした。クリーム・スターターは使い勝手がよく面白い。あれで退場はややあっけなかったので、あの後ソウルジェムに触れたことにした。そして彼女ならこう答えるかもしれないと考えてそうした。二次創作は捏造だとか言うやつもいるが、そんなことを言えば一次創作だって捏造だ。頭の中で捏ねて造り、シミュレートして、ある程度そのキャラらしい言動や思考をさせればいい。スタンドは立ち向かう意志の力だ。

おれは基本的に同クラスの鯖は出さないので、エクストラクラスの残ってるやつからウォッチャーとし、聖職者ということでこいつだ。だいぶチートっぽいが大天使かつ魔王なのでこんなもんだろう。最近のメガテンには詳しくないが、原典からいろいろ調べてこうした。聖書は外典も面白い。図書館に行けばあるのだが、こういうサイトもある。

【続く】

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