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渋谷ウロボロス

渋谷駅で降り、渋谷駅で乗り換え、次の渋谷駅へ。

この電車は渋谷駅から渋谷駅へ向かう。無限に。

渋谷駅は増築に増築を重ね、一個の世界と化した。さらには過去や未来、様々な並行世界の渋谷駅にも通じるようになった。それぞれを繋ぐのが渋谷駅であり、∞の形をした「渋谷線」だ。

窓の外を見よ。地下鉄ゆえに漆黒の闇だ。たちまち雲海の上の青空を行き、森林、草原、砂漠の中を突き進む。かと思えば深海の闇。朝日が照らし夕日が照らす。蛍光緑色の格子模様が闇にきらめき、輝く銀河を駆け抜ける。

ハチ公は当然、どの渋谷駅にもいる。ブロンズゴーレムハチ公、ゾンビハチ公、ケルベロスハチ公、江戸っ子ハチ公(だが熊だ)、昆虫ハチ公(スズメバチの群れから成る危険なハチ公だ)、馬のハチ公(馬の首から犬の前半身が生えている)、美少女ハチ公(顔だけ美少女の犬だ)、吸血鬼のハチ公、相撲取りのハチ公。先鋒ハチ公、次鋒ハチ公、そして中堅ハチ公も。降りる時はこいつらに気をつけなければならない。

「……どの駅だったかな、あいつがいる世界は……」

おれは路線図を確認する。この「渋谷線」に乗れるのは、死人でなければ選ばれた者だけ。おれが降りると、別のおれが電車に乗ってくる。乗客は全員おれだ。ブロンズゴーレムのおれ、ゾンビのおれ、三面六臂のおれ、江戸っ子のおれ(熊でもハチでもないが江戸しぐさを使う)、昆虫のおれ(スズメバチの群れから成る危険なおれだ)、馬のおれ(おれのケンタウロスだ)、美少女のおれ(顔だけ美少女だ)、吸血鬼のおれ、相撲取りのおれ。先鋒おれ、次鋒おれ、そして中堅おれ。くさぐさのもののおれ。

ドラゴンの頭をしたおれが乗ってきたので、ここだろう。おれは電車を降りて改札を抜け、ドラゴン渋谷駅へ向かう。駅前には八つの首を持つドラゴンハチ公がいた。おれは十拳剣を抜き放ち、そいつと対峙する。

「きやぁーーーッ!」猿叫をあげ、屠龍破骨の剣技を振るうや、八つの首はたちまち斬り裂かれて刎ねおちる。おれは口から火炎を放ち、切り口を焼灼して再生を阻む。ドラゴンハチ公の八つの頭から牙がぽろぽろと落ち、地面に突き刺さって青銅鎧の兵士らを生む。おれは意志を凝集して石を虚空より召喚し、兵士らの真ん中へ投げ込む。生まれたての彼らは盲目だ。同士討ちを始める。

……おれに戦わせておき、ドラゴンハチ公の横を通り過ぎる。瞬きをするといつもの渋谷だ。人々は蛸の頭をしている。

【終わり/1000字】

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