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#現代詩

草抜き

地表に光をおろさない月の夜
空気を入れる
硬い音が聞こえる

長い付き合いだった
鏡と訣別したあたりから
わたしは
次に姿をあらわした
水を含ませた扉と向き合い
草を抜く作業に勤しんでいた
抜いた傍から後悔が
植わってしまうのは
どうしてだろう

そよいでいる手
溢れる紙を掴もうとする
希求のリズム
電線にかかるオリオン座も一緒に踊る

光を蹴る日

柔らかな葉をつける木と話をするように
移民は崩れた水に口づけて
言語を失って水は生きられない
と、
叫ぶ地面について書き始める

ぶらぶらと足を揺らして
身近なものへ熱を預ける
アルミの机が体温を下げるあいだにも魚は前に進んでいること
そっと開いた瞳の中に収まるつむじ風に
僕の所在を問いかけたこと

蒸発する前に
降り注ぐのを待つそのために傘を置く

手を広げた

誘導道路

濡れ始めた森から鳴らされた音楽を
蚕の糸のように
身体に巻きつけながら眠る
伝言を残した紙は
製氷皿の中に沈められて
読まれる時を待つ
凍結までの気負いない道
穴の向こう側から逆さに手を振って、あるいは振り抜いたりして
あなたの独歩を招いている
ニ歩で消える一文字
カチッと照らした

きゅうみん

ささやかにずっと
うめられていた
は の しぶき
つかむ おう ゆうきのなかで
よびかけるこえをきいた

ねこのしっぽをまいて
おなじあなに はいってみたけれど
つちのあたたかさに
とまどうばかり

このやわらかさは しっています
このはだざわりは
みちのものでした

ようやくわかってくれた? というめと
いまからでも おそくないでしょ というめが
むかいあって
ちちゅうのなかで たねをまく

放流

立っているふりのバス停の標識が
長い朝の長い眠りから
起こさないように
首をもたれかけていた

私の知らない色が午後2時の中に塗られている
微笑みにならない手を開きながら
草に覆われていく様子を
見るともなく見る
頭上を通る飛行機の腹を
魚のように見ながら
わたしたちも魚になって
水位を上げて口を閉じる

空港の擦りガラスが
透明な夏を連れてくる
早朝のまどろみの中で
コーヒーカップを包む手が

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