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映画のようなスリリングでミステリアスなドラマ『破氷行動 ドラッグ・ウォーズ』中国、2019年

評判がいいので見始めましたが、いやもうベテラン俳優さんたちの熱演がたまりません。主人公の黄景瑜(ホアン・ジンユ―)がめっちゃくちゃ若造に見えてしまうほど、おじさまたちの演技がすごくて、毎回毎回見入ってしまいました。

人民網日本語版より

ストーリーもすごいです。2013年に中国の広東省博社村で起こった、村ぐるみの大規模な麻薬事件をベースにしています。ドラマでは、架空の東山市塔寨村が舞台。中国の南部の小さな村の特徴は、同族で血縁関係が強いということ。祖先の廟を中心に「家族経営、産業化経営、地方幹部による保護」を実現して、長期間の犯罪を行っていたので、地元警察はうかつには手のつけられない状態。学生時代の文化人類学の授業とか思い出します。

具体的にいうと、賄賂で東山市長を抱き込むのは当たり前。でも、それ以外にも、地元の警察官の何人かが麻薬村出身の女性と結婚していたり、市長の弟も警察にいたりで、地縁・血縁関係にあるところがミソです。女性たちは直接関わっていませんが、麻薬を取り締まるはずの警官と麻薬を製造・密売している人たちは婿と義父の関係も絡みます。

人民網日本語版より

そんな中では、ベテラン警官ほど取締にも慎重にならざるを得ません。でも、主人公役の若い刑事(独身)黄景瑜は正義感にあふれていて、鉄砲玉みたいに突っ込んでいくので危なっかしくてみていられません。案の定、捕まえた犯人に逃げられ、親友は殺され、自分も殺されそうになるだけでなく、麻薬密売の罪をでっち上げられます。一体誰が? これがこの物語のスタートです。

直接の上司か、それとももっと上の上司が裏切っているのか? 同僚は信じられるのか? 自分を監視しているのは誰なのか? 親友の敵は誰なのか? 実際に中国に住んでいたら、こういう職場にはいたくないですが、ドラマなら複雑な人間関係は醍醐味です。

伏線もたくさんあって、慣れない私はちょっとやそっとじゃ覚えきれないのですが(大体2周せざるをえなくなるパターン)、刑事モノが大好きで小学生の頃から見れるだけの刑事ドラマを見てきた娘は大興奮。イチイチ、母の見落としを指摘してくれます(ありがたい)。

そして、なによりうれしいのは私の好きな武闘派美女が登場すること。腕っぷしも強いけれど、賢さもある役を演じる馬渝捷(マ―・ユージェ)が、主人公を守るボディーガードでかっこいいです。日本のドラマにもこういう女性の役割がたくさんあったらいいのに。

というわけで、アクションと犯罪ミステリーに加えて、麻薬密造犯人と警察、ヤクザの密売人の駆け引き(心理戦)はすごみがあるし、裏切り者も必ずしもお金のためだけに裏切っているわけではない事情があるし、親子・夫婦・家族の愛情、師弟愛、同僚・上司・親分子分の絆(「兄弟情」というらしいです)などなど、てんこ盛りで、一話ごとに映画1本分くらい重くて、感情が揺さぶられます。

ラストでは村を包囲して、実際の警官を1400人動員したという、中国ならではの撮影。確かに、ヘリコプターやパトカー、ドローンを駆使した大作戦は本格的で見ごたえありすぎました。見終わって3日くらい放心状態です。勢い余って、アマプラの日本語字幕版とは結末が違うという、中国版の後日談も確認してしまいました。

うちの夫は連続ドラマが苦手で、あの『ゲーム・オブ・スローンズ』でさえ途中で飽きて寝るか仕事しだすか。でも、このドラマだけは毎日「続きは?」と一緒に見るのを催促するほど。そして、刑事ドラマ大好き娘は、「このドラマを見たおかげで、以前大好きだった刑事ドラマシリーズが物足りなくなった」とぼやきます。

ただ、詳しい人によると、中国の刑事モノすべてがこんなにレベル高いわけではなくて、やっぱりこの作品がかなり突出しているとここと。それを聞いて、ちょっと安心しました。いやもう、こんなレベルのが量産されていたら、睡眠時間なくなりますよ。怖すぎます。

邦題:破氷行動(英題:The Thunder)
監督:傅東育
出演:黄景瑜、呉剛(ウー・ガン)、王勁松、任達華ほか
制作:2019年(中国)48話
視聴:アマゾンプライム他

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