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宇宙島へ17「コロニー内での人工重力」

前回はスペースコロニーの設置場所について考えてみました。今回は内部について考えてみたいと思います。
スペースコロニーの概要についてはすでに述べていますが、まず代表的な「オニール・シリンダー(島3号」について振り返っておくと、長さは33km、直径6.5kmで自転周期は114秒で、これによって1G(9.8m/s^2)の人工重力環境を作り上げています。
まず、この自転周期について考えてみましょう。

スペースコロニーの回転

先ほどの概要と一致します。おおよそ2分で1周ということです。

あまりピンときませんが、時速で計算をするとその速度がよくわかります。

スペースコロニーの回転速度

となるので、この場合は約178.5m/s、つまり約642.5km/hですからマッハ0.5を超えています。ちょっとした飛行機並みの速度です。
相対速度をあわせずに側面に接触したら大きな事故になってしまいます。

さて、「スペースコロニー」で生活するうえで最も注意すべき点は、このスペースコロニーの仕組みからもたらされます。

地球では地球の質量がもたらす引力によって私たちは地面につなぎとめられています。スペースコロニーでは、回転によって生じる遠心加速度を1G=9.8m/s^2にして人工重力としています。そのため、回転の速度が変わると加速度が変化してしまいます。

単純に言えば、スペースコロニー内で高度を上げる、つまり回転軸に近づくと加速度は下がっていき、回転軸では0Gになります。
また、回転方向と同じ方向へ移動すると、回転速度が増したことになるため遠心加速度が大きくなり、回転方向と逆方向に移動すると、回転速度が減ったことになるため遠心加速度が小さくなります。

たとえば、100km/hで走る自動車を考えてみると、スペースコロニーの回転方向に走ると加速度は約13.1m/s^2、つまり1.3Gになります。スペースコロニーの回転方向とは逆に走ると加速度は約7.0m/s^2、つまり0.7Gに下がってしまいます。

一方で回転軸方向での移動は回転速度には影響しませんから、加速度が増減することはありません。

スペースコロニー内での高速移動手段は慎重に設計をしないと、かなり気持ちの悪いことになりそうです。

とはいえ、スペースコロニーは側面を6等分して半分を窓にしていますから、陸地は6.8km×33kmが3枚です。基本的には1枚の内部で住民の生活圏はほぼ完結するように設計されることでしょうから、1枚についてだけ考えてみましょう。

スペースコロニーの大陸

一枚の陸地は東京周辺の地図(Google Map)上に示すとおおよそ図のようになります。

回転方向の6.8kmというのは、秋葉原・新宿間の直線距離に相当します。そう考えるとあまり高速に移動する必要はなさそうです。
一方、極側から極側への行程は感覚的には所沢から秋葉原へ遠征に行くようなものだと言えるでしょう。こちらはある程度高速な移動手段への要望があるでしょう。

ちなみ円筒型ですからある地点から目的地までの回転軸方向への最大移動距離は半周分でそれを超えることはありません。

スペースコロニーの生活では、加速度の変化だけでなく、「宇宙エレベーター」のところでも触れた「コリオリの力」に注意しながら生活する必要があります。「スペースコロニー」が回転によって人工重力を生み出している以上、回転によって発生する見かけ上の力である「コリオリの力」の影響から逃れることはできません。

(完)

【参考文献】
・福江純(1991)「スペースコロニーのボール投げ―スペースコロニーの物理学①」天文月報84(8),p262-266
・福江純(1991)「スペースコロニーの自由落下―スペースコロニーの物理学②」天文月報84(9),p302-306
・福江純(1992)「ラーマの海と大気―スペースコロニーの物理学③」天文月報85(1),p19-25
・福江純(1992)「ラーマに降る雨―スペースコロニーの物理学④」天文月報85(2),p63-69
・福江純(1992)「嵐の始まり―スペースコロニーの物理学⑤」天文月報85(3),p111-118
・福江純(1993)「満ち潮のとき―スペースコロニーの物理学⑥」天文月報86(2),p65-70
・福江純(1993)「円筒海をわたる波―スペースコロニーの物理学⑦」天文月報86(3),p115-120
・福江純(1993)「円筒世界の大気波動―スペースコロニーの物理学⑧」天文月報86(4),p158-163
・福江純(2002)『SFアニメの科学』光文社
・吉村高男(1992)「スペースコロニー内でのボール投げ―幾何学的解法について」天文月報85(9),p398-404
・吉村高男(1992)「スペースコロニー内の気象について―大気循環を説明する実験装置の工夫」天文月報85(11),p509-514
・吉村高男(2003)「スペースコロニー内の物体の運動」物理教育51(4),p250-255

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