舞台照明デザインのこと その6 角度だけでデザインする
はじめに
前回は、基本となる四方向の照明の見え方についてのことを書いた。
また、前、後ろ、下手(向かって左)、上手(向かって右)の照明を付けた状態(トップ画)がスタンダードだと書いた。これは本当でもある部分が多いが嘘でもある。
照明を点けるという意味でのスタンダードであって、ここからどうするか。というのがデザインの話になってくる。
この角度の項では、明るさの違いとか色を変えるとか、それによる見え方の変化とかの一切を省く。決まった角度から当てる照明で何ができるのかを知ることは、デッサンをする時に鉛筆に出来ることを探すくらい大事なことだ。
なので、まだ延々とこの話は続く。
それじゃ、いくつ明かりが作れるんだよ。
というわけで、角度による照明のデザインについて考えて行こう。
先ほども書いたように、明るさや色はここでは省く。
なので、純粋に点灯しているか消えているかの二種類だけで話を進めていく。まずは、この四つでいくつの明かりが作れるのか。
照明ひとつずつ
一つの照明ごとに点灯するので、まずは4つ。
照明二つずつ
次に、2つずつ点灯するので、6つ。
↓前と後ろ
↓下手と上手
↓前と下手
↓前と上手
↓後ろと下手
↓後ろと上手
二つずつ点けるといくらか、照明っぽくなってきた感じがある。
これは二つの照明で明るい面積が増え、身体の一部分、または全体の姿がよく見えるようになってきたからである。
照明の効果というものが、明るくするということだけでなく、暗くするということがあるというのが分かってもらえるのではないか。
照明を三つずつ
これで4つ。
後ろだけ点けない
前だけ点けない
下手だけ点けない
上手だけ点けない
3つずつ、点灯した画を見ても、先ほどの2つずつと同様に影になる部分が出来ていることがわかる。ただし、その影は2つずつの時よりも薄くなっているし、目立ちづらい。
だけど、前だけ点けない明かりだけは、他のものと比べて、人物の影が強くなっていて、ある意味印象的に見えやすい状態であるとも言える。
ただし、どの方向を削った場合でも、削った部分がどこかということは見て取れる。
照明を全部点ける
やっとトップ画に戻ってきた。
全方向からの明かりが点灯しているので、人がフラットに見える。
上にあげた事例と比べて、シルバーレディがよく見えるのがわかる。
さて、これで4+6+4+1=15種類の明かりを作ることが出来た。
4方向からの照明の組み合わせだけで、最低限15種類の照明を作ることが出来る。
と、言っていい。でも、これもまだデザインの段階の話ではない。
いつになったら、デザインとやらにたどり着くのだよ。
そう思うかもしれない。
でも、まずは照明という道具がどういうもので、どういう機能を持っているのかを知らなくては、照明のデザインにはたどり着けない。
4つの照明だけでデザインをするには
さきほど、デザインにたどり着けないということを言ったくせに、
「デザインをするには」
などと、どうしたんだ。と思うかもしれないが、この基本的な機能がデザインになるためには、
「それが必要だ。」「これはこうあるべきだ。」
という、理屈が必要である。デザインのコンセプトである。
たとえば、演目の中で正体不明だったボスのような人物が登場したときに、最初から顔が見えていると、今一つかもしれない。音楽とかで煽りが入ったり、なんらかの前口上があるかもしれない。
それからのいよいよの登場。
まずは、顔が見えないといいよね。
そして、いよいよ正体が明かされる!
カッ。
お前だったのかー。
みたいにベタな感じで見えるといいかもしれない。
一方、これはここで僕が想定しているものが分かりやすい事例であって、同じような展開であっても、最初からすべてを点灯してもいいし、どういう点灯の仕方をしてもいい。それを決めるのが舞台照明デザイナーであり、それこそがこの選ぶという行為そのものがデザインであるからだ。
デザインの強度の話
急に、デザインの話に転換したけど、ここでもまた
「デザインの強度」
は、求められる。
舞台照明のデザインは、なんとなく決めたことであってはならない。
意味があって存在し、それをわざわざ点灯するという行為で作られているのが舞台照明のデザインであり、同時に作品に介入していくことが求められる。
そのために、デザインの強度を維持するためには、その場だけの一時のものではなく、作品の最初から最後まで続く、強固なコンセプトを持って当たらなくてはならない。
僕が考える舞台照明デザインというものは、舞台に乗るものが決まっていて、それに対して順当であったり、逆説的であったりするようなデザインをして、作品をしっかりと観客に届ける役目を果たすものであると考えている。
僕のデザインの強度のこと
かなり、大上段から言葉を書いたのだが、上の項で、
「強固なコンセプト」
というようなことを書いた。
これは、実は大袈裟なことではなく、例えば僕の場合は、「観たいものが観えるようにすること」を重要なものだと考えていて、これが僕の舞台照明デザインの根幹であると言ってもいい。
こういうこと一つを取っても、コンセプトになり得るということだ。
僕自身とは、まったく相容れないと思うが、「何がなんでも演者の顔を見せない」というのも、コンセプトになり得ると思う。どんなことでもコンセプトとして通用するし、していいと思う。
自分が考えるコンセプトとは何か。それを最後まで押し通せるものか、また、相手を納得させられるだけの強度を持っているか。
そういうことが、舞台照明のデザインだと考えている。
まだまだ続くよ
やっと最低限の照明の基礎知識の話が終わって、次は照明の角度の概念についてにたどり着く。
えー、まだ角度の話が続くのー。って思うと思うけど、まだまだ続きます。
なんせ、照明がどの角度から当たるのか。ということは基本にして奥義、奥義にして神髄なので、まだまだまだまだ続きます。
では、また。
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