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【2020年更新版】海外メディアのサブスクリプション、5種の”定石”モデルを解説します

こんにちは、株式会社キメラです。私たちは出版社・新聞社や放送局といったパブリッシャーに対し、SaaSの提供やコンサルティングを通じたビジネス支援をしています。

前回のnote記事でご紹介した通り、パブリッシャーは広告掲載収益だけに頼るビジネスモデルからの転換を迫られています。こうした状況下で期待が高まっているのが、デジタルメディアのサブスクリプション化(=サブスクリプション:有料購読課金化)です。

実際にコンサル会社・デロイトのレポート「Digital media: the subscription(PDF)」によると、2012年に収入の9割を広告が担っていた媒体も、2020年までにサブスクリプションが収入の半分を占めるようになると予測されています。

しかし日本でいざサブスクリプション化に取り組もうとしても、国内に事例が少なく具体的なイメージを持ちにくいのが現状かもしれません。

そこで今回のnoteでは、海外の事例を挙げながら

・デジタルメディアのサブスクリプションにはどんなモデルがあるのか
・どんなコンテンツがサブスクリプションの対象になっているのか
・日本のパブリッシャーにおけるサブスクリプションの落とし穴

をご紹介していきます。

デジタルメディアのサブスクリプションモデルは「5+1」

まず、デジタルメディアのサブスクリプションにはどのようなモデルがあるのでしょうか?

サブスクリプションビジネスの成功のためには、ペイウォール(課金の障壁)をどこに、どんな基準で設けるかが重要です。

海外の事例を見てみると、以下のように分類できます。

1.フリーミアム型
2.メンバーシップ型(派生:ハードペイウォール型)
3.メーター課金型
4.ハイブリッド型
5.タイマー型
番外:投げ銭型

ここから、それぞれ詳しく解説します。

※2020年11月25日:「5.タイマー型」を追記しました。

1.フリーミアム型

フリーミアムとは、サービスを無料で利用できるが追加の機能やコンテンツは有料で提供するモデルです。代表例としては米国のニュース放送局CNBCが提供する有料プラン「CNBC PRO」があります。

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CNBCは無料でニュース記事や動画を閲覧できますが、PRO版は経済界の有識者によるレポートや、ニュース動画の巻き戻し・一時停止機能を追加で提供しています。

オックスフォード大学 ロイタージャーナリズム研究所の2019年の調査「FACTSHEET – Pay Models for Online News in the US and Europe: 2019 Update」によると、フリーミアムは新聞の33%、週刊誌・ニュース雑誌の43%に採用されている、最も人気の形式です。メディアのサブスクリプションに限らず、音楽配信のSpotifyやビジネスチャットツールのSlackなど、さまざまな業界で採用されているモデルでもあります。

一方、ペイウォール(課金の障壁)をどの機能やコンテンツに設けるかを見誤ると、いくら運用しても収益につながらないリスクもあることに注意が必要です。読者ロイヤルティの高いコンテンツを特定したり、ユーザーヒアリングなどを実施したりして、課金のラインを見極めることが必要です。

2.メンバーシップ型

特定の記事を閲覧するために会員登録を求めるのが「メンバーシップ型」です。代表例としては米国のニュースメディア「DAILY BEAST」などがあります。

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そして、メンバーシップ型の派生として近年注目を集めているのが、「ハードペイウォール型」のサブスクリプションモデルです。ハード(強固な)ペイウォール(課金障壁)という名の通り、有料購読をして初めて記事を閲覧できる形式です。

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代表例としては、英国の新聞「The Times」のデジタル版や、スポーツ特化のデジタルメディアとして米国、カナダ、英国に拠点を広げている「The Athletic」などがあります。

ハードペイウォールはロイヤルティの高い読者を囲い込みやすい、広告掲載に依存せずに運営できるなどのメリットがあります。実際に「The Athletic」は、ハードペイウォールで直近の成功を収めたメディアの一つです。同媒体はジャーナリズムを掲げ、広告掲載を一切行わないかわりに有料購読を求めています。紙媒体を持たず、2016年に始まった新興メディアにもかかわらず、2019年7月に購読者が50万人を突破しています。

一方で、フリーミアム型や通常のメンバーシップ型のように無料で記事を試せないため、新規読者の獲得が課題になります。メディアのブランドが確立しており、マーケティング施策が設計されていることが前提になっているサブスクリプションモデルであることに留意が必要です。

3.メーター課金型

さて、「The Athletic」のニュースソースとして参照した金融情報メディア「Bloomberg」もサブスクリプションを実施しています。Bloombergは無料で閲覧できるコンテンツ数を定め、閲覧の上限を超えたユーザーに有料購読をすすめる「メーター課金」の形式を採用しています(Bloombergの場合は1日に閲覧できる記事本数に上限を定めています)。

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Bloombergの記事を何本か読んでいると本文にマスクがかかり、「無料閲覧の上限に達しました」というポップアップ(上記赤枠)とともに課金のオファーが表示されます。

複数の記事を回遊している読者に対してオファーを行うため、購読の可能性が高い層へアプローチしやすい一方、閲覧上限数を多く設定しすぎたり、コンテンツの無料閲覧枠が復活するまで読者が待てるような内容の場合は、課金のモチベーションを喚起しにくいデメリットがあります。

短時間で大量の記事を参照する必要のあるメディア(リサーチ需要、更新される速報、連載の一気読み)で価値を発揮するでしょう。独自性の高いコンテンツやデータを保有しているメディアに向いたモデルです。

4.ハイブリッド型(フリーミアム+メンバーシップ)

上記の「フリーミアム型」「メンバーシップ型」「メーター課金型」を組み合わせた、ハイブリッドなサブスクリプション形式も存在します。代表例としては「New York Times」です。

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New York Timesは無料で閲覧できる記事もありますが、一部の限定記事は会員のみ閲覧可能です。限定記事は無料会員は上限付き(上記赤枠)で、有料会員は上限なしで記事を読めます。日本で同じハイブリッド型を採用している代表例が、日本経済新聞(日経電子版)です。

New York Timesはメディアのサブスクリプションビジネスを語る上で欠かせない成功例のひとつです。2019年第2四半期の決算によると、2019年上半期の収入8.7億ドルのうち61.8%をサブスクリプションが占めています。デジタル版のみの購読者は前年比30.7%増の378万人と順調に伸び続けています。

ハイブリッド型のサブスクリプションモデルは柔軟な課金設計ができるがゆえに、条件設定の難易度が高くなるのが懸念点です。自社メディアのパフォーマンスデータや他社の事例をもとに、最適な条件に至るまでの試行錯誤を重ねなければなりません。

なお、New York Timesは2018年下旬にサブスクリプション方針の転換を図っており、読者数や収益をにらみながら割引や課金メーターをチューニングしています。現状の成功に甘んじずにビジネスの模索を続ける姿勢もまた、New York Timesの成功要因といえるかもしれません。

5.タイマー型(2020年11月26日追記)

近年じわじわと導入が増えているのが、記事を公開してからの時間経過によってペイウォールを掲出する「タイマー型」のサブスクリプションです。

ドイツで日刊新聞を発行するMadsackは、同社が運営するニュースメディアにおいて時間制限つきで記事を無料公開しています。

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「MADSACK+」と名付けられた有料プランは、記事公開後の1時間だけ無料でコンテンツを閲覧でき、それ以降は週2.49ユーロ(約307円)のプランに入会する必要があります。この施策によって、同社はわずか6ヶ月間で年間目標の半分にあたる1万2500名の新規購読者を集客できたといいます。

時限つきでペイウォールを開放すると、コンテンツを無料で閲覧したい読者は最新記事を読むために頻繁に訪問するようになります。メディアやウェブサービスに対する愛着度(=ロイヤルティ)は、サービスの利用頻度が高まるほど向上することが分かっています。目の前の有料購読者を獲得するだけでなく、将来的な有料購読者を増やすことに寄与する体験設計だといえるでしょう。

番外:投げ銭型

番外編として、「投げ銭」形式の課金をオファーしている事例を紹介します。英国の大手新聞「The Guardian」は広告を取り除くことができるフリーミアム型の有料購読メニューに加えて、有志による寄付を受け付けています。

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The Guardianは2016年にこうした取り組みを始め、投げ銭モデルによって経営不振から脱しつつあります。2018年にはこうした実績を受けて「DIGIDAY アワード・ヨーロッパ(Digiday Awards Europe)」でパブリッシャー・オブ・ザ・イヤーに選ばれています。2018年11月時点で100万人以上のユーザーがThe Guardianにお金を払ったと発表しており、2019年中に損益分岐点を迎えると見込まれています。

課金意向のあるユーザーから資金を集めるというクラウドファンディング的な課金形式なので、例えば本格的なペイウォールを設置する前に「読者が現在のコンテンツに対してどれくらい対価を払うか」を探るために試験的に導入する方法もあり得るかもしれません。

以上、大まかなサブスクリプションの形式をご紹介しました。各社が工夫をこらして、新規ユーザー獲得と収益化のバランスを探っていることが分かります。

記事だけじゃない! サブスクリプションコンテンツ事例

続いて、サブスクリプションを実施しているデジタルメディアが、記事以外に何を課金コンテンツとして提供しているのかを見てみましょう。

オーソドックスはデジタル購読を狙った「紙+デジタル」

最もイメージしやすいのは、紙媒体との組み合わせでしょう。New York Timesと並んでサブスクリプションの成功例に挙がる「The Economist」もその一つです。

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特筆すべきは、紙媒体とデジタルの組み合わせプランが格安になるよう価格を設定しており、かつデジタル購読が最も安価になっていることです。紙媒体を「おとり」のオファーとしてデジタル版のお得感を喚起し、購読を促進しています。この仕掛けは、行動経済学者ダン・アリエリー氏の著書『予想どおりに不合理』でも語られています。

記事だけじゃない! DIGIDAYをヒントに

また、記事コンテンツ以外の付加価値を探るうえでは、DIGIDAYが参考になります。DIGIDAY UKの有料購読プランでは、以下のように多種多様なコンテンツを提供しています。

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自社開催のリアルイベントや読者同士のコミュニティなど、メディアのブランドを活かしたコンテンツ展開を行っている事例です。また、「早期アクセス権」も、手間をかけずに付加価値を与えやすい好例でしょう。

メディアの独自アセットを「学習コンテンツ」に

米コンデナストの「Golf Digest」は、動画でゴルフレッスンやプロからのアドバイスを受けられます。

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専門誌など、独自の知識や人脈を保有しているメディアなら、こうしたアセットを「学習コンテンツ」としてサブスクリプション化できる可能性があります。

自社のメディアにも、価値を生み出せそうなアセットがないか棚卸ししてみてはいかがでしょうか。長期連載のコンテンツや独自データ、会員組織などが意外な課金コンテンツに生まれ変わるかもしれません。

サブスクリプションビジネスの注意すべき「落とし穴」

最後に、デジタルメディアのサブスクリプション化を検討しているみなさまにお伝えしたいことがあります。日本のパブリッシャーの中で高い注目を集めるサブスクリプションビジネスですが、実は落とし穴があります。

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一体どういうことでしょうか?
以下で、詳しく解説していきます。

1.サブスクリプションは「今すぐ」始めねばならない

サブスクリプションは、決して今ある記事コンテンツをすぐに収益化できる「魔法のビジネス」ではありません。

事前のビジネス設計が不十分な状態でサブスクリプションを導入しても、単なる「値上げ」とみなされかえって読者離れを加速してしまったり、メディアのブランドを損なったりするリスクがあります。
以前に弊社のニュースレターで紹介した通り、米国の新聞社にはペイウォールを設けたことで売上が12%減少してしまった媒体も存在します。コンテンツの独自性があり読者の回遊率が高い媒体でない場合は、ペイウォールが読者の離脱を招いてしまうのです。

日本も他人事とはいえない状況です。現在、日本国内のデジタルメディアの多くは無料で全記事を閲覧でき、広告掲載を収益源としているビジネスモデルです。前回のnoteで詳しく述べていますが、ページビュー数を増やすことで広告収入を得ようとするメディア設計によって読者のエンゲージメント低下を招いているおそれがあります。

また、トラフィックの構成がソーシャルやニュースアプリに依存しているメディアの場合は、読者がサイト内を回遊せずに離脱してしまい、メディアの認知やブランドを十分に形成できていない可能性があります。

急いでサブスクリプション化を検討する前に、
・現状のメディアのブランドが育っているか
・現状のコンテンツが課金に値するものか
・サブスクリプション化した場合、どんなユーザーが、どれくらい課金してくれるか
をデータで可視化し、メディアのブランド価値を高めるコンテンツを生み出す体制づくりが肝要です。ページビューやコンバージョンだけを指標として追うのではなく、メディアに対する読者のエンゲージメントも一緒に育てていくことが必要なのです。

2.サブスクリプションを始めたら広告掲載はNG

「広告に頼らない収益源」という言葉はサブスクリプションのメリットとして挙がりますが、この言葉に引っ張られすぎないよう留意しましょう。

サブスクリプションを始めたからといって既存の広告掲載をすぐに辞めなければならないわけではありませんし、むしろすぐに広告掲載を中止するべきではないと私たちは考えています。上記でご紹介してきたサブスクリプションの事例でも、広告掲載とサブスクリプションを両立しているメディアが多々あります。

購読者数を積み上げ、支払いを継続してもらうことで投資回収を行うサブスクリプションは、長期的な投資が必要なビジネスモデルだということは言うまでもありません。そのためにも、足元の収入を広告掲載で確保した上で、徐々にサブスクリプション主体へとビジネスを移行していくとよいのではないでしょうか。

紙媒体の新聞や雑誌を考えてみれば、読者への有料販売に加えて、紙面にも広告が掲載されていますよね。デジタルメディアでも、同じ手法をとることは非現実的ではないことがお分かりいただけるかと思います。

サブスクリプション成功のコツ:素早くプランニング、実行はじっくりと

では、サブスクリプション化を進めるためには結局どうしたらいいのでしょう?

「プランニングは素早く、実行はじっくりと」行うことがおすすめです。

ここまでご紹介してきた通り、サブスクリプションには様々な形式があり、課金の対象になりうるコンテンツも多種多様です。サブスクリプション化にあたっては、自社のメディアの現状をしっかりと把握した上で、最適なビジネスプランを設計していかねばなりません。

だからこそ、積極的な情報収集や有識者との接触は、ぜひ今からでも行っていただきたいと思います。

株式会社キメラがこのnoteで行ってきたコンテンツ発信は、私たちの公式サイトへと場所を移しました。

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