辛い顔はしちゃいけない


小学二年生の時に買ってもらったゲームボーイアドバンスの電池を替えたら、現在も問題なく動いてくれた。中古屋さんで買ったゲームボーイカラーのポケットモンスター銀をセットして遊んでいたら、続きはセーブできずに毎回最初からになってしまう。調べてみたら、どうやらソフトのバッテリーを交換しないといけないらしい。全クリするまで一生休憩ができないので、ポケモンは諦めて正規ソフトのキングダムハーツをやることにした。

初対面のオンライン会議を終えて、お腹が空いたので冷蔵庫を開けたら何もなかった。仕方ないので、近くのコンビニまで夕食を調達しにいく。等間隔に灯りのついた一本道を歩いていたら、路肩に人が転がっていた。寝ている様子ではなく、直立不動のままばたりと倒れたような形だった。ぐうぜん下を見た私の目に入る時まで、人間という人間の気配がなかったので、本当に驚いてしまった。そのうち2人組の警察がやってきた。脈拍がちょっと早いままコンビニに入り、特に食べたいとも思わなかったえびグラタンを買って家に戻る。その道は通らずに、遠回りして歩いた。

遠い国の出来事が、遠い国の出来事だと思えない。思えば今日はずっと緊張している。初対面にドキドキしているのかと思っていたけれど、どうもそうではなさそうだ。Twitterのトレンドを見て、すぐにテレビをつけて。テレビニュースは無機質に速報を終え、次の美味しい得情報のトピックに移ってしまう。テレビを消して、またSNSを見る。これまでの情勢の移り変わりや経緯を調べる。ネットニュースは大見出しで終わり、そこから先は有料会員以外の人間を拒む。また、テレビをつける。

ハウルの動く城で、帰還した戦闘艦を見にいくシーンのソフィと同じ気持ちがしている。私はいま明らかに動揺している。これから世界で何が起きてしまうのか、そして今世界で何が起こっているのか。できることなら、世界丸ごと一時停止してしまいたい。

こう思う私を、綺麗事だと感じる人もいるかもしれない。両国の関係は以前から不安定だったのだと説かれるかもしれない。でも、駄目なんだ。どうしてもこんなこと起きたらいけないんだ。何があっても、誰かが不必要に傷つくような世界になってはいけないんだ。

名ばかりにも平和の祭典なるものが開催されている真っ只中に、その象徴を打ち砕くような現象が起こっている。いっぽうで私は、アスファルトと鉄筋と電力の世界で、温かくて明るい部屋で冷たい水を飲みながら、それをただ見つめている。合間に、昔のポケットゲーム機でたくさんのモンスターを倒している。あんまり多くのことに混乱してはいけないけど、色々なことを繋げて考えてしまわないこともない。

なんとか、落ち着かなくては。自己中心的に閉じこもってしまうみたいだから、情報をすべて切断したいとはどうしても思えないけど、それでも少しだけ身軽になれるような場所に向かいたい。ほんの少しの時間だけでいいから、空と土と植物だけの世界でつかのま安らぎたい。そう思う私を許してほしい。