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サイコパスを描いた傑作R18+映画『ハウス・ジャック・ビルト』観たよ

『ハウス・ジャック・ビルト』っていうとんでもない映画を観た。


どれくらいとんでもないかというと、カンヌ国際映画祭で上映中の途中退出が続出したにも関わらず、上映終了後はスタンディング・オーベーションが鳴り止まないほどの賛否両論だったそう。
監督はラース・フォン・トリアー。
あの悪名高いトラウマ映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』の監督だ。

この映画はR18+作品だ。
そういえばいままであまり見たこと無かったのだがこの映画について言えばだれもが納得するはずだ。
もちろん性的な描写やグロテスクな描写があるため、R18+になっているというのもあるが、それ以上にこの映画が最も恐ろしいのは、主人公のサイコパスのシリアルキラーであるジャックのぶっ壊れた倫理観であり、これを表現してよいのかどうか怪しいくらい狂気の内容なので賛否両論になるのも頷ける。


だからこの映画を観ようと思う人は自己責任で観てください。
しかしラストはスタンディング・オーベーションが鳴り止まないほどのとんでもないラストだったので、間違いなく観て損はない傑作映画だった。


特にこの映画の特筆すべきはサイコパスという精神疾患の描写だ。
この映画を観ると、よく映画や漫画で見るようなステレオタイプのサイコパスキャラがいかに杓子定規で、健常者が考えうる範囲での異常者というのが分かる。非常に暴力的で支配的なキャラクターをアイコンとしてのサイコパスキャラにするのをよく目にするが、本質的には全くそれとは違う。

そもそも一般的に使われれる「サイコパス」は誤用されすぎだ。
それについては一家言あるが、この映画のサイコパスの描かれ方は本当に恐ろしい。

思春期にインターネットをやってる人間は一度はサイコパス診断をやったことがあるかと思うので分かるかと思うけれど、基本的にサイコパスの発想は常人と全く思考回路をしている。「倫理観を度外視した理屈」というものを僕たちは思いつかない。

大嵐の日、あなたは車でバス停の前を通りかかった。そこには、死にかけの老人、自分の好みの異性、友人の3人がいるとする。車は2人乗りで1人しか乗せることはできない。あなたは誰を助ける?
一般的な回答例:その3人のうちの誰かを選ぼうとする
サイコパスの回答例:友人に車を貸し老人を連れて行ってもらい、自分はその場に残り異性を暴行する。 (人助けという名誉と暴行したいという欲望が同時に満たせると考える)

この回答が一番わかりやすいような気がする。
車で例えるなら、あらゆる安全基準をクリアして販売されているものが健常者ならば、殺人鬼などの犯罪者は違法改造車で、サイコパスは「エンジンがガソリンで動くだけの車輪が付いた箱」だ。見た目だけは同じだが、そもそも安全だとか違法だとかの共有された基準(倫理感)が存在しないと言えば分かりやすいだろうか。だからこそサイコパスは先天的な「精神疾患」なのだ。

大企業の成功者にサイコパスが多いと言われるのも納得出来る。
会社という集団の中では個人的な感情などに流されることなく、利益を生むために健常者には出来ない発想や思考で成功を収めている。
それは人間が進化の過程で手に入れたイレギュラーと言えるかも知れない。しかしそれは一握りの成功者の話で、基本的には「反社会性パーソナリティ障害」と言われるくらいだから社会性を持つことは少ない。

だからこの映画はサイコパスの思考をドキュメンタリー的に浴び続けることで人の倫理感を揺さぶってくる。
果たして人間がこんなことをしていいのか、意味が分からないのではなく、理解できないという拒否反応がこの映画が途中退出者が続出した真相だと思う。
やはりそんな人の心を悪い意味で揺さぶる作品が作れるのはラース・フォン・トリアー監督自身が鬱病などいくつか精神病を患っているからに他ならない。
こういった精神の表現してはならない奥の奥の深淵の部分を表現出来る作家は作品を作ること自体が自分を削る作業になって病んでいるタイプが多いように思う。(それこそ庵野秀明とか)
でもその作品は狂気に満ちてて、でもどこか人を引き付ける魅力や説得力があって僕はどうしても好きにならざるを得ない。



以下、どうでもいい話。
サイコパス診断見てるときに思いついた回答。

ある町で一家惨殺事件が起こった。
どうやら母親が何者かに恨まれていたようだ。
5人家族のうち母、夫、姉、兄の4人が殺され、
生後10ヶ月の末の妹だけが無事だった。
犯人はなぜ赤ん坊を殺さなかったのか?

一般的な回答「赤ん坊を殺すのは忍びない」
サイコパスの回答「生かしておいても証言者になりえないから」
名探偵の回答「犯人は生後10ヶ月の妹。母親に恨みを持つ動機もあり、顔なじみということもあり犯行が容易、かつ犯人と接触しているのに殺されていない目撃者のため。赤ちゃんは人を殺さないという先入観を逆手に取った叙述トリック。」




以下、どうでもいい話②。
いつか使いたい例えツッコミ「サイコパス診断の答えかい!」

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