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短編小説#A

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世界観が共通のもの
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2019年12月の記事一覧

ひと駅分の距離

 重たい瞼を開けたその瞬間、プシューと音を立てて扉が閉まり、変わり映えしないようで案外違いがよく判る、見慣れた景色が押し流されていく。そして五秒ほど経って、私は自宅の最寄駅で降りるのを忘れたことに気が付いた。一気に目が覚めたのは、言うまでもない。
 どうしようと軽く混乱しても結局は出来ることは限られている。新型の座席が柔らかいのが悪いとか、ここ暫く抱えていた案件を完遂し早く上がれたから座れたのが良

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果たして心は誰のものか

「嫌い……というか、うちは気持ち悪いなぁって思うわ」

 自然に告げられた一言に思わず心臓がドキッと跳ねた。話題を振ったのは僕なので自分に言われたわけじゃないと分かっていても過剰反応してしまう。それを口にしたのが優等生を絵に描いたような女の子——クラスでの彼女の立場から僕もみんなも委員長と呼んでいる——なら尚更。テスト終わりで賑やかな教室、身体は横向きに上半身を後ろの僕に向けた彼女の声は、小さいの

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やっちまったと笑えない

 底冷えに加え、諸々の事情——大抵は仕事関係ではなく最近発売したゲームのやり込みにハマってるからだが——で、すっかり夜更かしが日常になった俺は当然のように風邪を引いた。鼻水が昼夜を問わず溢れ出し、喉が痛いあまり飴を欠かせない。咳も結構出るので常時マスクも付けざるを得ず、自業自得とはいえ不便な生活を送る羽目になった。それだけなら、まだ良かった。病院に行って薬を貰って、すぐに完治はないしろ、状況は好転

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近くて遠い、世界の話。

 行き帰りの乗り物の待ち時間に昼休憩。帰ってからもお風呂が沸くまでや寝る前にスマホを手に暇を潰すことが多い毎日を送っている。操作が楽で札束で殴る予定はなくてもそれなりに満足出来るソシャゲや、ぼーっと見れて、気になったシーンだけちょこっと巻き戻せばいい動画も面白い。けどどちらもある程度時間は必要だから、タイムラインを眺める回数が多かった。投稿を一つも見逃したくない、というタイプではないので、適当に流

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