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ゲームを参考に習熟のデザインを考える

これは実話を元にした話なんですが、ここに20歳までゲームを禁止されてきたあなたの友人が居ます。
あなたはゲーマーじゃない人がゲームをやるとどうなるか興味があって、2Dマリオとかならできるかもな、とコントローラーを渡します、友人はどうゲームをプレイすると思います?

私の友人は最初、ボタンを押せませんでした。

後から聞くと「ボタンを押すと取り返しのつかないことが起こるんじゃないかと思って怖かった」と。
ゲームをやる人なら当然、コントローラーと見知らぬゲームを渡されたら、とりあえずすべてのボタンを押すじゃないですか。各ボタンで何が起こるか気になるし。でも実は、それすらもゲームというシステムに習熟した成果、もっと言えば、ゲームへの「信頼」がないとできないことだったんですよね。

自分の作ったものを使い続けてもらうために

ここからわかることは、普段自分が当たり前にやっているようなことであっても、初めて触る相手には実は当惑させるものだったり、壊してしまわないか恐ろしく見えるものだったりする、ということです。
自分が作ったものを人に使ってもらいたいのなら、この「習熟」をどのようにして作っていくかも考えてみる必要があります。
言ってみれば、「触ってみればわかるだろ!」の「わかる」の部分も、意図を持って設計していく必要がある。

習熟ができる環境の作りかた

ゲームの例に戻ってみます。
実はゲームは恐ろしいほどに考えられていて、人の習熟のためには最適とでも言えるものでもあったりする。
最初の例で足りなかったのは、コントローラーのどのボタンを押しても、ゲーム自体が壊れて取り返しのつかないことは起こらないという信頼感であって、そこさえ大丈夫ってわかればその友人も20分後には手元の動きと画面内のキャラが連動する奇妙な身体感覚に慣れていました。でもこれってけっこうすごいことが起こっている。
必要だったのは横でギャーギャー言ってボタンを押させる人ではなく、ゲーム自体に触ってみて安全だとわかる時間だった。

これは教育用のゲーミフィケーションとかいうケチくさい話とかではない。
ゲーミフィケーションはもはやほとんど「スコアとかつけて競わせたりしてゲームっぽくする」という意味で使われていますが、これはゲームの本質ではなく受験勉強の本質なんですよ。

ゲームの習熟にとってもっとも良い部分は、「法則があること」と「やり直せること」です。

法則があること

法則とはなにかというと、同じことをすれば同じことが返ってくるということです。
2Dマリオで言うと、マリオが地上に居れば、Aボタンで跳ねてBでダッシュできること、ものが下に落ちること、敵に横から触るとマリオがひとり減るということなどです。単純そうに見えるゲームであっても、実はけっこう多くの法則によって成り立っている。

例えばこれが、押すたびにジャンプするためのボタンが変わるとかになってくると、慣れるのは遥かに難しくなってくる。
鍵盤の同じ場所を押しても違う音が出る場合があるピアノでは、練習するのも大変ですよね?
毎回自分の操作に似たような反応が返ってくるからこそ、人はそれを自分の身体の一部のように扱えるようになるわけです。

やり直せるということ

やり直せるということも重要です。
マリオが死んでも、それで二度とゲームができなくなるわけではない。また新しく始められるということは、試行錯誤すること、つまり失敗することがシステム的に許されている。

不慣れで失敗しやすい最初の方は、失敗の影響も小さくしておくことも、2Dマリオから学べるよいことです。
ちょっとしか進んでない面で死んでしまって最初からになっても、戻る量もちょっとなので、もう一度やろうという気を削がずに済みます。
慣れてくるうちに失敗したくなくなってきて、「ここまで来たからにはここで死ぬわけにはいかない」と楽しく緊張できる段階まで来てもらえれば、その人はすでにファンです。他の人にも嬉々としてコントローラーを勧めるようになっているのではないか。

習熟をつくるためのヒント

うまくいった!をなるべく繰り返すこと
  例: ジャンプボタンを押して階段を登ること
  小さい遊びを何度もやることで、人はけっこうなスピードで慣れていく
安全であること 
  例: ゲームをすることでゲーム機自体が不可逆に壊れることは(たぶん)ない
  すぐやり直せるとわかっていることは、様々なことを試すための土壌になる
間違っても取り返しのつくこと 取り返しのつかないことは警告しておくこと
  例:削除ボタン 実際に消える前に戻せないよ?って聞くと親切
他の部分で得た知識を応用できること
  例: テレフォンショッピング 電話世代は電話怖くない
  例: スマホは機種が変わってもだいたい同じ操作性
  例: アプリを作る場合も使う人が慣れてそうな他のアプリの操作性を流用できないか考えてみる
シンプルに使えるように作られていても、習熟の過程自体は逃れられないこと
  例: 斧はシンプルな道具であるゆえに使い方を学ばないと危ない(触ってるところを見せて、コツを言葉で言う必要)
  例: スマホをおばあちゃんに渡すと、「おばあちゃんには難しくてなあ……って言う」マジか……と思うけど実際周りで使ってる人が居ないとどう触ればいいかもわからない。あと人や犬は歳を取るほど習熟のために苦労するようになる傾向があります。

まとめ

UXについて考えるとき、普段触っているものから観察してわかることは数多くあります。
今回はゲームの「法則がある」「何度でもやり直せる」部分から、プロダクトに対する信頼と習熟を培うために使えそうな知見を取り出しました。

書いた人 とりい@kinakobooster
株式会社Xemono代表
最近はUnityを触っています
ものが動くと嬉しい

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