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ワクワクする“変”が生み出す未来を、デザインでつくる。

社会人にデザインの知見を、という想いで講師と学生が共になって日々の学びを深めているXデザイン学校。実際にどんな学びがあるのかという教室の声を届けていく、クラスルームインタビュー。第17回目はユーザーリサーチコースでティーチングアシスタントをされている水上夏希さんです。


水上夏希さん
千葉工業大学工学部デザイン科の情報デザインコースでUXやサービスデザインを専攻。さらなるUXデザインの可能性を知るために、共創型戦略デザインファームBIOTOPEで大学4年生から3年間インターンを経験。ビジョンデザインやワークショップなど未来を創造するためのデザインの役割や場づくりのデザインを学ぶ。所属研究室の山崎先生の大学移籍がきっかけで、武蔵野美術大学大学院造形構想研究科クリエイティブリーダーシップコースの修士課程に入学し、修了後デジタルクリエイティブスタジオにデザイナーとして入社。デザインリサーチや体験設計などUXデザインを手がける。

現在、どんなお仕事をされていますか?

大学院を修了してデジタルクリエイティブスタジオに就職し、この春で4年目です。創業して12年ほどのベンチャー企業でクライアントと一緒に多様なプロジェクトを進めながら、DX文脈でデジタルサービスを作ったり、コンセプトデザインをしたり、それに伴うアプリやシステムのデザインをしています。私はデザイナーとしてプロジェクトの探索フェーズでインタビュー等リサーチをすることもあれば、成熟フェーズでコンセプトを体現するUIデザインを作ることもあって、ワイドなレンジで働いています。それ以外に社内でも社員を表彰するイベントをデザインしたり、実験的な取り組みに挙手してプロトタイプ試したり、いろいろ自由にやらせてもらっていますね。当社は肩書きを比較的好きに決められるので、名刺にはエクスペリエンスデザイナーと記してあります。なんかUI/UXデザイナーという言葉が私は嫌いなんです。なぜそれを一緒にするのかもよくわからないし、すごく狭いなと思っていて。私は学生時代からさまざまに専門性ある人々とデザイン活動をさせてもらったのですが、プロダクト寄りの人もいれば、センサーが得意な人もいれば、ビデオやアニメーションに強い人もいれば、建築が専門の人もいれば、ビジネスデザイナーもいたりして、もちろんグラフィックの人もいるのですがそんな人たちといると、すごくデザインの幅って広いんだって感じてきました。だからこそ、やりたいことを表現として1個しかできないってとても悲しく、残念だなと思うんです。やりたいことや提案にふさわしい、デザインの形やアウトプット、見せ方がある、ということを大切にしたい。もちろん私が全部できるわけではないからこそ、そういう仲間を集めてアウトプットできれば、最適で最善な表現ができると思っているので、私としては表現に寄った肩書きより、体験全体を私はデザインするんですよってことを大切にしたいなと思ってるので、そういう肩書きにしています。


変なモノを、作りたい。

どんな経緯でデザインの世界に入られたのですか?

千葉工大で学んだ後に武蔵美の大学院へ行ったのですが、UXデザインという言葉も元々は知りませんでした。そこへたどり着いたきっかけが中高生の頃に2つあって、1つはMITのメディアラボの活動が紹介されている番組をたまたま見たI/O brush。大きいブラシの中心にカメラが付いて、それで周りのテクスチャをスキャンして、プロジェクターなどスクリーンに、そのスキャンした柄でペイントできますよ、というモノで今はそんなものどこにでもあると思うのですが、その時おもしろいなと興味が湧きました。変なモノだなと思ってた時に来たのが2つめで、iPhone。学生ながら結構びっくりして、すごくいいな、スティーブジョブズって人も変だなと感じていた時に進学のタイミング。私は「この2つのような変なモノ作りたいです」と学校の進学担当の先生に話して、元々理系だったので理系でデザイン科があるということで千葉工大のデザイン科に入りました。その授業でペーパープロトタイプを作る授業があったのですが、プロトタイプの中にボタンや画面を入れなさいというルールがあったんです。その時ふと思ったんです、なんか似てるなって。iPphoneに似てる。四角い物体に画面を取り付けてるiPhoneとペーパープロトタイプに画面やボタンを付けたら、すごく似てると思ったんです。その授業の頃に聞いたのがUXやUIデザインという言葉で、インターフェースがああだこうだ、体験デザインがうんぬんかんぬんとあって、私はそういうデザインがやりたいんだ、とやりたいデザインに名前がついたのが、そんな学部生の時期でした。最初はデザインにグラフィックデザインというイメージも持っていましたが、その時気付いたのは、人の行動とか体験とか感情とか、そういう部分もデザインに入るんだと思った時に、デザインってめちゃめちゃ広いなと思って、より興味を持っていきました。その後BIOTOPEのインターンに行き始めた時に、もうあらゆることがデザインなんだなとデザインの意識がどんどん拡張されていって、未来について考えることも好きでしたし、じゃあビジネスの人が考えるデザイン、その頃はよくデザイン思考というキーワードも聞く中で、それはどういう感覚なんだろうとか、どう考えてるんだろうというのが気になって、もう少し学びたいなと、UXデザインというところから枠を外れた部分でも学びたいなと武蔵野美術大学に新設された大学院に入りました。そこではさらにいろんな人が集まってきて考え方も違うし、ソーシャルな視点を得たりと視野が広がっていき、やっぱりデザインってすごく広いんだな、そして私が元々やりたいと思っていた「体験」は全部に共通するんだなというのを学びました。


水上さんをデザインの世界に引き込んだ変なモノたち

デザインが楽しいのはどういうところですか?

楽しいのはリアルなことですね。仕事では当然全てがビジネスにつながるよう真剣に考える中でうまくいかないこともありますが、そこで必ず行き着くのは、このボトルネックをどう超えようか、そのためにどういうやり方がいいだろうかと考える時に結局学んだことが全てベースになっていることにいつも気付くんです。それが面白いです。各論で言うと、リサーチは好きですね。なぜなら自分の知らないことを知れるから。そういう発見だったり、驚きだったり、自分の心が動かされるっていうことが根本的に好きなんだなと思います。もちろんアイディエーションも面白いのですが、その種になる部分が出てきた瞬間って楽しいですよね。


イノベーションという、“変”

水上さんの面白さは「変」という言葉と繋がっているように感じます。

“変”ということを考えると、何か驚きとか、これまでになかった新しさや面白さとか、心が動く、動く、動く、そういうポジティブな方向に動くという感情が生まれる。モノでもコトでもそういう体験があるものが、“変”なものなんだろうって思ってます。私自身あまりポーカーフェイスでもないので「ああ!」とか「おお!」とか口に出る方ですが、そういう感情が生まれるものが大体“変”なもので、それは違う目で見れば世の中でイノベーションって言われるものなんだと思うんです。そんな言葉を当時は知らなかったけど学生時代に心が動いた2つのものも、結局はイノベーションに繋がるものであったと思いますし、社会を変えるって大きいことですけど、例えばI/O brushって社会をすごく便利にしたとかではないと思うんですよ。でも心が動いた。それは何か日常がもっとワクワクするものに変わる、そんな効果を生む“変”に惹かれます。


Xデザイン学校はどんなところが面白いですか?

ユーザーリサーチコースのTAを3年やっていて学生の皆さんに伴走するのですが、デザイナーだけでなくマーケターやリサーチャーといろいろな出自の方がいて、面白いのは皆さん社会人なのでそれぞれの会社のやり方があって、それが意見や質問に出るんですね。今こんなタスクを担当してこんなやり方でやってるのだけど何か上手くいかなくて、こういう状況の時先生方どうしますか?って話を聞いていると、皆さん会社のバックグラウンド含めて会話してるんです。そうか、その会社はそういう風にやってるんだとか、うちの会社と比較が生まれたりとか、そうやって皆さんの社会経験を聞ける、聞いてそこからまた新たな問いが生まれたりする、そういうのがちょっと面白いです。


恩師の教え、「作り続ける、学び続ける、繋がり続ける」

山崎先生との繋がりも長いですよね。

山崎先生とは大学、大学院と本当に長くて、数え切れないほどいい影響をもらっていて感謝しかないのですが、すごく大きいのが不思議なことにめちゃめちゃいろんな繋がりが生まれること。研究室の繋がりだけでなく全然関わりない先生のコミュニティでたまたま出会った人が、時間が経った後にまた違う場所やイベントで会って、アハハみたいなことがとても多くて。そんな自分がTAになったのもすごく面白かったし、先生の繋がりで他の先生とも知り合えたのも大きいですね。山崎先生はとりあえずやったら?って言われるのでキレイなメソッドってあまり教えないんですが、やってるうちに繋がりが生まれて伊賀先生のようなより専門家に出会える。それに仕事をしていると痛感することが多いのですが、山崎先生のデザインに対する考え方は、本当に一番大事なことなんだなっていろんなタイミングで思うのですが、そこに触れられたのがとても大きい価値ですね。とはいえもう数え切れないんですけどね、価値がありすぎて(笑)。
作り続ける、学び続ける、繋がり続ける、と先生はずっと言われていて、特に会社に入り社会人になってつくづく感じたのが、繋がりに関しては実践される人が多いのですが、とにかく作ってみよう、とにかく学び直してみよう、ってことに取り組む人が少ないことに気付きます。私にとっては結構衝撃的で、なんですぐに作ってみないの?そんなの机で議論してても全然進まないんじゃない?と思うのですが、まず作ってみるという人が意外と少ないことに気付いて、とりあえず作ってみなよと考えられるのは先生の影響だし、学び続けること、自分の知らないことだけでなく知ってることでも学び続けるということがいかに大事かもつくづく学ばせてもらっています。


社会人だからこその学び続けることの大切さって、どんなところにありますか?

学び続けるという点で大学では一気にデザインの視野が広がりましたが、実はまた会社に入って狭まったという感覚があるんですよ。会社でやってるデザインって、クライアントのやりたいことやサービスを実現するためのデザイン、そこに絞られたデザインなわけで。もっと広いデザイン、もっと広い視野を持てるような発見や学びをしていきたいと思っています。そういう意味で視野が広がったというか、忘れていた部分に気付かせてもらった学びの一つに、ユーザーリサーチコースでTAをやっているからこそのことがあります。自分も講義を聞けるので。会社でリサーチをすることもありますが、私が入社した頃は仕事のリサーチはインタビューが中心だったんです。でも現場に行ってそこの人が暮らしてる部分をちゃんと見て“インタビューだけじゃ見つからないことを見ていく”ことの大切さも以前学んだなと思う中でインタビューばかりやってて何か非常にモヤモヤしてたんですが、ユーザーリサーチコースではインタビューというより観察系のエスノグラフィーや現場でどういうことが起こってるかをちゃんと見てくる、そこから物事を考えるということが根底にある授業で、伊賀先生も面白くて、例えば具体的な事例を見せてくれるわけです。写真を数秒見せて今記憶してくださいって。言葉だけで見たものをチームに伝えてみると、なんか記憶ってちょっとしかもたないよね?!という事実を自分たちで実際に実感して学ぶんです。バイアスという部分で面白いのが、あるビデオを見せてもらったんです。プロフィールが何も書かれてない人の写真をフォトグラファーに見せて、この人物像を表す写真を撮影してくださいとお題が出される。そうするとスキンヘッドの怖そうな外国人は、囚人だったような写真になる。他にも漁師のように、とか精神状態がバッドな感じで、とか表現されるんですね。いかにバイアスがものすごいかということを学んだのですが、人間必ずバイアスがあるから、仕事のリサーチでもバイアスをとっぱらって、純粋に見たものをしっかり観察して、その事実から考えることが大事だなと思えるわけです。会社でインタビューをずっとやってると、フォーマット的なお作法とか、大体こんなことを聞いてと型にはまりがちだし、長年会社にいるとバイアスをしっかり取り払おうという地点まで意識が届きにくくなるというか、慣れに入ってしまって視野が狭くなっている状態で改めてそんな話を聞くと、そもそも違ったリサーチのやり方もちゃんとあるということを大学で学んだし、さらに発展的な部分でもっと詳しく再認識できて、やばいやばいと立ち戻ることができる。自分のこわばってる部分とか、慣れになってて意識が向かなかった部分、会社にいるだけじゃ何かこぼれ落ちていくものや感覚を取り戻すためにも、学び続けることは大事だなと思いますね。会社のプロジェクトだとこんなに長い時間かけてリサーチすることが難しく、だいたいすぐ終わってしまうのでこんなに丁寧にできないんですが……って質問が毎年必ずあるんですが、時間をかけられなくても大切なのは、その感覚、例えばバイアスの危なさに意識が向かっていることなんだと思うから。


私にとって、デザインとは「未来への架け橋」。

そんな水上さんにとって、デザインとは何ですか?

会社にいて思うのは、目の前の課題について考えることがすごく多い。でも、もっと未来について考えた方がいいんじゃないか?と私は思っていて、課題について考えるのも大事なんですが、こんなに世の中速いスピードで、課題を解決してるうちに終わった後にはまた更なる課題が来る。そんなイタチゴッコよりも、私はもっと未来について考えたりとか、未来についてプロトタイプを実験していくことをやりたいと思っています。そんな私にとってデザインとは、未来や社会をつくっていく唯一のもの。未来を作っていくための一番最強な道具であり存在だなと思っていて、もちろんビジネスマンやエンジニアにとってはそれぞれ違った存在があると思いますが、私にとってはデザインが未来を作っていく唯一のものだと信じる気持ちはずっと変わらないです。学生時代から“変”なものが好きで、いろんなプロトタイピングやって思うのが、デザインって未知なるものとかワクワクする体験ってどんなのだろうねって、全然見たことない実験や自由な検証をやったりするわけですよ。そこに未来を生み出す自由を感じるし、それを作るから周りの人に「こんなものできたらどう?」って聞けるし見せられると思っていて、未来は誰も現在には目に見えないものだけど、デザインはそれを形作って見せることができるので、デザインが最強だと思ってるんです。それは、未来への入口のかけらを見せてあげられることで、それこそがエクスペリエンスデザインだと思ってて、それって周りの人に体験をさせるから、その未来を信じさせるじゃないですけど、信じてもらえるようになっていく。そのためにデザインがあると思ってます。私にとってデザインはそういう素晴らしい未来、未来への架け橋です。


変なモノに惹かれ続け、師の教えを大切に日々作り続け、学び続け、繋がり続ける水上さん。未来をタンジブルにする力を持つデザインには未来への架け橋そのもので、大きな価値があると教えてくれました。デザインのおもしろさは、やっぱり広くて深いです。