米中、関係改善へ合同作業チーム設置─年内の首脳会談に向け協議

 中国外務省高官は、米中両国政府が関係改善のための合同作業チームを設けたことを明らかにした。台湾、人権、貿易摩擦などさまざまな問題を抱えながらも、年内に行われる習近平国家主席(共産党総書記)とバイデン大統領のオンライン首脳会談に向け、協議が進んでいるようだ。約1年後の第20回党大会で総書記3期目入りを狙う習氏には、外交で最も重要な対米関係をうまく処理することでトップリーダーとしての力量を誇示したいとの思惑があるとみられる。

■「具体的問題で進展」

 中国外務省の楽玉成筆頭次官は10月11日、国営の中国国際テレビ(CGTN)とのインタビューに応じ、対米関係について詳述した。楽氏は、米中首脳が今年2回の電話会談で「重要な共通認識」に達し、両国の外交、貿易、気候変動問題の代表が対話を行ったとした上で、「中国側は一貫して、善意と誠意を持って積極的に中米関係改善を進めており、対話の大きな門はいつでも開け放たれている」と強調。「最近、双方は合同作業チームを設立して、二国間関係の中の幾つかの具体的問題の処理について話し合い、進展があった」と語った。作業チームのメンバーが誰なのか、どのような進展があったのかは明らかにしなかった。
 楽氏は「米側が最近、中米関係について積極的な態度を示したことを重視している」と述べ、その一例として、米通商代表部(USTR)のタイ代表が講演で、米中のデカップリング(分断)は現実的ではなく、「リカップリング」(再結合)を追求すべきだと言明したことを挙げた。また、2020年の米中貿易額が米側のデカップリングの動きや新型コロナウイルスの感染拡大にもかかわらず増えた事実を指摘。米国が真に態度を改め、経済・貿易協力が米中関係のこう着状態を打開する「砕氷船」になるよう望むと語った。

■AUKUS批判に力点

 ただ、楽氏はその一方で、幾つかの問題で以下のように米側の動きを批判した。
 一、米・英・オーストラリアの安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」はアングロサクソンの小さなサークルで、新冷戦をあおるものであり、百害あって一利なしだ。(原潜の技術協力を含むことから)核拡散のリスクがあり、核拡散防止条約の精神に著しく違反し、南太平洋非核地帯条約を損ねる。AUKUSは海上覇権を求め、地域内の軍備競争を激化させ、軍事的冒険を助長して、地域の平和と安定を破壊するもので、中国は断固反対する。地域各国と国際社会にも共に反対し、拒否する理由が山ほどある。
 一、(中国の対外強硬姿勢や軍事力増強がAUKUS発足の理由になったとの説に対し)米英は(イランに)制裁のこん棒を振り上げ、他国のウラン濃縮技術開発を許さないのに、豪州には公然と原潜を造らせ、その隠れみのとして「中国強硬論」をでっち上げており、あからさまなダブルスタンダードだ。
 一、米国には、「一つの中国」の約束に背き、「台湾カード」を使う人々がいる。一つの中国の原則は中米国交樹立と中米関係の礎石であり、礎石がしっかりしていなければ、地が動き、山が揺れる。礎石をカードにするのは、薪を抱いて火遊びをするように危ない。台湾も喜んで他人のカードになってはならない。自分で「切り札」だなどと思っていても、結局は「無駄駒」か「捨て駒」になるだけだろう。中国の統一と復興のプロセスを阻むことはできないのだ。
 一、(米国が12月に主催する「民主主義サミット」について)バイデン大統領は国連総会での演説で、新冷戦を望まないと述べたが、実際には「3カ国安全保障パートナー」(AUKUS)をつくり上げ、「4カ国メカニズム」(クアッド)を格上げし、「ファイブアイズ」(英語圏5カ国による情報共有の枠組み)の結束を固めている。「民主主義サミット」などと言っても、米国の民主主義に関する記録は輝かしいものではない。連邦議会占拠事件はまだ記憶に新しい。対外的には「カラー革命」や「民主主義への改造」を試みたものの、いずれもめちゃくちゃな結果になった。国際社会の一部のメンバーだけが参加する「民主主義サミット」が民主的なものになるであろうか?
 楽氏はAUKUSなど対中包囲網に力点を置いて、対米批判を展開した。特にAUKUSは最初に取り上げ、最も詳細に論難しており、習政権が重大視していることが分かる。
 一方、台湾問題では、蔡英文総統が前日(10日)の演説で「中華民国と中華人民共和国は互いに隷属しない」と新たな「二国論」を打ち出したことに何の反応も示さず、台湾に対する武力行使の可能性をほのめかすこともなかった。

■内政の失点で外交成果より重要に

 「棚ぼた人事」でトップになった習氏は毛沢東のような絶対的な最高指導者ではなく、歴史の浅い習派は現指導部で圧倒的優位に立っているわけではない。習氏が2期10年という慣例を破って総書記を続投するには、内政・外交で強力なリーダーシップを見せる必要がある。
 しかし、内政では大規模な電力不足や不動産開発大手・中国恒大集団の経営危機で経済が失速。習氏の左傾路線で市場や民営企業に対する統制を過度に強化したことが一因とみられる。内政でこのように大きな失点があったことから、習派としては外交の成果をより強くアピールしたいところだ。
 習路線の一環である「戦狼外交」を担ってきた王毅国務委員兼外相は、「習近平外交思想」をたたえて個人崇拝をあおるような内容の論文を20日付の党機関紙・人民日報に掲載。同思想について「中国外交を新たな道へ導いた」「中国外交に歴史的成果をもたらした」などと強調した。
 具体的には(1)中国の国際的影響力を全面的に高め、「新冷戦」を仕掛けてくる動きには多国間主義のたいまつを高く掲げて、世界平和の建設者や国際秩序の擁護者などの役割を果たした(2)台湾、香港、新疆、チベット、海洋、人権といった問題で断固とした闘争を展開した─と主張している。
 こうした政治的宣伝に十分な説得力を持たせるには、習氏が首脳外交の手腕を発揮して、超大国・米国からの圧力回避や対中包囲網の形成阻止で目に見える成果を上げる必要があるだろう。(2021年10月25日)

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