香港の一国二制度、永続へ─返還25周年で習主席「長期堅持」 

 中国の習近平国家主席は香港の一国二制度について「長期堅持」を言明した。香港基本法に明記された「50年不変」の後も同制度を恒久的に続けるという意味と現地では受け取られている。国家安全維持法(国安法)により香港の政治を中国化する一方で、経済面では中華圏唯一の国際金融センターとしての機能を保ちたい考えとみられる。

■ 「良い制度は改変しない」

 香港で7月1日、英国から中国への返還25周年記念と新政府発足の式典が行われ、中央政府から習氏が出席した。広東省と香港を結ぶ高速鉄道で深圳から香港入りした習氏は会場となった湾仔(ワンチャイ)の会議展覧センターで演説。25年前の返還式典と同じ場所である。
 習氏は演説で、一国二制度は「国家・民族の根本的利益に合致し、香港・マカオの根本的利益に合致する」とした上で、①このような良い制度は改変する理由がなく、長期にわたって堅持する②国家の主権、安全、発展の利益が守られるという前提の下で、香港・マカオの既存の資本主義制度維持は長期にわたって不変である③中央政府は、香港が長期にわたって独特の地位と優勢を保持することを完全に支持する─と述べた。 いずれも返還20周年の演説ではなかった表現だ。
 香港の一国二制度は1997年から50年不変とされているが、習氏は「50年」ではなく「長期」という言葉を使った。香港メディアによると、これについて、中国の国政諮問機関である人民政治協商会議(政協)の副主席を務める梁振英(CY・リョン)元香港行政長官は「2047年が一国二制度の終点ではないということだ」と解説した。
 香港選出の中国全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員として活動する譚耀宗氏も「一国二制度に今後、さまざまな困難があったとしても長期にわたって堅持し、2047年以後も同様であることを意味する」と指摘。譚氏は香港最大の政党・民主建港協進連盟(民建連)の元主席で、親中派の有力長老として知られる。
 また、別の親中派政党・新民党主席で、李家超(ジョン・リー)新長官の諮問機関・行政会議の招集人(非閣僚メンバーの筆頭格)となった葉劉淑儀(レジーナ・イップ)氏は「2047年(以後の制度)問題の心配はなくなった。一国二制度はずっと続いていくと信じる」と話した。

■異例のコモンロー言及

 習政権は国安法により香港民主派を徹底的に弾圧し、「高度な自治」を事実上廃止した。このため、一国二制度の枠組みを長期的にどうするつもりなのかが注目されていたが、中国政府の香港担当高官は今年3月、香港選出の政協委員たちとの会見で、珍しく「一国二制度は50年不変。50年以後も変える必要はない」という鄧小平の1980年代の発言を引用。習氏が公式に「長期堅持」を明言したことで、国安法体制が維持される限り一国二制度は永続させる方針であることがはっきりした。
 一方、民主派の主要政党・民主党の羅健熙主席は「重要なのは、一国二制度の実施が香港人の利益に合致するか、香港人の考えに配慮するかどうかだ。例えば、かつて香港人の自由度は比較的高かったが、今は引き締められている」と語った。
 習氏はそのほか、次のように語った。
 一、一国二制度の実践は香港で世界が認める成功を収めた。香港経済は過去25年、勢い良く発展し、国際金融・海運・貿易センターとしての地位を固めた。ビジネス環境は世界一流で、(英国流の法体系である)コモンローを含む既存の法律は保持され発展した。
 一、中央の全面的統治権は実行され、(香港)特別行政区の高度な自治権は正しく行使されてきた。香港国安法を制定し、香港において国家の安全を維持する制度的規範を確立して、香港の選挙制度を修正・改善することで、「愛国者による香港統治」という原則の実行を確実なものにした。
 一、香港が自由かつ開放的で規範に合ったビジネス環境を維持し、コモンロー制度を保持することを完全に支持する。
 一、香港が和諧(調和)と安定を維持するよう望む。さまざまな困難を経て、香港は乱れてはならないし、乱れることはできないと皆が痛感した。

■強権と法治は共存可能か?

 中国の指導者が香港に関する公式演説で「コモンロー」に触れ、その意義をこれほど高く評価するのは異例だが、「英国の法律は素晴らしい」と言いたいわけではあるまい。
 実は、前出の香港担当高官は香港のコモンロー制度についても「決して変わらない。市民は心配したり疑念を持ったりしたりしなくてよい」と述べていた。
 その直後、香港の鄭若※(馬ヘンに華)司法官(当時、法相に相当)も公式ブログでこの問題に言及。判例の積み重ねに依拠するコモンローは経済・社会の変化に対して柔軟に対応できると指摘し、香港の資本主義と国際金融センターとしての機能にとって、コモンローがいかに重要かを強調した。中国側の許可を得た記述とみられる。
 その一方で、習氏は演説で「愛国」という言葉を7回も使った。5年前の演説の2回から大幅に増えた。前回全く触れなかった「中央の全面的統治権」にも4回言及した。
 逆に、前回の演説に出てきた「二制度の差異を尊重する」や「香港は多元的社会」はなくなった。経済に限らず香港の独自性を全面的に肯定する立場は取らないということだろう。
 鄧小平路線が香港に対し、政治と経済の両面で独自性を認めたのに対し、習近平路線は経済の独自性しか許容しない。経済発展が中進国レベルの中国が先進国入りを目指す上で、極めて重要なのは閉鎖的な金融システムの改革。この点で国際金融センター・香港に対する中国経済の依存度は大きくなっており、香港の一国二制度の経済的独自性は残さざるを得ないのだ。
 しかし、香港の国際金融センター機能の土台であるコモンローは、法治を軽んじる社会主義流の強権政治の下でこれまでと同じように存続することができるのか。既に米国のスミス駐香港総領事らが強く警告しているように、習政権の香港における「いいとこ取り」に大きな不安があることは否定できない。(2022年7月15日)

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