一党独裁反対者は「香港の大敵」─中国高官が警告、国安法適用か

 中国政府の香港出先機関である連絡弁公室(中連弁)のトップが同国共産党結成から100年(7月1日)を記念する行事で演説し、一党独裁に反対する者は香港の繁栄と安定にとって「真の大敵」と見なすと警告した。香港で中国本土の民主化を求める言動も国家安全維持法(国安法)に違反するとして取り締まり、香港民主派の活動を完全に封じ込める方針とみられる。

■「欠陥あれば修繕」

 記念行事は6月12日、「中国共産党と一国二制度」を主題とするフォーラムという形で香港の中連弁、国家安全維持公署、外務省特派員公署(同省の出先機関)、人民解放軍駐留部隊が共催。林鄭月娥行政長官や中国の国政諮問機関・人民政治協商会議(政協)副主席を務める2人の長官経験者(董建華、梁振英の両氏)が出席して、中連弁の駱恵寧主任(閣僚級)が演説した。
 駱氏は演説で、中央には香港に対する「全面的統治権」があり、中央の一連の重大な決定によって、2019年の反政府デモを抑え込んだとした上で、次のように語った。
 一、一国二制度の事業を推進するには、必ず中国共産党の指導を堅持、擁護しなければならない。共産党がなければ、新中国はなく、中国の特色ある社会主義はなく、一国二制度はなく、そして、香港のスムーズな(中国への)復帰とその後も繁栄・安定もなかった。
 一、「一党独裁を終わらせよう」とわめき、党の一国二制度事業に対する指導を否定する者や、香港を地政学政治の駒、中国封じ込めの道具として、本土浸透の橋頭堡(きょうとうほ)にしようと企てる者、一国二制度の基礎を破壊する者は、香港の繁栄・安定にとって真の大敵である。
 一、香港の政治制度は、有効であれば堅持し、欠陥があれば修繕し、偏りが生じれば直し、時代遅れになれば更新する。
 一、国家の発展は終始、香港の発展にとって最大のよりどころだ。香港は復帰後も国に1銭の税金も収めていないが、困難に遭遇した時には国から全力の支持を受けている。

■拡大解釈で強制捜査も

 国安法は(1)国家分裂(2)国家政権転覆(3)テロ活動(4)外国勢力との結託─を取り締まると規定しているが、一党独裁反対を禁じた条文はない。
 香港メディアによると、鄭若驊司法官(法相に相当)は6月22日のラジオ番組で、民主派政党・団体の連合組織である香港市民愛国民主運動支援連合会(支連会)が綱領で「一党独裁終結」を主張していることは国安法に違反するのかとの質問に対し、それは実際の状況、背景、犯意の有無によると答え、同法違反と見なす可能性を否定しなかった。
 支連会の幹部は「駱氏の発言は脅迫だ。綱領を改めることはあり得ない」と明言。親中派からは「支連会が自主的に解散しないのであれば、取り締まるべきだ」という声が出ている。
 国安法は現地法規の上位法として制定された上、廃刊に追い込まれた日刊紙リンゴ日報と創業者の黎智英氏らに対する捜査などで拡大解釈して適用されている。「中国共産党イコール国家政権」という理屈によって、一党独裁反対の言動が国安法に違反する国家政権転覆行為として強制捜査の対象になる可能性は大きい。

■政治の中国化推進

 習近平国家主席の側近として知られる国務院(内閣)香港マカオ事務弁公室の夏宝竜主任(閣僚級)は2月22日、北京で開かれたシンポジウムで「愛国者による香港統治の客観的基準」について演説し、「一国二制度は中国の特色ある社会主義の重要な構成部分で、中国共産党は中国の特色ある社会主義の指導者、一国二制度という方針の創設者、一国二制度という事業の指導者である」とした上で「もしある人が一国二制度を擁護すると言いながら、一国二制度の創設者・指導者に反対すれば、それは自己矛盾ではなかろうか」と主張。共産党に反対する者は「愛国者」ではないので、香港統治に関与できないとの考えを示した。
 党機関紙の人民日報も3月13日の論評で「もし香港の統治者が一国二制度を擁護すると言いながら、一国二制度の創設者・指導者に反対すれば、疑いなく『愛国者による香港統治』の原則に反する」と指摘している。
 つまり、中国側の一連の見解によれば、香港人が中国共産党に反対すれば、香港の立法・行政・司法に関わることは許されず、一党独裁批判にまで踏み込めば、処罰される恐れがある。これでは、社会主義体制下にある本土とほとんど変わりがない。
 国務院は6月25日、香港政府ナンバー2の主要閣僚である政務官の交代を発表。高齢の張建宗氏(70)に代わって、警察出身で治安担当閣僚の保安局長だった李家超氏(63)を起用した。保安局長が政務官に昇格するのは初めて。元警官が政務官を務めるのも前例がない。習政権は異例の人事によって、香港警察の民主派に対する国安法執行状況を高く評価していることを示した。
 香港に対して政治面でもかなり寛容だった鄧小平氏や江沢民元国家主席、胡錦濤前国家主席と異なり、習氏は香港の国際金融センターとしての機能を維持して中国経済の運営に利用する一方で、政治的には中国化(社会主義化)を進めていく方針とみられる。(2021年6月28日)

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