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「台風」と私の距離感

大嫌いだが、気になる「台風」という存在

私は幼いころから長く大阪に住んでいた。また大阪の中でも大阪湾、大阪港にかなり近いところに住んでいたので、台風が来るとすぐに家が水に漬く。会ってもまったくうれしくはないが、大嫌な親戚のおじさんのようにわが家と「台風」とは切っても切れない関係にあった。大自然のダイナミズムとでも言おうか、台風の進路は千差万別だが、大阪に住んでいたせいか、潮岬、紀伊水道、大阪湾、大阪市というように大阪に住んでいる人にとって、最悪のルートを辿ることが多いように感じていた。しかし、九州の人、とりわけ沖縄や奄美大島の人にとっては、「台風」は何時も沖縄や奄美大島を通ると大迷惑に思っている人が多いのかも知れない。

漁場で培った祖母の的確な台風の進路情報

私の場合は、母方の祖母が紀州の出身なので、台風のルートについては漁場仕込みなのかかなり詳しくて、私たち孫に対して、大阪を直撃する台風についての詳細な進路予測を話してくれていた。私が子供の頃は、確かアメリカの進駐軍の命令か何かで、日本に向かってくる台風については、欧米風の女性の名前を冠することになっていて、「ジェーン台風」「キャサリン台風」といったような名前がついていた。ある程度私が大きくなってからは、日本的というか台風の名前も「室戸台風」「第2室戸台風」「伊勢湾台風」といったように生真面目な日本語のモノに代わっていった。当時台風が上陸すると住民に深刻な被害を与えるので、子供の頃はそうした欧米風のユーモアのセンスが分からず、こんな恐ろしく悲惨なものに いかにも映画女優のようなバタ臭い名前を付けていることが理解できなかった。
アメリカ軍は、広島に原爆を投下する爆撃機に乗組員の母親の名前であるエノラ・ゲイという名前を平気でつけるセンスなので、台風に若い女性の名前を付けるのはごく自然なことだったのかも知れない。

大阪人は台風はすべて大阪に向かってくると大騒ぎ

これは私の勝手な想像だが、全国的にはあまり台風と関りがない地域も少なくないと思う。私は幼いころの経験から、大阪が台風の上陸回数のトップ3に入っているとまでは言わないが、10番目くらいには入っていると思っていた。しかし実際に調べてみると、ナンバー1は鹿児島県、ナンバー2は高知県、ナンバー3は和歌山県で、大阪は台風上陸が39番目とかなり少ない都道府県となっている。しかし私には、大阪府の地形もあって上陸回数は少なくとも、台風の被害は決して少なくないという印象があった。
というのも、大阪府は、北側に北摂山地、東に生駒山地、南に金剛山地と和泉山脈に囲まれていて、しかもそれら囲まれた土地の大半が低地だ。また市街地の多くがこうした低平地にあるので、集中豪雨にはめっぽう弱い。つまり、大阪の歴史を振り返ってみると、集中的な激しい雨による水害や土砂災害、さらには台風による高潮災害が発生して多くの被害者が出ている。また大阪には、淀川、大和川、神崎川、寝屋川といった大きな河川がひしめき合っているので、大規模な河川氾濫が容易に発生する。

「南海トラフ地震」が水に脆弱な大阪を再認識させる契機に

とりわけ問題なのは、大阪のかなりの地域がゼロメートル地帯にあって、満潮時には地面が海水面よりも下がってしまうので、洪水被害も大きな被害をもたらすことになるという点だ。さらには網の目のように広がる地下鉄や、地下街の存在を考えれば、大阪が台風や集中豪雨に対して脆弱で、洪水被害が極めて大きくなる可能性がある。
大阪は、顕在、潜在を問わず、実際は台風のリスクが高いので、大阪人の心理における台風が持つストレスが大きく、それが大阪人の「台風」への心理的な距離感の近さにつながっているのではないかと思う。まさに腐れ縁としての「台風」への裏返しの親近感が透けて見えるような気がする。私は最近大阪に住んでいないので、京都から大阪を眺めているといったようなものだが、都市部の災害対策も進んでいて、目に見える範囲では災害被害も少なくなっているように見える。だから、台風への関心も相対的に低下してきたようにも思える。ただ最近は、「南海トラフ地震」の話題が社会の前面に出てきていて、南海トラフ地震の大災害は大阪の台風被害を何十倍、何百倍に増大させたようなものなので、これからは嫌が応にも水に脆弱な「大阪」を再認識させる機会になるかも知れない。

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