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ひとくち映画感想#1 ファンタスティック・プラネット

 お疲れ様です。
 先日WOWOW公式youtubeにて、二週間限定で『ファンタスティック・プラネット(原題:La Planète sauvage)が公開されていたので鑑賞しました。
 折角なので、レビューと云う形で残しておこうと思います。



映画概要

ファンタスティック・プラネット』(英: Fantastic Planet、原題 : La Planète sauvage、「未開の惑星」の意)は、ルネ・ラルー監督による1973年アニメ映画。脚本はラルーとローラン・トポールフランス語版英語版)が手がけ、原画はトポールが担当した。動画はプラハイジー・トルンカ・スタジオが制作した[1]フランスチェコスロヴァキア合作。
1973年のカンヌ国際映画祭で審査員特別グランプリを受賞し[2]、2016年にはローリング・ストーン誌によって史上36番目に偉大なアニメーション映画とされた[3]
原作はステファン・ウルフランス語版)のSF小説オム族がいっぱい』。

出典:wikipedia

 だいたい50年前の映画(半世紀前!?)だが、全然古さを感じない。
 アニメーションを切り絵で製作しているらしく、クレイアニメ(粘土アニメ)ともまた違った、独特のシュールな質感を味わえる。
 一次ソースを精査していないので与太話程度だが、宮崎駿が『風の谷のナウシカ』を制作する際に影響を与えた、なんて話もあるほどカルト的な人気を誇るとかなんとか。
 原作小説『オム族がいっぱい』は邦訳されていないため、どうしても読みたい場合はフランス語の原書を入手するしかないのがネック。


あらすじ

全身真っ青の皮膚で、目だけが赤い巨大なドラーク族が支配している惑星では、人間は虫けら同然に扱われていた。孤児となった人間の赤ん坊が、ドラーグ族の知事の娘ティバのペットとして育てられることに。テールと名付けられた赤ん坊は成長し、ティバが勉強に使っている学習用具をこっそり使い、この惑星についての知識を深めていった。彼はティバの隙を狙っては、ひっそりと暮らす人間たちに様々な知識を共有させる。

引用:Amazon Prime Video

 人類より強大な相手に反攻するような作品としては、『進撃の巨人』『約束のネバーランド』といった作品が類型として挙げられるかなと思います。

全体の雑感(若干ネタバレあり)

音楽

 サイケデリックなBGMが作品全体のシュールな雰囲気にこれ以上なくマッチしている。(上部埋め込みの予告編で流れてるのがまさしく冒頭で流れている曲。良すぎ)
 しれっとOSTがサブスクに入ってて感動。オリジナルのLPはプレ値ついてるっぽい。


ドラーグ族について

 正直めっちゃトラウマになりそうな見た目してる。小学生の時分だったら夢に出てきてたと思う。
 実際、コメント欄でもそういった旨の書き込みは多く見られたし、作品自体のシュール極まりない雰囲気も含めて、良くも悪くも記憶に爪痕を残していくことは間違いない。

 オム族(人類)がホモ・サピエンスとほぼ同等の存在(生活水準は原始的だが)であるのに対し、人類より上位の存在(ドラーグ族)の生態が人類とかなりかけ離れているのが興味深いポイント。人類と違って肌が青く、体躯がデカく、ほぼ食事が必要なく、”瞑想”を行うことが重要であり、なんなら瞑想中に体がめっちゃ変形する。あと生殖方法が特殊過ぎる。

瞑想中はやたらと変形する。なんで?


 科学技術の発展具合は、ともすれば製作から50年経過した現在よりもさらに発展している。私も学習装置ほしい。こういうのもそのうち本当に発明されちゃうんでしょうかね。科学の発展は日夜目覚ましいですからね。

頭に着けてるやつが学習装置。作中キーアイテム。
脳に直接情報を書き込むから忘却しないらしい。羨まし過ぎる。

 原語がフランス語なので、リーディングをできる人以外はよく分からん言語で話が展開されるため、より『異星人・異文化』感を実感できるのかなと。

 オム族(人類)に対して共生(穏健)派と駆除(過激)派が議会で激論を交わしているのも味わいポイント。主人公は穏健派の過程に引き取られてよかったね……ペット扱いだけど。
 「知能が高いし凶暴だし駆除すべき」という論調は、確かに頷けるところも多いっていうか……(人類の業)。
 でも駆除方法が毒ガス散布なのは科学技術の発展度合いに対してかなり原始的。これに関しては、『ナチスドイツによるホロコースト』をモロに投影していると言われている。逆張りしてみようかとも思ったが、特にいい案は思いつかなかった。
 そういった部分は作り手のメッセージ性が色濃く出ていると考えられる。

オム族について

 野生のオム族はほぼ原始人。実際『原始人種』って扱いらしく……名が体を表している。逆にドラーグ族に飼育されているオム族は『高等人種』として扱われているものの、首輪や奇抜な服装から原始人種にはバカにされているという。実際の人間社会でも「高等(笑)」みたいな感じで他人をバカにする空気があったりするし、あながち変な描写でもないかも。

 原始人種はドラーグ族の駆除対象として定期的に大量虐殺され、なんならその辺のガキにも虫けら感覚で踏み潰されたり弄ばれたりしている悲しい生き物となっている。
 これは散々擦り倒されていると思うけど、オム族とドラーグ族をそっくりそのまま虫と人類に置き換えることが出来る。アリを無邪気に踏み潰したりするのと、オム族を甚振ることは本質的には同じこと。あくまでもドラーグ族の視点に立つと本当に害虫駆除の感覚っぽく、虐殺シーンも淡々と描かれる。スプラッター的な描写がある訳ではなく、ただただ無価値に死んでいく様が描かれる。でもオム族は人類とほぼ同義なので、我々からは露悪的で残酷な行いに映る。
 そういった対比に想いを馳せるのも楽しい。

原生生物について

ある意味一番面白い。
作品の大筋には概ね関係のない原生生物登場シーンも結構力が入っている。
人間捕食バードとか……鳥はたき落とし植物とか……。

オム族捕食バード。粘着性の高い舌で人間を根こそぎ食らう。ほぼアリクイ。
鳥はたき落とし植物……植物?
何がしたいのかわからないが、鳥を撃墜して殺してはニヤついてるのが薄気味悪い。

 こういう全くストーリーに関係ない謎生物の生態描写が、世界観の掘り下げに一役買っていて作品に深みを与えてくれる。


作品のメッセージ性について

 先に挙げたようなホロコーストの投影の他にも、当作には人間の負の側面・負の歴史を想起させるような描写が多く見受けられる。

 首輪をつけられペット化、ないしは奴隷化されるオム族。

ペット化に際し首輪をつけられる主人公テール
毒ガス散布で奴隷労働中のオム族withドラーグ族

 宗教と科学の対立(原始人種のシャーマンは最初主人公が持ち出してきた学習装置を悪しきものとして忌避していた)。
 決闘裁判とか本当にしょうもないですよね。でも実際にやってたもんね人間……。

決闘裁判。あほくさ。

 ロケットが後半のキーアイテムになっていたり、相互の牽制をしつつ、最終的にはそれぞれ別の場所に住み分けるのは東西冷戦を模しているとも言われているが……これに関してはよく分からん。

 以上に挙げたような部分は人類の辿ってきた歴史で直面した負の産物が殆どであり、決してフィクションのものではない。
 こういった描写が作品に入っていることによって、世界観・物語性に得も言われぬリアリティと深み、コクを齎しているのではなかろうか。

終わりに

 途中からアルコールを入れて執筆したため、文章がとっ散らかっていないかが一番心配(おい!!)。
 正直自分の文章力では表現しきれないほどシュールで奇妙な魅力に溢れた不朽の名作、それが『ファンタスティック・プラネット』だ。
 これを読んだ諸氏はこんなnote読んでないで、本編を是非見てほしい。70分強の短い尺に、これでもかと魅力が詰まっている。


余談

 『禁断の惑星/TABOO1 feat.志人』というラップバトルでもよく使用されるヒップホップミュージックのMVやリリック、トラックのサンプリングに当作品からの引用が多くみられる。
 曲自体は核戦争で世界が滅びた後のディストピアが描かれた名曲。
 『太陽なんてとうの昔に死んだよ』というリリックが強烈。


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