見出し画像

神奈川県秦野市|老舗旅館「陣屋」でのDX成功事例、3年で黒字転換・離職率40→3%へ

ここ1年くらいで「DX(デジタルトランスフォーメーション)」について耳にすることが増えました。

DXとは「進化したデジタル技術を浸透させることで、人々の生活をより良いものへと変革すること」と説明されています。この説明を見て分かる通り、非常に幅広い内容が含まれます。

紙でやっていたことを電子化することもDXですし、現金をキャッシュレスにすることもDXですし、今まで活用できていなかった売上や顧客のデータを分析して活用することもDXです。

幅広いDX領域の中で「紙を電子化してデータを活用すること」に成功した事例を今回はご紹介します。DXの成功事例としては外すことが出来ないのが、神奈川県秦野市にある「陣屋」という旅館です。

旅館・ホテル経営をITの力で改革する「陣屋」の成果

陣屋は創業100年の老舗旅館です。
約10年ちょっと前は「あと半年で倒産」と言われるほどの危機的状況で、当時は約10億円の負債があったようです。

※老舗旅館「陣屋」の公式HPはこちらです。

その陣屋が、業務を少しずつデジタル化していき、ITシステムを活用することで大きな成果を上げています。

2009年からの3年で黒字転換を実現し、旅館業では大変珍しい「週休3日」を実現しています。そして、週休3日にした後も売り上げは伸び続けています。また、離職率は元々30〜40%だったのが、今ではたったの数%にまで減っています。

こういった取り組みが評価され、日本サービス大賞で総務大臣賞を受賞するまでに注目されています。

日本サービス大賞とは・・・総務省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省が後援しているもので、「革新的な優れたサービス」が表彰されています。

※こちらもご参考までに、日本サービス大賞で総務大臣賞を受賞された内容が掲載されています。


情報の不透明さに起因して1日の8割はバックヤード業務へ費やしていた

陣屋では、中小企業ではありがちな「情報の不透明さ」が課題でした。

例えば、女将の頭の中だけに情報がある、営業担当者の手帳の中にしか商談に関する情報がない、紙で予約台帳を管理している、原価計算は月次のドンブリ勘定、正確な人件費を把握できない、売上は紙で管理している、・・・などなど。

これらはどの企業でも起こりうる課題です。実際に、私がこれまで数十社のシステムコンサルをさせて頂いた経験から言っても、これらの課題を抱える企業が多いです。

当時の陣屋は、なんと1日の約8割がバックヤード業務に費やされている状況だったので、その結果として旅館業では重要な接客に時間を避くことができていませんでした。

Salesforceによる徹底的な効率化

これらの課題に対応するため、誰が対応しても一定のクオリティーを担保できること、そしてPDCAサイクルを月次から日次へと切り替えることを目標に掲げ、Salesforceを導入しました。Salesforceの導入によって、システム上での情報共有を徹底し、紙の電子化も推進しました。

Salesforceの導入については、そのまま利用するのではなく、Salesforceをベースにカスタマイズして陣屋オリジナルのシステムを構築し、新しい予約システムで業務を開始しました。

ミニマムスタートするスピード感の早さ

システムコンサルの立場からこの事例を解説します。

ここまでの話では、特別なシステムを入れたわけでも、特殊なやり方をしたわけでもありませんでした。

今回成功したポイントを1つあげるとするならば「課題を絞って、ミニマムスタートしたこと」です。

元々は業績が悪く、課題もたくさんあり、システム化も進んでいない状況でした。そのときにやりがちなことは、「たくさんの課題を一気に解決しようとする」ことです。

事実として、1つの基幹システムを導入すれば多くの課題を解決できることもあります。ただし、それは業務を変革することもセットで行わなければいけません。

システムの導入は一気にできますが、業務の変革を一気に行うのは現実的に難しいです。なぜなら、現場の方々は現状の業務を行いながら、新しい業務の検討を行わなければいけませんし、業務を変革(大きく変える)ということは取引先や社内での調整が必要なケースも多く、調整には時間を要するためです。

しかし、陣屋の場合は、非常にスピード感が非常に早く、システム選定の2ヶ月後には新しい予約システムの利用を開始しています。

これは、まずシステムを導入して新しい予約業務を開始することに注力したためです。最初から、経営に関する情報も収集し、旅館内での情報共有もできて、営業担当者同士もうまく連携できるようにして・・・とたくさんの課題解決をしようとしていたら、失敗していたと思います。

まずは特定の課題を解決する。
そして、改善したことを実感し証明できたら、次の課題に取り組む。

こういった進め方が陣屋では上手くいったのではないかと考えています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?