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北海道岩見沢市|国内外から注目されるスマート農業化、利用者数720%増加

北海道岩見沢市は、札幌市から車で30分ほど離れた場所にある町で人口は約9万人です。米産出額は道内1位で農業が盛んな町です。

年間平均気温 7.9℃の岩見沢市で取り組んだICT活用事例をご紹介します。


農業地域の課題

農家戸数の減少、高齢化による後継者・担い手不足が深刻化していました。下記グラフを見て頂くと、年々大きく減少していることが分かります。

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※出典:農林業センサス(農林水産省)

農業就業人口は減りますが、農業を行う土地面積は変わりませんので、一戸の農家が対応する面積が拡大していくことになります。高齢者が広い土地を対応するのは困難ですので、一戸の農家が対応する面積の限界という課題も発生していました。

実は岩見沢市では、1993年頃から「市民生活の質の向上」と「地域経済の活性化」をテーマにICT活用に取り組んでいました。居住区域を全面的にカバーする光ファイバー網を整備し、教育・医療・児童の見守りに関するシステムを構築していました。

その取り組みをさらに発展させて、大きく2つの仕組みを構築しました。


農業気象システム

農業は天候によって大きく左右されるため、農家にとって気象情報は重要です。その気象情報を収集し、かつ収集した情報を分析まで行うシステムが「農業気象システム」です。

※実際の画面(その1)

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岩見沢市内13カ所に設置した気象観測器を用いて、50m四方ごとの気象予報や現在の気象情報を確認できます。

※実際の画面(その2)

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気象観測器を用いて収集された気温、露天温度、日射量、降水量などの気象データをグラフで確認することもできます。

気象情報を確認することで農作業時期を最適化することができます。


RTK-GPS基地局

高精度の測位ができるRTK-GPS基地局を導入しました。

「RTK」とは『リアルタイムキネマティック』の略で、地上に設置した「基準局」からの位置情報データによって、高い精度の測位を実現する技術のことです。RTKは、一般的に「RTK-GNSS」という表記がされています。この「GNSS」とは「汎地球測位航法衛星システム」のことで、GPSなど、衛星を用いた測位システムの総称のことです。
※出典:https://atcl-dsj.com/work/2685/

簡単に言うと、より正確な位置情報を把握する仕組みのことで、GPSでは難しいとされていた、センチメートル単位での高精度な位置情報データを活用することができる技術です。

このRTK-GPSと、GPS受信機と自動操舵機能を搭載した農機を使い、農機の自動操縦を実現しました。最初に走行ルートを設定し、旋回は自分で行う必要がありますが、直進走行は自動操縦することができます。作業内容を記録することもできるため、一度作業をすればその内容を呼び出すことが可能です。

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※出典:https://agri.mynavi.jp/2019_07_22_80706/


利用者数が720%増加

この事例で、効率化によるコスト削減、精密性・正確性・安全性向上を実現し、テレビドラマを通じて全国に放送されるなどして、国内外から注目を浴びました。この仕組みが3年間で720%利用者が増えるほどになりました。

◯ トラクター走行ラインの最適化と自動操舵
→重複幅減など作業効率化・精密化、 切返し不要による作業短縮(約5%)

◯ 水田代かき作業の効率化
→走行距離及び作業短縮(約50%)

◯ 病害予測情報による投薬の適期・適量判断
→資材コスト削減(約30%)

◯ 社会実装の推進(利用者数の増加 )
→直近3か年で720%増


ポイント

岩見沢市の事例は、所謂「スマート農業化」を実現した事例でした。岩見沢市、北海道大学、NTTグループの産学官連携を行ったことで実現することができました。観測情報や位置情報をスムーズに通信するためには、ネットワークインフラが要ですので、NTTグループが根幹を担ったことで成功したとも言えます。

この点も重要なポイントではありますが、もう一つ着目したいのは「技術」ありきの取り組みではなく、「経営戦略」として理想の姿を描いたことが前提となっている点です。

実は、RTK‐GNSSの基地局を設立する前、一人の農家の方が、独自にアンテナを立ててスマート農業化への取り組みを行っていたようです。農家が経営戦略の一環として自ら取り組んだことがベースになっており、あくまでも経営戦略が前提となっているという点はポイントだと思います。

ICTを活用する場合、どうしても最先端のIT技術を使うという手段が目的化してしまいがちですが、しっかりとした目的をもとに、経営戦略に基づいて実行された点が学ぶべきポイントだと思います。

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