広島県尾道市|組織・施設間で情報共有できる「天かけるネット」、12%検査が減り重複投与も4%減少
広島県尾道市(おのみちし)は、人口約14万人、広島県南東部と山陽地方の中南部に位置する市です。広島市と岡山市の中間あたりですね。
「坂の街」「文学の街」「映画の街」として全国的に有名な町です。
全国平均より高齢化が進行している町での取り組み
2017年、広島県尾道市の高齢化率は34.2%で、当時の全国平均は22.5%でした。全国平均と比べて約10年ほど高齢化が進んでいました。
尾道市では1990年代から医療・介護の連携が行われており、2011年にも、より質の高い医療・介護を実現するためにICT活用へ取り組まれていました。高齢者や要介護者が通う施設や建物が変わっても、施設同士で情報を連携して共有するという仕組みです。
最初にシステムを構築する際には国からの補助金や支援を受けていましたが、支援が終わった後も継続的に取り組みを行い、発展を続けているという事例です。
各組織・施設間を繋ぐシステム「天かけるネット」
医療・介護の連携においては、スピーディーに情報を共有することが重要です。スピーディーに情報を共有するためには、あらゆる情報をデジタル化する必要があります。
紙の書類を使っている限りは伝達に時間がかかってしまうからです。
元々構築していたシステムでは、情報を共有する仕組みは出来ていたものの、完全なデジタル化が出来ていませんでした。例えば、カルテについて、一部では電子カルテが導入されていましたが、依然として紙のカルテも使われていました。
特に、在宅や介護施設でリハビリ・維持を続けている場合、ほとんどが紙のカルテで運用されていました。大きな医療機関であれば電子カルテが使われていますが、日常生活を営む小さな介護施設では電子化がやや遅れていました。また、在宅のかかりつけ医など外出を伴う介護では、どうしてもデジタル化が追いついていない状況でした。
そこで、病院が持つ電子カルテの情報を、別の組織や施設へ共有できるように、「医療情報共有リンクシステム」を導入しました。
具体的には、NECネクサスソリューションズの「ID-Link」というシステムです。
https://www.nec-nexs.com/sl/medical/hospital_idlink.html
地域医療連携ネットワークサービス「ID-Link」は、地域の医療機関に分散する患者の診療データを統合・共有して、スムーズな地域連携パスを実現するネットワークサービスです。
※出典:https://www.nec-nexs.com/sl/medical/hospital_idlink.html
この横串を通すシステムにより、介護施設だけでなく、薬局やかかりつけ医でも「医療情報共有リンクシステム」へ接続するだけで電子カルテの情報を見られるようになりました。
これらの仕組み全体は「天かけるネット」と呼ばれています。
検査の事前確認ができることで12%検査が減少、重複投与も4%減少
現在、天かけるネットには129の施設が参加しており、尾道市医師会に所属する診療所の52%、介護施設の83%、尾道市薬剤師会の40%です。
患者さんへアンケートを行ったところ、「天かけるネット」が広がってほしいと回答した方が96%でしたので、患者さんにとっても非常に大きな期待がされています。
実際に効果も表れており、診療所において検査情報をシステムで事前に確認したことにより、検査を中止したケースが12%ありました。そして、重複投与は4%減少しました。
ポイント
元々システム化へ取り組んでいたところから、現状を可視化して課題を明確にしたところが今回のポイントです。それにより、的確に課題解決のアプローチができています。
実際の資料は以下のとおりです。
縦軸には「When、Where、Why、What、Authorize、How、Record」、横軸には「救急、急性期、回復期、維持期」を並べ、マトリックスの形で状態を表しています。
表の下には、電子化システムの普及状況について色分けされて表現されています。赤色になっているところが、電子システムが普及されていないことを表しています。
「情報共有できていない」「紙のカルテばかりある」といったように抽象的に課題を捉えてしまうと、解決への打ち手を立てにくくなります。なぜなら、課題がぼやけていると、原因もぼやけてしまい、誤った対策を打ってしまう可能性があるからです。
そのため、情報共有できていないのは、「どういう患者に対して」「どこの施設で」といったように課題を要素分解して、明確にしていくことが重要です。だからこそ、解決のための打ち手も打ちやすくなります。
※画像は、総務省のHP、特定非営利活動法人「天かける」からお借りしました。ありがとうございました。
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