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京都大学2024前期「終末論」木2限-1

今年も京大で「終末論」を講じることになった。去年は前期の前半部分のみを担当した。今年もそうだったはずだが、なぜか前期丸ごと担当になってしまった。鬼も溶け出す地獄の焔よりも熱い夏の京都へ毎週向かうことになる。主よ、憐みたまえ。

 たまえといえば「砂澤たまゑ」という伏見稲荷の巫女オダイについての書籍を読んでいるが、これが本当におもしろい。が、それは措いて京大で講じた授業メモを備忘録として以下に残す。

現代の預言者を考えるのに非常によいテキスト

授業目的
・キリスト教神学の中心問題である終末論についての文献(英語)を精読する
・キリスト教独自の世界/歴史理解を「終末論」を通じて学ぶ

 一般に「終末論」といえば、世界の破局的終焉を思い浮かべるが、じつは終末論とは、キリスト教の専門的議論の名称である。では、それは何か。

①旧新約聖書に見られる預言者の意識、世界観に関する議論。とくに福音書におけるイエスの終末意識、またはイエスが倣ったであろう預言者らの世界観に関する一連の文献学的・神学的議論である。

②ユダヤ・キリスト教における世界の終焉に関する教説。ヨハネ黙示録などが、よく言及される。

③一般的・世俗的な理解として、世界の破滅に関する流言飛語や俗信をふくむ態度など。

授業形式
・講義70分 質疑応答15分
・毎週レジュメを配布、また担当箇所の訳読分担

授業予定
① 4/11 全体オリエンテーション
② 4/18 第一回  救済と終末
③ 4/25 第二回  律法・預言者・詩編
④ 5/02 他曜日補講のため休講
⑤ 5/09 第三回  福音書・使徒行伝
⑥ 5/16 第四回  ヨハネの黙示録
⑦ 5/23 第五回  古代
⑧ 5/30 第六回  中世
⑨ 6/06 第七回  近代
⑩ 6/13 第八回  校外学習 ※未定
⑪ 6/20 第九回  19-20世紀ドイツ
⑫ 6/27 第十回  19-20世紀アメリカ
⑬ 7/04 第十一回 現代
⑭ 7/11 口頭試問 
⑮ 7/18 口頭試問 

評価基準
・毎回の出席
・授業における議論への参加
・演習での訳読の発表

到達目標
・歴史的観点から終末論について概説できるようになる
・キリスト教思想における終末論の重要性を概説できるようになる
・訳読作業を通して、英語の専門的テキストを読みこなせるようになる

授業参加のポイント
・キリスト教になじむために日本語で聖書を通読する
・キリスト教思想を理解するためにウエストミンスター小教理問答を読む
・終末論の生成過程を把握する
・終末論の思想的特質、時代性、地域性の把握
・運動の動機と目的、実態と構造、歴史的評価の把握
・終末論的運動への批判的(歴史的/哲学的)観点の獲得
・キリスト教以外の終末論的運動との比較:仏教、イスラム教、新興宗教 

全体オリエンテーション

キリスト教とは何か:水垣渉の定式「キリスト教とは多様な聖書的伝統である」――イエスと聖書を包む聖なる伝統、人類史上最大の宗教活動の動的ネットワーク=キリスト教
「宗教」という訳語の意味するところ、「仏教」や「キリスト教」という抽象的総体は、近代科学によって規定されたもの
キリスト教とは、一般的には「聖書と聖伝」
・聖書は巻数が違うし翻訳である、印刷された校訂写本→現存する写本断片→原典の復元作業→仮定される原典の文献学的批判と査定→「聖書」とは何を意味するか。その範囲と価値が伝統や各個人、時代によって異なる。
教義的には「聖書・三位一体・二性一人格のイエス・キリスト」
→正統と異端、ユダヤ教とイスラム教との差異
学問的には「多様な聖書的伝統であるキリスト教」
→聖書/三位一体/二性一人格とは何を意味するか
→各伝統によって違う

キリスト教神学とは何か theologia セオス+ロゴス
キリスト教は「神のことば」の宗教
・ヘブライ語/アラム語を下敷きにしたギリシャ語の宗教
・ヘブライ語/アラム語とギリシャ語、ラテン語、ゲエズ語などへ翻訳
・五大教区の伝統→地球をつかむ神の五指→地中海から大西洋弧、太平洋弧へ
・西方ラテン教会と東方ギリシア教会
・24億人、四つの主要教派:正教会、東方諸教会、カトリック教会、プロテスタント(的)
大変雑なまとめながら…:
キリスト教は「神のことば」を各国語に「聖書と聖伝」として翻訳する宗教
→ユダヤ教は、ヘブライ語の文字の固有性に執着する宗教→聖書解釈の基礎
→イスラム教は、アラビア語の音声の固有性に固着する宗教→礼拝行動の基礎
→アブラハムの宗教の連続性と非連続性

近代以前の学知としての神学または教学
 ・自然/社会/人文の科学→反省カウンターとしての人類学など
・近代知の循環:大学、学会、出版、書店
近代科学以前の学知
 ・宗教経験も知的情報の基礎としている
例)祈り、修行もまた知的な営み
 →シャーマニズムにおける知性の内在的一貫性
西方神学と東方神学の差:西方は贖罪、東方は神化、神学(論理)の立て方が異なる

神学の四部門:聖書、歴史、実践、組織
※もっとも簡素なプロテスタントの型の場合
聖書神学:聖書を時系列で理解する:聖書通読、語学、解釈学、文献学...
歴史神学:キリスト教の歴史哲学:教理史、思想史、教会史、歴史理解...
実践神学:キリスト教実務の論理:教会教育、牧会学、典礼学、宣教学、教会法...
組織神学;キリスト教の自己理解:弁証学、倫理学、教義学...
 ※当然ながら各伝統と神学者によって神学の部門構成は変わる

教義学の伝統的項目:
神論、人間論、キリスト論、救済論、教会論、終末論
・神論:存在論的/経綸的三位一体論、聖定論...
・人間論:創造論、摂理論、堕落/原罪理解...
・キリスト論:積極的/消極的服従、二性一人格、三職...
・救済論:誰が何から救われるのか、救いの秩序、救いの保証、効果、帰結...
・終末論:個人的/歴史的/宇宙的終末論、神の栄光、中間状態、千年王国、万物の更新...

神学は、キリスト教の自己理解であり、キリスト教学は、その自己理解の理解である。また京都大学のキリスト教学は、三つの学問分野の相互批判的に研鑽することによって成立する学問である。厳密な文献学(聖書学、歴史学、自然科学)、透徹した宗教哲学(東西の宗教哲学、解釈学)、全面的に展開されたキリスト教神学(他宗教との折衝も含む)の交点に建設的なかたちでのみ存立し得る。

個人的には、ここに、さらなる補助線としてフィールドワークの層、文化人類学、民俗学などを設定したい。

これらを踏まえて「終末論」に親しみ、受講者には現代をみる批判的視点を獲得されたい。どうか参加する学部生、院生にとって有益な時間となりますように。

訳読用のテキスト

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