刑務所ドラマあるある common scenes in jail-fictions
刑務所を主たる舞台にした作品というのはこれまでの人生で3つしか見ていない。一つは映画「ショーシャンクの空に」である。もう一つは「プリズン・ブレイク」という人気シリーズ、最後に「OZ/オズ」というテレビドラマシリーズである。いずれも基本的には米国を舞台としている(ただしプリズンブレイクは外国へと舞台が飛躍していく筋書き)。
「プリズンブレイク」や「OZ/オズ」はそれぞれ何十時間にも渡るドラマであるので、およそ米国の刑務所モノに特有と言えそうな要素はすべて出しきっているものと思われる。それらを一つの映画に圧縮したものが「ショーシャンクの空に」になると言ってもよさそうである。刑務所ドラマによくある要素を以下に列挙してみよう。
新人といじめ
初犯の新入り、派閥に属さない者は刑務所の中でギャングの洗礼を受ける。これは実際にもありそうである。新入りと先輩がセットにされ、逃げ場の無い相部屋に収監された場合、先輩の支配下におかれることもある。そうした虐待に対する反撃という筋書きでドラマをつくることができる。
レイプあるいは機会同性愛
元々性犯罪に手を染めていた者の場合もあれば、刑務所に入って自分たちの権力を誇示するために同性愛に走る者たちもいる。看守の目を盗んで弱そうな新入りをレイプするというのはお馴染みのシーンだ。
派閥
刑務所内では味方が必要である。そのため、派閥も発生する。人種、民族、信仰、イデオロギーなどである。派閥同士のあいだで小競り合いやトラッシュトークが発生するのもドラマになるだろう。
悪徳看守と所長
原則として囚人は悪党である。「ところが、実は看守や所長の方が悪党なのだ、そしてその上に立っている政治家や社会の風潮の方がおかしいのだ」とした方がドラマとしてはおもしろい。看守たちも囚人にナメられるわけにはいかないし、自分たちの同僚がやられれば犯人(と目される)囚人にリンチを加える。一方、所長が主人公に個人的な頼み事をして癒着することによって主人公に特殊なチャンスが与えられるという筋書きもある(さすがに現実的ではないと思うが……)。
仮釈放
米国では実刑判決が下り、終身刑または数十年に渡る長期の量刑が言い渡されても、一定期間を過ぎると仮釈放の審査があるようだ。仮釈放が迫ってくると囚人は不祥事を起こさないよう大人しくなるが、恨みを買っていれば仮釈放の足を引っ張るような敵対者も現れる。仮釈放の審査場面もワンシーンになる。
高卒資格
教育格差の描写も必須の要素である。つまり、学のある者は物語のなかで重要な役割を演じることができるし、一方、実際に読み書きもできずに犯罪を重ねてきた若年犯罪者もいる。また、刑務所内で高卒資格を取れるかどうか、取らせられるかどうかで仮釈放後の就労機会なども変わってくると推察できる(日本の刑務所でもこうした教育機会はあるのだろうか)。
刑務作業
一部の囚人だけを使っていつもとは異なる場所で刑務作業をさせることがある。これは脱獄や普段取得できないアイテムの取得、特別な連絡のチャンスになる。
密輸と薬物
刑務所内の経済はタバコなどの現物が貨幣代わりになる。上記の派閥ごと、あるいは派閥を超えて施設外からアイテムを調達するネットワークが構成されている。一部は看守への賄賂も含まれるだろうから、施設外の物品を手に入れるのに通常価格の数割増しで済むとは思えないと想像するがどうなのだろうか。違法薬物は当然大きなシノギとしても描かれるし、麻薬犬による抜き打ち検査もシーンになる。
暴動とロックダウン
囚人たちが結託して暴動することもある。責任者は施設全体の閉鎖(ロックダウン)やSWATに支援を仰がなければならない。このようなパニックに際して被害を受けるのは囚人の中でもさらに弱い立場であるのは当然である。
狂気・希望・絶望
こうした刑務所モノのドラマの見える要素によって描写されるのは、長期間閉じ込められた人間たちの狂気である。とはいえ、そうした狂気が実は「塀の外」であろうと実はあるのではないかというほのめかしもドラマとしては入れたいところである。また、教育を受ける機会がなく、犯罪者として長期間暮らし、ついに終身刑を言い渡された囚人たちにとっては刑務所は終の棲家になってしまっていて、出所できる希望は潰されがちだし、出所できても行く当てが無く、ついには戻って来てしまう。いわば「自由」を旗印に掲げる米国を裏面から描写することができるのが刑務所モノの特徴であろう。
(1,836字、2023.12.31)
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