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『きらきらひかる』読書会の感想など

 6月25日(土)、「ええやん!朝活」読書会に約半年ぶりに参加してきました。
 この読書会は、その回のテーマに沿った本を紹介し合うタイプの会が多いものの、今回は、あらかじめ指定された本を読んできてみんなで感想を共有する「課題図書」形式の回でした。
 今回の課題図書は、江國香織『きらきらひかる』。

 長年気になっていた作品ではあったものの、なかなか読む機会を持てず読めていなかったので、この読書会は読むちょうどいいきっかけになりました。
 私がこの本を初めて知ったのは高校生の頃。読んでいた雑誌「My Birthday」の読者投稿コーナーで「江國香織さんの作品が大好き。『きらきらひかる』が一番好き」というものを見かけてから、ずっと気になっていました。
 その後、江國さんの『号泣する準備はできていた』『デューク』等は読んだものの、『きらきらひかる』はあらすじを読んでも「アル中の妻と同性愛者の夫とその恋人の話なんて、私とは別世界のお話かも……」と感じて、どうにも食指が伸びないままでいました。

 そんな私が、再びこの本を意識するようになったのは数ヶ月前のこと。深海菊絵『ポリアモリー 複数の愛を生きる』という本を読んでいたところ、「きらきらひかる」に出てくる登場人物たちが「ポリアモリー(複数愛者)」として紹介されており「あ、そういう見方もできるのか」と興味を持ちました。

 読んだ感想としては、割と面白く読んだものの、同じ作者の本では『号泣する準備はできていた』や『デューク』のほうが私好みだったな、という感じ。もう少し若い頃に読んでいたらまた違った感想があったかもしれませんが、私が憧れる世界観とも関係性とも生き方とも違うかな、という感じでした。
 全体に流れる少女小説のような筆致や雰囲気は割と好きです。「ゲイ」ではなく「ホモ」という呼称が用いられていることや、エイズの検査結果がどうのという描写が出てくるところや、「おとこおんなみたいな奴」といった罵倒表現が出てくるところに、書かれた当時の時代を感じました(1991年5月に出た作品ですね)。

 この本のメインの登場人物は、妻の笑子(翻訳者)、夫の睦月(医師)、その恋人の紺(学生)の3人。
 読書会のほかの参加者の感想は、まず最初に出てきたものはこんな感じ。

  • 読み返すと、高校生の頃に読んだときとは感想が違った。ヤバい女が親を困らせる話、と当時は読んでいた。

  • ドラマの原作かと思ったら違った。(※同名タイトルのドラマの原作は漫画。ちなみに、江國さんの『きらきらひかる』は映画化はされている)

  • 一般の結婚とは違っていいな。紺くんが好き。

  • まったくピンとこない作品だったので、ほかの人の感想を聞いてみたいと思って読書会に来た。視点が交互に変わるのも読みづらかった。

  • 時間経過を表す際、行が空いているところもあればそうでないところもあるのが気になった。

  • 睦月は女性にとってとても都合よく描かれているな、と思った。

  • 時代を感じる作品だけど、睦月の描写は割と今風だと思った。

  • 初版が出た当初に読んだけど、当時の女流文学は平岩弓枝や山崎豊子などカッチリしているものが多かったから、この作品は読みやすく感じた。当時のラノベのようなものだった。

 今回は、新潮文庫版を持ってきている人が大半だったものの、ひとりだけ単行本を持ってきている人もいらっしゃいました。私は80年代後半〜90年代前半の少女小説文化は好きなので、時代背景についてのお話は興味深かったです。

 読書会が進んでいく中で出てきた感想は、こんな感じ。

  • 30年経っても変わってないな、と思うところも多かった。

  • 「夫婦ならこうすべき」という規範から自由なところが今の時代にも合うなと思った。でも、笑子はあまり好きじゃない。

  • 私は、笑子さんが友達にいたら「傷ついていいんだ」「こんなふうに自由に振る舞ってもいいんだ」って思えて、楽になりそう。

  • 笑子は手を伸ばしているけれど、睦月は手を伸ばしていない。

  • 人工授精についてのくだりとか、笑子はみんなを幸せにしようと動いてる。

  • この作品、紺が女だったら成り立たないかも。私は最近の江國さんの本は読めないんだけど、女性キャラの都合の良さについていけなくなったからかもしれない。

 これらの感想を聞いたとき、そもそも笑子・睦月夫婦は恋愛関係での結婚ではないから「都合の良い関係」に見えてしまうのかもしれないな、と思いました。
 また、この本のあらすじに「純度100%の恋愛小説」とあるものの、これは誰と誰の「恋愛」を指してこう書いたのだろうか、ということが気になりました。
 そのほかには、こんな感想も出ました。

  • この作品は「白馬の王子様」願望の表れだと思った。当時ウケたのは、その欲望を喚起したところにあると思う。

  • 年を重ねてから読むと、僻みがあって読めなくなるのかもしれない。笑子も睦月もいいおうちの娘、息子だし。

  • 私が働いている職場は完全に男社会。世の中は男性前提に作られていることを痛感する。自分の考え方も男性的になっていってるのを感じる。笑子のような女性に批判的な人を見ると、もう少し寛容になってほしい、と思う。

  • 笑子が受けてきたのは世間からの責めだと思う。そしてこの小説は睦月の解放の話でもあると思った。「こんなふうに、好きに生きたっていいんだよ」とは表立って言えないけど、笑子の姿を見て感じるものもあるのでは。

  • 睦月は非の打ち所がないけど、読者は睦月目線で読むのは、睦月の一人称による描写も途中であるからというのもありそう。

  • この世界は男社会、とはいっても、「男が望んだ社会」ではないはず。

  • 笑子は紺を「夫の友達」とは見ておらず、直で繋がっているのが印象的。

 またこのとき、参加者の一人が江國香織特集のムック本には、この作品の続編が載っているよ」ということも教えてくれました。ちょっと気になります。

 この読書会では、参加者のみんなに聞いてみたいことを質問する時間もあります。そこで出た質問や回答は、こんな感じ。

Q.好きなシーンは?

  • 短冊を飾り、「このままでいい」というところ。一番通じ合ってたように感じた。

  • 「グラフを作ろう」の決意あふれるところも好き。そのあたりから睦月の過激な行動が増えるけど。

  • 私も短冊のところが好き。あとは、夜な夜な一週間絵を描いていたという、睦月と紺の馴れ初めのシーンも。

  • 笑子がうまいお酒を飲むシーンが好き。同じお酒でも、人によって割り方が違っていたりするけど、笑子は割り方が上手いんだろう。

  • 「精神ではなく脳だな」とか、ドロップスを渡すところとか、樫部さんが出てくるところ。この本のキャラはどれも好きじゃないけど、強いて言うなら樫部さん。

  • ベランダで星を見ているシーン。話は寂しいけれど、江國さんの文章がいいなと思う。お酒飲みながら読みたい。

 私は、好きなシーンは、文庫版P73の「私は愛情というものを信用していない」というモノローグ。この一言で、これまで笑子がどれだけ苦労してきたのかが垣間見えた気がして、グサッと刺さりました。
 また、P123で出てくる「銀のライオン」の伝説を話すシーンも好きです。(これは、私の好きな合唱曲に「白いライオン」というものがあるので、それを思い出したので気に入っている、という理由もあります)
 あと、笑子がお酒を飲むシーンの話のとき、「そもそも、あらすじには”アル中の妻”ってあるけど、別に笑子はアル中じゃなくない?」という話をしたりもしました。

Q.人の機嫌に理由はあると思う?

 作中、睦月は、笑子の機嫌には理由があると思っていてあれこれ動いているけれど、この質問をした参加者さんはそう考えてはいないとのこと。
 だから、睦月の「あれがあるから笑子は機嫌悪いんだな。それを取り除こう」といった発想には、ちょっとびっくりしてしまったんだとか。

  • 機嫌には理由はあると思う。

  • 本当に理由のないものなんてないのでは。

  • 睦月は、解決したいがための理由を探しているのかも。

  • 睦月は笑子を一人の人間として見ておらず、野生動物のように扱っているのでは。コントロールしようとしているようにも見える。

  • 笑子がどんなことをやっていても睦月が許しているのは、愛玩動物みたいな感じなのかも。

  • 「人の機嫌をコントロールするのは良くない」と思っていたけど、そうでもないのかも。ど正論をドンと突き出して解決する相談ばかりじゃないし。

  • 割れ鍋に綴じ蓋、という感じ。

 この質問を聞いたとき、面白い視点だと思いました。なるほど、そこを疑問に思う発想はなかった。
 私は、「機嫌は、PMS、天気、寝不足とかいろんなものに左右されるよね」といった話や「笑子と睦月は、お互いの長所を解った上でこう振る舞っているのかもね」ということを話しました。

Q.この3人の関係、憧れる?

 この質問をしたのは私です。私はあまり、このトリオに「憧れ、理想」を見出さなかったので投げかけてみました。

  • 3人の関係に憧れはしないけど、睦月みたいな友人がいたらいいかも。

  • 憧れではないけど、こういう夫婦がいてもいいなぁと思うし、こういう人たちが許容される社会であって欲しい。「パートナーの不倫は、相手と同性のほうが気楽」と言っていた人を思い出した。睦月は紺も笑子も土俵は違うけどそれぞれ大切にしてると思う。

  • 以前、「シェア家族」をしている人たちが叩かれていたのを思い出した。

  • 3人とも「みんな自分に正直に生きていていいな」と思う。笑子、紺はやりたいようにやっていて、人には要求をしていないし。

  • バランスの良さ、互いの良さを伸ばしている……という意味では、この3人の関係には憧れるかも。

  • 赤の他人の言ってることに合わせる必要ある? この先の人生長くないんだし、これまでたくさん「合わせてきた」人たちは「自分の価値観を守ること」も大事。

  • この3人の関係、非常に危ういと思う。終盤の時点ですでに危うく感じる。

  • 作中では何も解決していないし、起承転結もない。江國さんがこの作品以降も売れ続けたことでこの作品も残ったけど、そうでない「一発屋」だったらこの「きらきらひかる」も残らなかったのでは。

 これらの話を聞きながら私が思ったのは、この作品は「3人の人生の、刹那的な一場面を描いた作品」だな、ということ。おそらく長くは続かないであろう儚い関係の一瞬のきらめきを閉じ込めた作品、という印象を受けました。
 また、「睦月は、最近のインターネットミームでいうところの”理解のある彼くん”なのかも」という話をしたら、この言葉を知っている人と知らない人で反応が違ったのも面白かったです。

 読書会の流れはこんな感じでした。私は小説は、どうでもいいところを覚えていて大きな流れを掴むのが苦手だったりもするんですが、この読書会によって、私が拾いきれなかったところもいろいろ補完したり考察が深まったりができて、とても充実した会になりました。

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