猫の目《短編小説》
偶々入った寂れたBAR。
カウンターで1人濃いめのバーボンを煽っていた。
照明が一層暗くなり、男女の絡みを想像させる様な曲が流れ、ポールダンスが始まった。
猫の目みたいだな…。
その女を見てそう感じたのが、初めだった。
くるくる変わる表情にしなやかなポールダンス。
鍛えられた身体は、芸術的だ。
ただ色っぽいというだけでは無い。
観る者の心を一瞬で奪う、とても魅力的だ。
彼女のこめかみから汗が伝う。
それは、彼女が身に着けている宝石よりも、ずっと輝いて美しい。
名前を知りたい…俺は彼女に魅了されてしまった。
彼女がステージを降り、またジャズが流れ始め店内の照明も少し明るくなる。
彼女はこの後何処へ行くのだろう。
気になり、店を出て裏口付近に目をやった。
黒猫がこちらをじっと見ていた。
その瞳は、先程の彼女の目によく似ていた…。
俺に背を向け、凛とした姿のまま暗闇に紛れて行った。
以来、そのBARで彼女を一度も見掛けていない。
[完]
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