エッセイ|微生物と共にある暮らしを、これからも。
米子に行ってきた。
雪のニュースが毎日出ていたから心配していたけれど、思ったよりも晴れていて安心した。
今回の米子行きの目的は、学会で発表するため。
色んな大学の教授や学生が集まるから、学会に行ける決まったときは、毎年ワクワクしてしまう。色んな人の研究発表も聞けるし、何より毎年開催場所は代わるから、「何食べようかな。」なんて考えることも一つの楽しみになったりする。
そして私が今、大学で取り組んでいる卒業研究も発表することになり、昨年の年末からバタバタと準備を進めることになった。
研究内容もまとめて、パッキングもして、準備はOK!
米子を歩いてみる。
いつも島根に帰省する途中で米子駅は通るのだけど、実際に歩いてみたことはなかったから、何だか新鮮。
案の定、雪が積もっていたけれど「山陰ならこれくらい常だよね。」と思いながら気をつけて歩道を歩く。
宿に着くまでの道すがら、どんなお店があるのかリサーチしてみる。
「そういえば、『かまいたちの掟』(島根で放送しているローカル番組)で、かまいたちのお二人がロケしていたお店ってここら辺じゃなかったっけ?」
そんな曖昧な記憶を頼りに、周辺をぶらぶらと歩いてみた。
はじめて訪れる町や、知っているようで実はよく知らない町を散策するのは大好きだ。歩いている中で、「美容院が多いな。」とか「昔ながらの喫茶店が残ってる!」といった、その町独自の色や様子が分かるから。
そんなこんなで、色々探索しながら行ったおかげもあり、この宿泊期間は米子の町を少しずつ知ることができた。
微生物が好きで、学んできた
さて、私は高校3年生で大学を選ぶ際に、食に関わる勉強がしたいと考えていた。
一方で、幅広く、自分の好きな生物や化学についても勉強が出来たらいいなと考えていたから、最終的には広い分野を学べる農学部を選んだ。
学年が上がるごとに私が特に興味をもっていったのは微生物学の分野だった。目に見えもしない小さな細胞なのに、沢山の代謝が起こることが私はとにかく不思議でたまらなかった。
ときに人の社会に悪い影響をもたらすこともあるけれど、それでも微生物が作り出す発酵食品や、有益な物質などには本当に惹かれるものがあった。
”発酵食品”という身近な文化から、どんどん広がっていき、「もっと微生物を専門的に研究したい。未知の作用を解明したい。」となっていった。
研究を重ねるごとに、「研究者って孤独なんだなぁ。」と感じることもあったけれど、自分の興味のある分野を突き詰めれば突き詰めていくほど面白くなっていって、大学で専門的に勉強できることに幸せを感じていた。
思い通りにならない微生物
この一年は、卒業に向けた研究がメインな毎日だった。
仮説を立てて、実験をして結果を考察し、また仮説を立てる。そんな試行錯誤の繰り返しで、「どうしてこうなるの!?」みたいなこともしばしばあった。
私は微生物を扱う実験をしているけれど、毎回彼らを実験で扱うときに、生物の不思議さに驚かされることが多い。「なぜこの条件だと、こんな結果になるのか。」といった具合に、人間側が予想していない結果になることも見てきた。
授業で教えられたような、教科書に書いてあるような公式どおりにはいかず、本当に研究に向き合うことは長い長い道のりのように感じる。
昔、発酵食品を生業にしている方と話したときに「微生物は自分の思う通りになってくれないんだよね。」と言われたことがある。
日々社会で生活していると、毎日時間に追われてせかせかしたり、予定が少しでもずれるとイライラすることがあったりする。でも、微生物たちはそんなこと関係なく、思いがけない反応を示してくる。
そして意外にも、人間がきちんと微生物に適した環境を作ってあげると、微生物たちは素直に応えてくれることが多い。
「場」が適応していないと、事が上手く周らなかったり空回ったりするのは、どんな生物でも同じなのかもしれない、なんて考えてしまう。
彼らと共にある暮らしは続く
学会で発表したときに、沢山の他大学の教授に質問をしていただき、とても嬉しかった。
自分がこれまで行ってきたことに対して意見を貰え、それらが私にとってさらに勉強になること。何よりも、同じ微生物を探究する人々の中で、議論でき共有し合えることが、この上ない幸せだった。
研究を1年弱しか続けていない歴の浅い私でさへ「研究は、孤独な道かもしれない...。」なんて思う瞬間もあったけれど、世界を広げてみれば同じ興味や専門性をもった人は沢山いて、そして、いずれ出会っていくことができると思った。だから、「そんなに孤独でもないかもしれない。」と今なら思う。
大学を卒業したら、一旦微生物の勉強からは離れてしまうけれど、私の中で微生物との繋がりはこれからも続けていく予定だ。
それは、生活の一部にあるように、自分で発酵食品を作ってみたり、趣味として学び続けていくことだったりする。
そのくらい改めて、「私はやっぱり発酵や微生物が好きなんだな。」と今回の学会を通して気づけた。
あと少しで大学生活も終わりに近づいてきた。
微生物と深く向き合えた時間は、私にとってきっとこれからも大切な記憶となるだろう。そして、それらとの関りはこれで終わりではなく、きっとこれからも私の生活と共に続いていくのだと思う。
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