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長編ミステリー コSign

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2年半費やしましたが、ようやく小説が完結しました。 「コ」は小・故・固・呼・股・娘・己など多くの字を包含する「コ」です。 別に自信がある訳ではないのですが、横溝正史ミステリー&ホ…
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#警察

6.不穏という名の

 その頃、明京大学ラウンジで、高島慶菜は奇妙な光景を目にしていた。寝不足の目を擦っても見間違えはない。演劇部の活動日で、休憩しようと入ったラウンジの片隅、退職したはずの矢野元教授と高校のクラスメイトだった英文科の多和田茜が談笑している。
 高い天井がガラス張りの窓際。学内で最も欧米大学風の場所だ。外には四季折々の花壇が見え、灌木も植えてある。小雨は先程やっと止んだ。
慶菜が、
「茜、どうしたの?」

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8.震える弥生

 痴漢、バイオレットピープル、殺人、MEA、アンダーテイカー、色川容子、加圧ジム、矢野元教授、篠崎陽晴、品田風美、アイグレー、加古を含めて捜査妨害と思われる犯行、そしてモルヒネ。要素が多過ぎて、頭がこんがらがって事件のこれといったヒントが見つからない。
 そこへ加古から着信が。
「おはようございます。いま彼女を用心しながらアパートまで送ったところです」
「そうか。彼女の名前は?」
「高島慶菜。明京

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14.誰がウィクトーリアか

 三鷹北署に戻ると、入り口前に報道関係者が来ていて、水巻という男が指名手配されているがどう思うかなどと訊いてきた。二人は何のことか分からなかったが、逆に質問すると、
「岸村の殺害犯ですよ。知らないんですか?」と言われた。最新のニュースはうっかりだがテレビもラジオも聞いていなかった。岩田が、
「それは警視庁に訊いてくれ」とうるさいとばかりに言ったが、
「連続殺人の捜査本部はここでしょ?」と別の記者が

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15.消された二文字

 茜のスマホには『明京女子』という連絡フォルダがあり、二十人ほどの人物が並んでいた。それ以外にも『他大学』というフォルダもあり、そこには九人の連絡先があった。
「この人物すべてに当たれば、実行犯がいる可能性はあるんだね?」岩田が訊く。
「そうですね。可能性でしたらあります」
「早速聞き込みをしてみる。野津、捜査本部に伝えて欲しい」と岩田が言ったとき、江頭が部屋に入ってきた。
「陽晴が証言しました。

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